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【01】「らしさ」を消さない
vol.021未公開インタビュー、今回は小谷さんの働く就労移行支援の施設長。佐藤さんのインタビュー未公開分前半です。こちらでは小谷さんの働きぶりや、どのように指導しているかなどを語っていただいています。
就労移行支援施設は、文字通り障害のある方の就労を支援するための施設なので、いわば障害者との接し方についてはプロフェッショナルだと言えますが、インタビューの中から見えてきたのは少し意外なものでした。
g:職員としての小谷さんに対しては、どのように指導をしてきたんですか?
佐藤:そうですね、例えば利用者さん対応に関しては、小谷さんに限らず他の職員にも「まずは関係作りからやってください」とお願いしています。関係作りができてくると、徐々にその方の特性とかキャラクター、障害のことも徐々に理解できるようになってくるので、そこで障害特性に応じた働きかけをしていただいています。この方はこういうのは得意だけど、これが苦手だから少し小さめの声で声かけしてください、とか。あとは例えば知的障害の方で、「やるべきことはわかっていても、やらない」という方がいるんですが、それに対して「やりましょう」と急かすだけではなくて、理由を聞いていくといいですよとか。そういうのは初めから対応を指導しておく、というよりは、何か困り事が発生した時にやり取りして、その積み重ねでやっていく感じですね。
g:初めからこうしなさい、ああしなさいではなく、何か物事が起きた時にまずは一緒に考えるということですか?
佐藤:初めからマニュアル的な対応を伝え過ぎてしまうと、結局同じような対応しかできなくなってしまうので。小谷さんなりの対応で新しい発見とか、小谷さんの対応によって相手の利用者さんの成長が見える場面もあると思うんです。そのチャンスをできるだけ増やすという意図もあって、初めから「こうしてください」と言い過ぎないようにはしています。
g:小谷さんらしさを重視しているんですね。
佐藤:本当に真面目な方なので、伝えすぎてしまうとその通りにしっかりできる方ではあるんですけど、もっと小谷さん個人として利用者さんと接していただけるといいなと思うんです。小谷さんにはその力があると私は信じているので、そのような形で一緒にやってます。
g:こちらに来た当初から今に至るまでの小谷さんの変化を、あらためてどのように感じていますか?
佐藤:笑顔が増えたなと思いますね。当時の小谷さんは、自分自身のことを言われたり注目されたりは比較的苦手だった印象があって。でも今は自分のことに関して言われるのも受け入れられるようになったりとか。真面目な小谷さんだけじゃなくて、変わったなっていう印象はありますね。なので「真面目で近寄りがたい」っていう利用者さんも中にはいらっしゃったんですけど、今は結構打ち解けられていると思いますね。人と接する楽しさとかあったかさとか、そういうものも感じながら働けるようになっているんじゃないかなと思います。
g:それはやはり一緒に考える、というやり方に由来するものなんでしょうか?
佐藤:そうですね。それによって自分の考えを言う習慣がつくので、そこで「次にどうすればいいか」という改善に繋がったり、自分の考えを言っていく度に「自分ってこういう風に思う人間なんだ」と自分らしさがだんだんわかってくる部分もあったりするんですよ。小谷さんはここに来て自分の意見を話す機会が格段と増えたんじゃないかなと思うので、はじめは自分の意思を伝えるのが苦手だったと思うんですけど、今ではどんな質問をしても返してくれますよね。
g:それがここに来てからどんどん変わっていった部分なんですね。
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佐藤:自分の意思が言えるようになると、今度は自分に振られてない場面でも発言できるようになるんですよ。輪に入れるようになるというか、自分にマイクがない時でも話したりとか、そういう変化はすごく感じますね。今は自信を持って発言できている印象があります。
g:小谷さんが変わっていったのは、特別な対応によるものではなく結果としてそうなっていった、という感じがしますね。
佐藤:そうですね。やはり「小谷さんにだけ」という感覚を持ってなかったから今があるのかなとか。他の職員や利用者さん方に対しても、そういう感覚でやっているので。差別とか障害って何から生まれるかと考えた時、「普通」とか「比較」という言葉から僕生まれると思うんです。「普通はこうするよね」とか、「この人と比べたらダメだよね」と考えた時にそれは差別や障害につながっていってしまうんじゃないかと。なので比較しても何も生まれないんじゃないかなと考えていますし、小谷さんの場合はここが得意だからここ伸ばせるといいよねとか、ここが少し苦手っぽいからこうしよう、という働きかけを事業所全体としてやっているので今があるんじゃないかなと。
g:「配慮事項=特別扱い」ではないのがよくわかりました。たまたま利用者だった人を採用したというだけで、障害者を採用したという意識はあまり感じませんね。
佐藤:そうですね。まあ先にお伝えしましたけど、私は採用当初の様子は知らなくて、後から「元利用者の方なんです」と聞いてびっくりした部分もあるので。だからふと「そういえば小谷さんは元利用者の方だったな」という感じなので、本当に構えず、特別視せずやってきましたね。
g:障害云々ではなく個人として見ているだけで、そこには誰しも当然得意もあれば苦手もある、ということなんでしょうね。
佐藤:そうですね。先ほど「普通」とか「比較」という言葉からは何も生まれないと言いましたけど、逆に考えると普通じゃないスペシャルな部分とかある方が面白いですよね。小谷さんの空気を読まない、空気を壊す力だって私はすごい魅力的だなと、私にはない力だなと思っていて。そういう人がもっと活躍できる世の中になるとさらに面白いんじゃないかなと思っているんです。
今回はここまで。小谷さんの成長についてのお話となりましたが、取り組みとしては特別なものがあったわけではなく、小谷さんを個人として尊重し、他の職員の方々同様、力を発揮できるようにと接してきた結果としてのものでした。
次回は障害者採用について、就労支援の現場にいる佐藤さんの視点から語っていただいています。
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