儚きリップの色に溶けて【美容エッセイ】
鏡の前にそっと立つ。
唇に赤やピンク、時には深いボルドーのリップを塗る。
自分が少しだけ違う世界の人になったような気がする。
真紅のような情熱的な赤、桜の花のように淡く優しいピンク。
夕焼けのように深みのある紫がかったボルドー。
それぞれの色が唇に乗ると、まるで私の気持ちまで色づくようで、何だか自信が湧いてくる。
そしてその瞬間、少しだけ夢の世界にいる気分になる。
でも、時間が経つと、その夢の色は少しずつ薄れていく。
あんなに鮮やかだったはずの赤がだんだんと色を失い、ただの素の唇に戻ってしまう。
ピンクの柔らかな輝きもやがて微かになり、無彩色の世界に戻るような寂しさが心に広がる。
ボルドーの深い色はまるで夕暮れの空が夜に変わっていくように、静かに消えていく。
リップが落ちるとき、私はその色の儚さに気づく。
あの鮮やかな色が、まるで一瞬の夢のように消えてしまうことが、少しだけ切ない。
美しい色が消えると、まるで自分の中の何かが取り残されるような気がして、心がぽっかりと空いてしまう。
でも、それでも私はまたリップを塗り直すだろう。
新たに色を乗せることで、また少しだけ自分を輝かせることができるから。
赤やピンクやボルドーが、私を少しだけ特別にしてくれるから。
色が落ちるたびに感じる寂しさを抱えながら、また新しい色を塗り、私はまた一歩前に進んでいく。