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リーダーシップ論(著:ジョン P. コッター、訳:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、黒田 由貴子、有賀 裕子、ダイヤモンド社)
33歳(当時の史上最年少記録)でハーバードビジネススクールのテニュアを獲得したコッター氏がハーバードビジネスレビューに発表した論文を収録した本。
本書の最も重要な主張:リーダーシップとは変革を起こす力である
本書を読んでまず何を頭に叩き込まないといけないかというと、「リーダーシップ=変革を起こす力」。これである。
リーダーシップという言葉はよく使われるが語義が曖昧で、使う人によって意味していることが大きく異なる。他人をぐいぐいと引っ張っていく牽引力を持つ人、圧倒的な行動力で周りを巻き込んで仕事をしていく人、強いカリスマ性で組織を率いていく人。一般的にはこういった人が「リーダーシップのある人」として表現されることが多いと思うが、本書の定義によればこういった要素は本質的にはリーダーシップには関係ない。
変革が起こせるかどうか。変革をリードできるかどうか。この1点のみがリーダーシップの有無を決めるというのが、本書の根幹にある考え方だ。
変革とは何か
それでは変革とは何だろうか。変革とは、「既存のシステムから新しいシステムに組み替えること」である。
企業がビジネスを行っているということは、何かしらのビジネスモデルがあり、それが有効に機能してきたということだ。そしてそのビジネスモデルを成立させる組織基盤が、その企業には備わっていたはずである。
このビジネスモデルと、それを成立させている組織基盤をセットで「システム」と呼ぶとしたら、これまでずっとそのシステムが有効に機能してきたのに、段々とその有効性が低減してきたときに、経営環境に適応した新しいシステムへと組み替える必要が出てくる。このシステムの組み替えが「変革」である。
ますます変革が必要となる=リーダーシップの必要性が高まる
経営環境の変化はどんどんと早まっており、その変化に対応するために企業はますます変革が必要となっている。つまり、リーダーシップの必要性が高まっている。
本書によれば、例えば企業やマネジメントには次のような変化が起きている。
優秀な経営幹部はかつては勤務時間の4割程度をリーダーシップに費やしていたが、今では最大8割に上る
大企業の事業部や大半の企業は、中規模の組織変革を少なくとも年に一度は実施し、4-5年に一度は大きな組織変革に取り組まなければならない
リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップ=変革を起こす力、という図式をより深く理解する上で、リーダーシップとマネジメントを比較してその違いを押さえておくことは重要だ。両者を同じようなもの、もしくは重なるものだと考えている人は少なくないが、リーダーシップとマネジメントは補完関係にはあっても重複関係にはない。
リーダーシップは前述の通り、変革を起こす力を指す。一方でマネジメントは、「既存のシステムを動かし続ける」ものと本書では定義されている。言い換えれば、リーダーシップは既存のシステムを刷新するもの、マネジメントは既存のシステムを運用・改善するものだと言えるだろう。システムの外で考え行動するのか、システムの内で活動するのかが最大の違いだ。
このように両者の性質は全く異なる。故に、両者を構成する要素も異なる。リーダーシップでは、ビジョンや戦略の策定、そこから逆算した人員の結集、そしてその人たちのエンパワーメントが求められる。一方でマネジメントでは、計画・予算の策定、組織編制・人員配置、そしてそれらの統制と、いわゆるビジネスサイエンスが求められる。ソフトとハード、という対比でも語られる。
マネージャー=マネジメントをする人ではない
このようにリーダーシップについて理解を深めていくと、マネージャーの仕事はマネジメントだけではないということがわかってくる。経営環境が移り行く現代では、マネジメントはマネージャーの主要な仕事ですらなくなりつつあり、それに代わってリーダーシップが主要な仕事になってきていると言える。
本書で語られていることとして、リーダーシップが必要な場面でマネジメントを用いるマネージャーがあまりにも多く、それが変革を妨げる大きな要因の1つだということだ。リーダーシップとマネジメントが、それぞれ全く別ベクトルを向いているものだと理解できれば、なぜ変革時にマネジメントが機能しないのかがよくわかるだろう。
優秀なマネージャーは計画的な行動を取らない
優秀なマネージャーは、リーダーシップとマネジメントの違いを直感的に理解している。そして、マネージャーが組織において重要なポストになっていくほど、仕事においてリーダーシップが占めるべき割合が上がっていく。
そのため、優秀な経営幹部(シニア・マネージャー)は、マネジメント業務のような統率の取れた仕事は他人に任せ、自分では行わない。その代わりに、リーダーシップに労力を注ぐ。
そこでは、生き物としての組織に正面から向き合う必要があるため、計画的な仕事の進め方にならない。不確実性の高い状況下で、日々変化に対応しながら、経営イシューを見極めて一点突破する道を示す。
これは以前紹介したヘンリー・ミンツバーグの「マネジャーの仕事」でも着目されていた点だ。マネージャーの仕事は、通常想像されるような経営計画と連動したものにならない。ミンツバーグは「マネジャーの仕事はアートである」と表現している。
おわりに
本書は、リーダーシップとは何か、マネージャーに求められるリーダーシップとはどのようなものか、その本質を理解する上で好適である。各論文は本質を突いているが故に、現代でも決して色褪せない。