まーめいどバイト 春弦サビ小説
「塩焼きそば追加3人前入りました~」
「あいよ~よろこんで~」
芽以は首にかけたタオルで額の汗をぬぐう。
豚肉とキャベツ、エビにイカ。なんだかよくわからない長い紐を炒めて塩コショウで味付け。
これって、なにでできているんだろう。イカか貝の一種だろうか。
ともかく海の家のお客さんは、この焼きそばという物体に目がない。
「ごめん!芽以ちゃん。シーフード焼きそばも入った~こっちはふたり」
「へい。了解っす~」
塩焼きそばとシーフード焼きそばのちがい?
ホタテのかけらが入っているほうが、シーフード焼きそばと呼ばれている。
ホタテのこんなちんまいのを食べても、味もなにもわからないと思うけど。ともかく海の家のお客さんは、この焼きそばが大好きだ。
わたしが作ると、独特の塩気がたまらないらしい。
「来年も会えるかな。というより、ここバラしたあとも会いたいんだけど」
なにもなかった浜辺に突如現れる建物。シーズンが終わると解体され、あとかたもなくなる。
海の家のおにいさんは、わたしにホレたらしい。
「あ…ごめんなさい。わたし実は出稼ぎで…」
出稼ぎ、というワードは古めかしいのか、おにいさんはぽかんとしている。
竜宮城の総取締役・春日姫が特別に持たせてくれた真珠のクリーム。これを毎日両脚に塗れば、わたしは人間のふりができる。
夏のあいだ、大家族を養うために必死で働く。
ちなみに春日の姫様は御年200歳ちょうど。見ためは、まばゆいハタチの乙女。
人魚といっても、姫と呼ばれるのはたった数名の王族のみ。
わたしなんて平民だから、海中の家でも非正規雇用の身。
珊瑚の森に囲まれた竜宮城の食堂で、刺身をこしらえる生活に戻るだけ。
まーめいども、ラクじゃない。
「…というわけなんです」
おにいさんは真顔になったあと、くすっと笑った。
「おもしろいよね、芽以ちゃん。それではぐらかしたつもりなんだ?」
「えっと…?」
海の家の彼は、本気だと言う。どうしよう…
(おわり)
春弦サビ小説のスピンオフ?です(もう何次創作なのやら…)
スズムラさんの人魚イラストがすばらしいので「マーメイドなサイドストーリーを作って盛り上げよう」と自然発生キャンペーン?実施中です
テーマソングは、ミモザさん&くえすさんの「迷いしマーメイド」
riraさんの人魚姫ストーリーとも、ほんのりコラボしています
夏の先取りに、あなたも1作いかがですか?
*人魚イラスト:スズムラさん
*賑やかし帯:いつきさん