魚の骨が刺さった、二の腕に。殺される、と思った。【煮付かれ Part3】
作:小出
私は完全にやばい奴の巣に入ってしまったのだと悟った。訳がわからないが、この部屋には私の味方はなにもなかった。完全なるアウェーだ。戦える武器がない。アスカの手にはまだしっかりとカレイの骨が握られていたし、その骨は現在進行形で私の二の腕の肉を裂いていた。けれど、何となく、ここで引き下がるわけにはいかないと思った。私だって別に来たくてここに来たわけじゃないんだから。
「なに、文句言うために誘ったわけ?」
二の腕から血が出ようが屁でもない、というそぶりで答えたが、実際には傷口に煮付けの汁が触れる衛生面だとか、どさくさに紛れてどこかのタイミングで骨を抜こうとかそういう事がフル回転で脳内を駆け巡っていた。
「気色悪いのよ、あんたたちみたいに人の血を吸ってつるんでる様な奴らが」
私からすれば何を言われても二の腕にカレイの煮付けの骨が刺さっている方が気色悪い。
「人の血を吸って生きるドラキュラの苦悩を考えたことがあるわけ?!」
私はそう言いながら自分の皿をアスカと反対方向に避けた。私の皿にはまだ誰にも刺さっていないカレイの骨があった。2本目を刺されたらたまったものではない。
「なに?急に変な話しないでよ」
自分でも何を言っているのだろうと思った。たしかにドラキュラの話を急にするのはおかしいかもしれないが、よっぽど急に魚の骨を二の腕に刺す方がおかしい。
「たしかにね!!」
そう言って私はさっと立ち上がった。その瞬間私の二の腕からアスカの手が離れた。完璧なタイミングだ。
「私はあんたたちとは違うんだから!人に順位を付けて値踏みして虫みたいに這いずり回ったりしない。本当にヘドが出る」
ヘドを出すのは私の二の腕から出ている血を止めてからにしてほしい。
「自信のなさを人のせいにするのやめたら?よっぽどゴキブリの方が堂々と生きてるよ!」
と言いながら自分の荷物が全てカバンの中に入っている事を視野の片隅で確認した。
「なんで今ゴキブリの話するのよ!」
たしかに食事中にゴキブリの話をするのはまずかったかもしれない。しかし食事中にカレイの骨を人の腕に刺すのはどうだろう。しかも煮付けだ。塩焼きのそれよりもさらに罪深い。
「ゴキブリは人の身長に換算すると時速300km以上のスピードで走るらしいよ!!」
ここでバッと走り出して玄関へ向かい、入り口の花瓶を倒して水を撒き時間稼ぎをしている間に靴を履いて外へ出る。エレベーターの隣の階段をダッシュして下れば、ここは3階だから、まだエレベーターを呼ぶよりは早いはずだ。この瞬間のために私は高校3年間陸上部に所属していたのだと確信した。
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Part3は以上です!
この記事は前記事【煮付かれPart1】の続きです!
はじめましての方は下記リンク初回記事から!
https://note.com/genkinamaigo/n/n9922fad22a02
【煮付かれ】はPart3から小出が書いています。この文章を谷口に見せる前に友人に読んでもらったところ、塩焼きの骨の方が罪深いのではないか(傷口に塩がしみる・骨が塩焼きの方が鋭そう、とのこと)、と指摘を受けました。笑 でもなんか、傷口に汁が入る方がなんか、なんか嫌じゃないですか!!(語彙力)その後そのまま谷口に見せましたが、谷口からは何も言われなかったので、これは2人の総意だと思って、強い意志でそのまま投稿しました。
それでは、Part4もお楽しみに!
小出