帰りたい場所、待ち続けた家族の思い
父と過ごす日々、家族の願い
8月の中旬、私は出張帰りにそのまま静岡へ帰省しました。父はこの頃、別の病院に転院していました。そこは緩和ケア病棟で、終末期の患者さんたちが多く入院する場所。大部屋には、ほとんどが80歳を超えた高齢の患者さんが寝たきりで過ごしているという状況でした。その中で、父はまだ67歳。私たち家族も父自身も「まだまだこれからだ」という思いを抱いている中での、この環境…。現実が押し寄せてくるような感覚に、胸が締め付けられるようでした。
日に日に、父の体力が失われていくのが目に見えてわかりました。むくみは相変わらずでしたが、足の筋肉はすっかり失われていました。言葉を発することさえ、だんだんと辛そうに見えました。それでも、父の目には強い意志が宿っていました。
「家に帰りたい」
父は入院することを自ら選んだはずでした。それでも日を追うごとに「家に帰りたい」と思っているようでした。わたしたち家族もまた、父を「家に連れて帰りたい」と願っていました。父が育んだ家、そして私たちが共に過ごしてきたその場所で、父が望む時間を過ごしてほしいと心から思っていました。
家は布団屋です。父は「うちの布団で寝たい」と何度も言っていました。その言葉がどれほどの意味を持っていたのか…。父がずっと守り続けてきた仕事の象徴である布団。それに包まれて、少しでも安心して過ごしたいという気持ちが、父の言葉から伝わってきました。
最後まで貫いた「仕事」と「家族」への思い
父は体力が衰え、話すことさえ辛くなりつつありましたが、家業の話になると別人のような力強さを見せました。家をどうしていくのか、弟への引き継ぎの話…。父の口から出る言葉には、迷いもブレもなく、ただひたすらに「守りたい」「つなげたい」という強い意志がありました。
私はそんな父の姿を見ながら、「本当にすごいな」と改めて思いました。何もかもを失いつつある身体で、それでも家族のため、家業のために最後まで考え続ける父。その強さと責任感には、ただただ頭が下がる思いでした。
「自分もこんな風になりたい」…父の背中を見ながら、そんな風に思いました。父の生き方、その一つ一つが、私たち家族にとって宝物のような教えになっています。
今でも、父の「家に帰りたい」という願いと、仕事への熱い思いが交錯したあの日々を思い返すと、胸が熱くなります。父の存在がどれほど大きなものだったのか、そして父が家族や家業に注いだ愛情の深さを、改めて感じずにはいられません。
続く…