帰るたびに実家が縮んでいく【かな part2(完結)】
スーツケースを置きに8ヶ月ぶりぐらいに自分の部屋へ行くと、またひとまわり、部屋が縮んでいた。あの壁、昔はよくジャンプして届く届かないとしょうもない遊びをしていたっけ。柱には薄くなった身長の跡。埃のかぶった姿見。前に来た時からこの部屋の時間は進んでいないのにサイズは縮んでいた。なんとなく親戚たちとはワンクッション置いてから会話がしたくて、ベッドへ上半身をあずけた。小学生の頃怖くてたまらなかった天井のシミはあの頃の大きさのままだった。
初めて父にぶたれたのはこの部屋だった。高校生の頃どうしようもない反抗期だった私は連絡もせず家を1週間離れた。帰ってこの部屋に入ると、間も無く父が階段を駆け上がり扉を開けた。初めて見る怖い顔だった。頬を軽く叩かれ、怒鳴られる、と思ったが父は私を抱きしめて「無事でよかった」と言った。こんな時まで私を責めず、また喉の奥がツンとなった。ゆっくり涙が出たのがわかった。
階段を降り、仏間へ行くと箱に入った父がいた。線香に火をつけ、手を合わせた。「ただいま。」返事はなかったけど、微笑んでいる気がした。また喉の奥がツンとして、喉から目頭を裂くようにして涙が溢れてきた。怒られたあの日以来、初めて人前で泣いた。お父さん。ごめん。嘘をついてごめん。心配をかけてごめん。何一つ、大きくなれずにごめんなさい。帰るたび「おかえり、」と微笑んでくれる父を思い出してどんどん泣いた。世界一可愛げのない娘で本当にごめんなさい。
程なくして私は神戸の会社を辞めた。誰のためでもない。「OLは毎日同じことの繰り返しで、すぐおばさんになっちゃうよ。」と、ロボットのように働いていた私も今となっては笑い話として生徒たちへ話している。先生の朝は早い。「いってきます。」「いってらっしゃい。」父のいない実家は、また一回り縮んでいる気がしたけど、これは私が大きくなっているからだと思う。
おわり
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これにて【かな】は完結です!
次回からは小出が書いた作品を上げていきます。
自作は全5話程あり少し長いですが、
どうかお付き合いただけると幸いです!
では!次回もお楽しみに!