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限定ショコラジェラートをどうぞ|連作小説⑨

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 桜並木をライトアップするといっても、木に負担はかけられない。きたる春に向けエネルギーをたくわえている桜たちに水を差す真似はすまい。
 五葉ごよう百貨店ディスプレイチーム・照明班が演出したのは「星降る街角 ~桜にやさしく あなたにやさしく降りそそぐ~」
 デパートと向かいの建物を細く繊細なライトでつなぎ、あたかも空に星が散りばめられているよう仕上げた。桜には指一本ふれていない屋外プラネタリウムだ。
 幻想的な青い光を浴びながら、遊歩道の出店を心おだやかにめぐる。寒風をひととき忘れ、ホットワインやホットチョコレートに癒やされるナイトマーケット。

 意外だったのが、ヒナタボコの100食限定ジェラート「ショコラオレンジ」が好評だったこと。
 ダークチョコにオレンジピューレのアクセント。ハート型のサブレを挿し、胡桃くるみローストとチョコクランチをまぶして。
「冬だよ? しかも外。女心はわからんわ~」 
 フィギュアスケート観戦で寒さに強いはずのありさも、どうにも信じられぬと首をひねっていた。
 「限定が効いたね」と花歩かほはガッツポーズ。  

 バレンタイン催事でも限定まつりである。日本限定、本店限定、バレンタイン特別仕様。年にいちどの祭典のためにチョコ貯金をしている人もいる。そんなウワサも的はずれではないのかも。
 昨年、広報部がとったアンケートによると、バレンタインの目的は「自分へのごほうび」で「予算は5万以上」が7割だった。
 名のある海外ブランドたと、数粒で1万円するチョコも。金銭感覚が狂いそうになる世界だ。

 集客力のある店舗では何十億と売り上げる一大イベント。再起をかけるわが港町店も例外ではない。
 存分に迷ってもらおうと、1粒から買えるコーナー、できたての焼き菓子にその場でチョココーティングをかけ、イートイン。ミニパフェも注文できる。
 パケ買い狙いのキュートな包装を前面に押し出す。熱心に口説いた人気ショコラティエのプレミアム試食会&サイン会。
 そのかいあってか、フェア初日は早朝から長蛇の列ができた。 

「おかあさん、じゃまじゃない?」
 一緒に住みだしてから、母はそのセリフばかりくり返す。
「恋人できたらどーすんの」
 花歩は笑うしかない。
「大丈夫。その予定はない」
「そんな自信満々に言われても不安になるんだけど……」
 堂々めぐりとはこのことだ。

 せっかく姑におびえる生活から脱したのだ。娘のことばかりでなく、自分自身の生活を楽しんでほしい。
 趣味である編み物作品をSNSに上げてはどうか。渋る彼女をなんとか誘導し、アカウントをつくらせた。手先が器用な母は撮影センスもよく、自然光を取り入れた、明るくあたたかなフォトを次々と公開した。

「なんか毎日コメントくれる友達?できた」
 目を丸くして喜ぶ。ふだんの表情もぐんと明るくなった。ハンドメイド好きのコミュニティがあるらしく、オフ会に誘われて出歩くように。花歩の願いよりもずっと早く、母の世界はひろがった。
 LINEで友チョコを贈りあう、と聞いたときには、自分より進んでいて声をあげて笑ってしまった。

 星降るナイトマーケットの桜並木。装飾がまったくないのもどうかと、編み物でおめかしする提案をした。ヤーンボミング(毛糸爆弾)という手法は、母の仲間から教えてもらった。 
 木の幹に腹巻よろしく毛糸のパッチワークを巻く。放っておいたら、芸術が爆発して手のつけられないカラフルさになる。「大人バレンタイン」「星モチーフ」と指定し、制作を依頼。
 もの珍しさと、いかにもあったかそうな見ためで、TV取材を受けるなど反応は上々。季節はずれの注目を浴び、桜もどこか誇らしげ。
 期間の後半になると、人出は想定を超えるほどになった。

(つづく)

甘い誘惑の季節( -∀・)⭐

▽前回のお話(第8話)

▽第1話~7話

#賑やかし帯 #連作小説 #小説 #恋愛小説が好き











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藤家 秋
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