「海岸通り」 坂崎かおる 感想
〈 あらすじ 〉
※本文に触れているためネタバレにはご注意下さい。
「海岸通り」坂崎かおる
第171回芥川賞候補作。
とてもよかった…また好みの作家さんに出会えた。
海辺の老人ホームで派遣清掃員として働くクズミはウガンダからきた新人のマリアに仕事を教えることになる。
同僚や施設の入居者達、在日外国人によるコミニティなど繊細な問題がある中で時にクスッとしてしまうようなクズミの比喩がとてもいい。身構えていた分、語り手が思いの外軽快で文章も読みやすく、面白かったです。
入居者である『サトウさん』の日常のルーティーンに自分が組み込まれているといったクズミの視点が好きです。人をちゃんと見てる感じがして。
またマリアの歓迎会のときに、イカをいつまでも飲みくだせない元同僚の神崎を見て、彼女が火葬されたら香ばしいにおいが漂わないだろうか、という思考もなんだか面白い。神崎さんは仕事がテキトーで翌日シフトに入る人が大変だったり、入居者たちからクレームをもらったりしてもサバサバしてるというのか、無神経というのか、肝っ玉が戦国武将並みだと表現したクズミは絶妙。身近にもいそうだなぁと。
そして、最後の方で事務所の上司の三島さんに、『わたしはマリアさんを知っています』と叫ぶように言ったクズミが印象的で、ツバを飛ばしながら彼女の潔白と清廉を訴えたシーンには心が奮えました。
最終場面、母子が嗅いだ『におい』とはどんなにおいだろうか?男の子が言った「僕、これに、会ったことがある」にクズミはにんまりとする。
体臭については、マリアから嗅ぐわってくるにおいの描写もある。におうけど、不快とはまた違う、人と人が隣にいてこそ気づくことがある。色々想像が膨らむ作品でした。読了感はどちらかというと爽やかというか優しさに心が暖かくなる感じで、気持ちが重くならない。海の磯や塩のかおり、波の音、海岸へ続く道、錆びた鉄柵、風薫る風景に気持ちが凪ぐようで、とてもよかったです。
坂崎かおるさんの既刊の作品や今後の新作も追っていきたいです。
2024年7月17日、読了
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