【vol.025未掲載記事/教育の「あたりまえ」を変える環境を提供、 デジタルテクノロジーと行動分析学を活用する「さやか星小学校」開校】
2024年 4月1日に長野県佐久市で開校した、初年度入学の全校生徒22人と小さな小学校。その設立に3年もの期間を要して深く関わってきたアクセンチュアは、その他にも様々な形で社会貢献活動に取り組んでいます。一見事業と関わりのないように見える小学校の開校や、社会貢献活動に取り組むのは何故なのか、今号の取材をコーディネートしてくださったアクセンチュア広報部と、「さやか星小学校」にお話を伺いました
g:アクセンチュアは障害者採用の推進にとどまらず、ジェンダーやLGBTIQ+など、あらゆる角度からのI&Dの取組、地域社会への貢献、人材育成などさまざまな形で社会貢献事業を行なっているんですよね。
アクセンチュア広報:アクセンチュアは、より持続可能で責任ある世界経済の実現に向け、クライアントやパートナー、地域コミュニティと協力しながら社会課題の解決に取り組んでいます。なかでも事業活動を通じて培った「人材のスキル発揮を高めるノウハウ」を活かし、企業・市民活動において全世界で Skills to Succeed(スキルによる発展)というテーマに取り組んでいます。2023 年度は世界各地の約 430 万人に対してスキル向上の機会を提供し、それにあたっては社員の直接参加を重視しています。企画から実行までさまざまな専門知識をもった多くの社員が主体的に参画していて、標準化やIT 活用、定量的管理、継続的改善といったビジネスの手法を、社員の時間とスキルを積極的に提供することで社会課題解決の領域に持ち込み、社会的インパクトを最大化することが私たちアクセンチュアのミッションである、という考えなんです。
g:そういった取組のひとつとして「さやか星小学校」にも関わってきたそうですね。
アクセンチュア広報:さやか星小学校の設立にあたっては、総合コンサルティング企業としてアクセンチュアが「一人ひとりの個性を伸ばし、尊重しながら次世代人材を育成する」という理念に賛同し、社会貢献活動の一環として約 3 年前から支援してきました。小学校のコンセプト開発や事業計画策定、校舎・許認可取得に向けた自治体との交渉などのほか、児童の成長を測るデジタルツールの構想や開発者開拓、さらには学校のロゴや映像の制作、校舎設計なども行っています。
さやか星小学校:もともとは、アクセンチュアさんの社内で、サテライト従業員のパフォーマンス向上と「幸福度」を高めるためのミッションがあって、当学校法人の創立者の奥田健次理事長に相談依頼がありました。行動分析学のテクノロジーを使ったまったく新しい支援が提供され、そこで成果を上げたことからのお付き合いが始まりました。
アクセンチュア広報:奥田先生が監修されたプログラムによって、サテライト従業員だけでなく会社組織全体にまで大きな変革が生まれました。それで、さきほど申し上げたように社会的インパクトを最大化するために、さやか星小学校への支援が必要だということになったのです。
g:「デジタルテクノロジーと行動分析学を掛け合わせた小学校」ということですが、どういった小学校なのでしょうか。
さやか星小学校:さやか星小学校は、テクノロジーを駆使して一人ひとりの学習進度に合わせた個別プログラムの提供と、行動分析学を用いて他の公立・私立学校にはない教育を受けられる小学校で、学習・評価・対人関係といった教育の「あたりまえ」を変える環境を提供する小学校なんです。さまざまな観点から子どもたちを見つめ、テストの点数だけでは見えない「自分らしい軸」を大事にしながら他者の軸も尊重し、変化の時代を生き抜く人を育てることを目的として設立しました。
g:学習・評価・対人関係といった教育の「あたりまえ」を変えるというのは、具体的に既存の学校とどのように違うのでしょうか。
さやか星小学校:私たちは、現在の教育を「成績が良い子」「勉強が良くできる賢い子」のような、学力の高い子どもが評価されやすく「ひとつのものさし」で測られることが多いものと考えています。でも、本当に子どもたちのため、そして社会のためになる教育は「ひとつのものさし」で評価せず、それぞれの強みを伸ばすことに注力し、多様なものさしで自分の可能性を発見できることにあると考えています。さやか星小学校はそんな「マルチものさし」の考え方が当たり前となる教育を目指している学校なんです。
g:一人ひとりの子どもとより向き合う教育環境、ということでしょうか。
さやか星小学校:そうですね。さやか星小学校では同じ教室の中でも、一人ひとりの学習速度に応じた授業を提供し、それぞれの能力を伸ばしていく授業となっています。それに既存の学校では問題行動とされている振る舞いは、取り締まってやめさせる「指導」が行われがちです。そうではなく、望ましい行動を身に付けるポジティブな「支援」を行うべきです。子どもの対人関係構築についても「学校で教わるべき学びのひとつ」として、他者との適切な関わり方を教職員や親が導くようにしているんです。
g:クラス全員が同じ授業を一定の速度で受け、一律の評価をされる「あたりまえ」や、子ども同士のトラブルや人間関係に踏み込まず、子どもの自主性に任せてきた「あたりまえ」とはかなり違いますね。
さやか星小学校:そうですね。そういった「あたりまえ」は、既存の教育が多様性ある学びや子どもの安心・安全にコミットしてこなかった結果だとして、終わらせるべきものだと考えているんです。さやか星小学校はまったく新しい教育方針と方法で、自分や他者の軸を尊重する人を育てることを目的としている学校なんです。
g:それらを実現するために、行動分析学やデジタルテクノロジーが活用されるということなんですね。さやか星小学校:その通りです。さやか星小学校では「学校生活に悩む子どもを生み出すのは自分自身ではなく、環境にある」という考えのもと、子どもたちの共生を実現するために行動分析学とデジタルを駆使して先進的な教育を行います。 デジタル学習支援ツールを用いて、一人ひとりに合わせた「パーソナライズ学習」や、スクールワイド PBS(※1)を導入して目標となる行動を可視化することで、「問題行動を減らす」のでなく「望ましい行動を増やす」環境づくりをすること。さらに、「いじめ防止の3R プログラム(※2)」を日本で初導入し、子どもの人間関係に教職員と親が一緒になって積極的に関わり、安心・安全な学校風土づくりを行うなど、さまざまな取組があるんです。それに加え、通常の学校カリキュラムとは別に、自主的な心を育む農業クラブや、働くことを考える産学協同カフェなど、子どもが能動的に学び、多面的な興味を得る特別な授業体験も準備しています。
(※1)スクールワイド PBS:子どもに望ましい行動を具体的に設定して、その行動ができた際に賞賛・承認をすること、そして目標として行動が起こりやすい環境を整えることで、望ましい行動を身に付けることを目指す教育メソッド
(※2 いじめ防止の 3R:いじめの問題を大人の問題として捉え、未然に防ぐために大人がとるべき行動の「3R:Recognize(認識)、 Respond(対応)、 Report(報告)」を浸透させるべく、すべての教職員・保護者向けに提供されるプログラム
g:既存の学校と大きく異なるのはよくわかりました。アクセンチュアがこの学校の設立に深く関わってきた理由を、あらためて説明していただけますか?
アクセンチュア広報:アクセンチュアには「人材課題の解決こそが、その国を豊かにする」という考え方があって、冒頭でご紹介した「Skills to Succeed」というテーマのもと、世界中で人々のスキルアップ支援活動に取り組んでいます。ですからさやか星小学校の設立にあたっても、アクセンチュアの戦略コンサルタントからデジタルの専門家、クリエイティブ人材まで、幅広い社員が支援をさせていただきました。デジタルと行動分析学で児童一人ひとりの成長に寄り添うさやか星小学校とともに、インクル ーシブな未来の創造に取り組んでいけたらという思いです。
g:今後の展望について教えてください。
さやか星小学校:今後は行動分析学に基づいた教育を実践しつつ、継続的改善を続けていきます。同時にデジタル教材や校務支援システムを関係機関や企業と協業して開発を進めていきます。これらについて情報公開の機会を多く設け、他の公立学校や私立学校でも利用可能なコンテンツを提供していきたいと考えています。社会人の学びのための「越境学習」や、さやか星小学校を都会に住む子女たちが体験できる「疎開学校」などの計画もあります。
さやか星小学校は、行動分析学の哲学とも言える「Organism is always right」を大切にしているんです。この言葉の意味は、少し意訳すれば「学習者は常に正しい」ということなんですが、この立場に立つと今までの「あたりまえ」が大きく崩れてきます。例えば、算数の九九がどうしても覚えられなくて何度も間違ってしまう子を、一般的に教師や親は「間違ってしまう子ども」と考えてしまうのですが、行動分析学ではそうは考えないんです。「学習者は常に正しい」のであれば、「その子が覚えられないのは、今の指導方法の方が間違っているから」ということになりますよね。そうなると指導や支援方法、場合によっては目標の見直しなども当然行われることになるんです。学びにおいて「指導者である教師や大人が常に正しい」ということではないんですよね。こうした行動分析学の哲学に基づいた学校は、世界的にみてもまだわずかしかないんです。
話を伺ってみると実にアクセンチュアらしく、「人材こそが企業の資産、多様な人材が共に働くことは経営戦略」と言い切る企業ならではの取組なのだと感じました。
これまでの取材でも、アクセンチュアには「一人ひとりと向き合うこと」が企業風土として根付いていると感じます。ジェンダーや障害、性自認や性的志向などによって個人がカテゴライズされる社会において、その企業風土と経営戦略によって多様な人材活用を推進した結果、成長を続けてきた企業の姿勢は「世界的大企業にしか持ち得ない特別なもの」ではなく、実にシンプルなものです。その気づきに、安心と希望を感じる取材となりました。
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