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【#先人の教訓】大洪水から人命救う 日田・人助けのムクの木
温暖な気候と緑豊かな自然に恵まれている大分県は、さまざまな自然災害を繰り返し経験してきた。そのうち、平成29年、令和2年と近年、複数回発生している風水害は甚大な人的・物的被害をもたらした。例えば、令和2年7月の記録的豪雨では日田と由布の両市で計6人が犠牲となり、被害額は558億円に上った。
こうした現状を踏まえ、自然災害による被害を低減させるために私たちは何をどうすべきか。その手立てのひとつとして、過去に発生した災害を振り返ることが有効だと考えられている。そこで、水害常襲地と言われる日田市で、過去の災害を伝承する「人助けのムクの木」を取材した。
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同市中心部を流れる三隈川沿いに1本のムクの木が静かに佇んでいた。根元には白い鳥居と奉納箱が添えられ、神聖な空気が漂う。なぜだろうか。
2019年6月から国土地理院は、過去に発生した自然災害の様相や被害の状況などが記載された石碑やモニュメントを「自然災害伝承碑」として登録している。同市若宮町の「人助けのムクの木」はそのひとつ。
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地元町内会が作成した説明看板には、明治22年10月、三隈川で洪水が発生し、逃げ遅れた63人がこの木に登ったり、舟を繋いだりして助かったと示されている。また、大正10年にも発災し、30人がこの木に登るなどして助かったという。
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こうした功績を称えるため、地域の住民は大切にムクの木は保存してきた。その証に道を挟んだ向かい側には「霊木保存記念碑」という石碑が建立されている。
人助けのムクの木をはじめ、大分県内に位置する自然災害伝承碑は、NHK大分放送局と大分大減災・復興デザイン教育研究センター(CERD=サード)が共同で運営する「大分県災害データアーカイブ」に記録されている。ぜひアクセスして、居住地にどのような伝承碑が存在しているか確認してほしい。【山口泰輝】
※この記事は、4月8日発行の「GENSAI PRESS 5号」に掲載されています。以下の紙面は、ダウンロードできます。
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