【論文まとめ】意識のメタ-ダイナミックな性質

以下は、論文「The Meta-Dynamic Nature of Consciousness(意識のメタ-ダイナミックな性質)」の要約です。(要約にはChatGPT-4oを使用し、注釈を加筆)

Barnden JA. The Meta-Dynamic Nature of Consciousness. Entropy (Basel). 2020 Dec 18;22(12):1433. doi: 10.3390/e22121433. PMID: 33353084; PMCID: PMC7766282.

1. 背景と問題意識

意識が物理的な宇宙の中でどのように存在するのか(あるいは存在し得るのか)は哲学・科学において未解決の難問です。本論文では、意識の物理的基盤に関する新しい哲学的理論「メタダイナミック理論(MDyn)」を提案し、その初期的な数理モデルを提示します。この理論は、宇宙の規則性を生み出す「力動性(dynamism)」を物理的実体として再定義し、意識がこの力動性とその自己感応性(auto-sensitivity)を基盤として成り立つことを主張します。


2. MDyn理論の核心

MDynは、以下の哲学的および物理的主張を中心に構築されています。

  1. 力動性の物理的再定義

    • 力動性は宇宙の「因果的推進力」であり、物理的世界の基本的構成要素として再定義されます。

    • この力動性は、空間や時間の中で物理的状態を結びつける「因果的相互作用(causal interaction)」を担います。

  2. メタダイナミズム(meta-dynamism)

    • 力動性自体が他の力動性や物理的対象に作用する「メタ的な因果作用(meta-causation)」を持つことを提案します。(注:つまり、因果関係を生起する力動性のあいだにも上位の因果関係がある。「因果的相互作用そのものが、因果的な影響を受ける事象」をメタダイナミクスとする)

    • 意識は、このメタダイナミズムが自己感応的に作用する(自分自身の力動性に反応する)システムとして定義されます。

  3. 意識と自己感応性

    • 意識は、自己の力動性に対する「メタダイナミックな自己感応性(auto-meta-dynamic sensitivity)」によって成り立つとされます。

    • さらに、この自己感応性が意識そのものを構成するとする「強い同一性理論」を支持します。


3. 哲学的立場

MDynは、以下の哲学的な特徴を持ちます。

  • 反ヒューム主義的世界観

    • 宇宙の規則性は単なる偶然や観測者の視点によるものではなく、実在する力動性(「推進力」)に由来するとします。(注:ヒュームの因果論においては、原因と結果の関係は必然的ではなく、観察者の経験連鎖における習慣であるとされるが、MDynでは原因と結果は実在的なつながりがあるする。また、たんなる条件づき確率などでは因果関係という事象に完全に説明がつかないとする)

  • 前反省的自己個別化・自己感応性(PRAIS: Pre-Reflective Auto-Individuating Auto-Sensitivity)

    • 意識は、反省的な自己認識(自己意識)ではなく、物理的なプロセスとして自己の存在に感応(注:自己の力動的状態に応答すること)する「前反省的自己感応性」によって特徴づけられます。(注:意識の本質として、意識が自分自身を感覚している必要はなく、単に物理的プロセスにおいて自己の力動的状態に応答する能力があればよいとうこと)

    • PRAISには、「自己個別化(Auto-Individuation)」の要素が含まれます。これは、意識的なプロセスが、自分自身を外部の世界や他のプロセスから区別し、物理的に独立した存在として感応することを意味します。

    • 具体的には、意識的なプロセスは以下を満たす必要があります:

      • 自分自身の力動的な活動に特定の形で感応する。

      • その感応性が、外部の力動性には向けられない(つまり自己と外部を区別できる)。

  • 非自己中心的意識(Non-Egoic Consciousness)

    • 意識は必ずしも「自己」や「私」という概念を含む必要はなく、非自己中心的な形態の意識も含まれ得るとします。


4. 物理的理論の特徴

MDynの物理モデルは、以下の新しい要素を導入します。

  1. 力動性と物理法則

    • 現在の物理法則を拡張し、力動性やメタダイナミズムを明示的に含む新しい物理法則を提案します。

    • これにより、物理法則は「時間的非局所性」を持つようになり、過去の状態や力動性が現在の状態に直接影響を与える形になります。

  2. 数理モデル

    • 簡単な物理システムの数式例を示し、意識を構成する自己感応的なメタダイナミズムを記述します。

    • 例として、過去の力動性が現在の状態に統一的に影響を与える「時間跳躍的メタダイナミズム(time-hopping meta-dynamism)」が挙げられます。

  3. 意識の部分的純粋性

    • 意識は、外部との相互作用が少なく、自動感応的なメタダイナミズムからほとんど構成される「ほぼ純粋な意識(almost-pure consciousness)」として存在し得るとします。(注:外部や自己の知覚や認識のない、「存在の感覚」のみでできた現象的意識がありうるということ)


5. 議論と今後の課題

  • 意識の単純性

    • 意識は、その根本的構造において非常に単純であり、自己感応的なメタダイナミズムによって定義されると主張します。(注:現象的意識の条件として「自らを意識していること」などの自己知覚の条件は課さない。意識の必要十分条件は自己感応的メタダイナミクスである。そのため、MDynは意識の創発説や付随説ではなく、物理主義的な同一説となる。ただし、物理法則をメタダイナミクスが表せるように発展させる必要はある。さらに、自己感応的メタダイナミクスは脳以外で実現することは許容するので、基盤独立的である)

  • 他理論との関係

    • 本理論は、統合情報理論(IIT)や量子力学的理論(例:Orch OR理論)と相互補完的な関係を持つ可能性があります。

  • 物理学への応用

    • 本理論は、量子力学や一般相対性理論の枠組みの中でさらに発展させる余地があります。また、意識の基礎的な感じ(例:自己存在の感覚)を説明するための基盤を提供します。


6. 結論

MDynは、意識の基盤として「メタダイナミズム」という新しい哲学的・物理的概念を提案します。この理論は、意識の感応的な性質を物理的に記述する枠組みを提供し、意識の「純粋な形態」をも説明可能とします。本理論は、意識研究や物理学の基礎的な問題に新たな視点を提供する可能性を秘めています。


感想

この論文では、因果関係自体を実在するものとして、それを生み出す力動性を扱えるように物理法則を拡張したうえで、みずからの因果関係を生み出す力動性自体と因果関係を作るメタ力動性こそが意識であるとする。
つまり、意識は物理学で扱うことができるが、既存の物理学を拡張しなければいけないという、拡張型物理主義である。
意識論としては、インフレ的アプローチともいえるだろう。(既存の道具立てで十分意識を解明できるという、デネットに代表されるようなデフレ的アプローチと比較すれば)
伊藤計劃以後の日本SFでは、意識の哲学としてはデフレ的アプローチが多く使われる印象もあるが、豪華絢爛なバロック的理論に基づいたSFを書きたいという欲望はわたしにはある。そうした背景もあり、楽しく読めた。

このアイデアを最初知ったとき、連想したのは「人生の価値の哲学/実存哲学」である。メタ力動性説を採用するならば、「わたしたちはなにをするべきか?」という問いには、「みずからが作り出している因果関係を、さらに作り出すように、みずからと因果的関係を構築せよ」という答えになりそうだ。(わたしの日常的な例でいえば、作品を書くという各因果プロセスを導き、さらに、みずからがそれらの因果プロセスを適切に作り出せるような状態に調整することこそが目的となる)

また、倫理学に応用することも可能かもしれない。帰結主義では結果を倫理的スコアの評価対象とするが、そうではなく、因果関係プロセスを評価対象とするという立場だ。メタ力動性理論を採用すれば、われわれは、結果だけでなく、因果関係プロセスを引き起こす能力を持っているから、倫理的評価の対象として因果関係プロセスのほうを見ることは妥当だろう。
このように、基礎の形而上学でどのような説を採用するかにより、実践哲学に近い倫理学の説にも影響が出るという気づきがあった。

SF的に考えると、自己感応的メタ力動性が意識だとすると、さらに、そのメタ力動性を生起するメタメタ力動性はどうなるだろうか?意識よりもスゴイなにかなのだろうか?メタはどこまでつけることができるのだろうか?

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