映画「 碁盤斬り 」 感想
※物語に触れているため、未鑑賞の方はネタバレにご注意下さい。
映画「碁盤斬り」
__ 思っていた以上に囲碁侍だった。
まず初めに、音尾さん疑ってすみませんでした。
白石監督作品は凪待ち以来二作品目。お金の紛失事件をきっかけに、あの人が怪しいとかあの人は裏切りそうだとか、いろいろ勘繰ってしまって格之進様に一刀浴びるべきだったのは自分だった。時代劇は剣戟も好きだけど、やはりドラマ部分がしっかりしてこそ秀逸な作品になるのだなと思った。
そして今回も主演の草彅剛さんを始め、清原果耶さん、國村隼さん、斎藤工さんたちの名演に心が動かされました。商人の源兵衛と格之進が打ち解けて囲碁仲間になったときのあの國村隼さんの笑顔はどこでも見たことがないほど優しくて、まるで素のようなお顔に、こちらも一緒に微笑んでしまうほどとてもよかった。中川大志さんや奥野瑛太さんも今回はとてもいい役どころでしたね。若い人が泣いたり迷ったりする姿は、けして滑稽ではなくそのキャラ自身の成長や真摯なる決意を導き出すきっかけにもなって、思い入れが強くなります。前半は格之進と源兵衛の友情シーンが主なので、このまま囲碁を打ちながら、こんな平和が続けばいいのにと思ってしまった。まぁ物語上そうはいかず。
__ 人情物としてこれぞ観たかった時代劇。
碁盤を挟んだ戦い、ヒリヒリするような駒運びの一挙手一投足に固唾をのんで見守りました。剣戟は少なかったものの、その分静と動の緩急が見事で、緊張感もあってよかったです。囲碁のことをもっと知っていたら、分かることも増えたのかな。命をかけて昼夜囲碁をする二人を囲んで、周りの人たちの顔色と空気がどんどん変わっていく。また、見守る側の観客による盤上の説明もあって、同じく一緒にのめり込んでいきました。見栄や虚ろな斎藤工さんの敵役、とてもいいですね。
予告の「忘れておらなんだっ!!!」って台詞は敵に対してじゃなかったんですね。武士としてまた人の道として選択することの責任、剣戟だけでなく物語が本当によかった。草彅さんの佇まいや表情の変化、声音など、より物語に深みを与えている。人情物としてこれぞ観たかった時代劇。最後の格之進の強行に、どうかどうかと願わずにはいられなかった。
武士としての矜持に限らず格之進自身の己の行いに関して自問自答もあり、ラスト含めて家族への愛を貫いた素晴らしい作品でした。
格之進様の行水って、剣の鍛錬でもするのかなと思っていたら、別の理由だったんですね。なんで濡れ衣で切腹しようとするのか疑問を持つ人もいそうですが、武士というのは清廉潔白でがあるが故に切腹して汚名を減らすという生き物だったなと、思い出しました。他の時代劇ものでもそんなシーンがありました。冤罪で藩を追われて、友となったお家からも盗人容疑で冤罪を被る、なんて因果なものなんでしょうね。
そんななかでも、格之進様は潔癖すぎるくらいの真っ直ぐなお人柄で、武士の中の武士だった。プライドとかではなくて、囲碁では勝てる盤面でも身を引き、悪い人が騙そうとするのを黙っていられずに仲裁するような、優しい人でもあった。格之進が旅立つ理由は、以前自分が糾弾して藩を追われることになったた人たちの元へと向かったためと、私は受け止めました。彼の向かう先には、怒りや責苛む言葉が待ち受けているかもしれないけれど、心の中ではきっと囲碁のように軽やかで澄んだ音を鳴らし続けてていることでしょう。
鑑賞後の晴れやかな気持ちをそのまま友人や家族にも話したいと思います。お薦めです。
2024年5月19日㈰ 鑑賞
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