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011_DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN「DCPRG3/GRPCD2」

窓の無い部屋に入れられて、辟易している。一体ここはどこだろう。何なんだ、朝目覚めたら、泊まっている札幌のホテルの部屋のドアのベルが急に鳴って、そしたら作業服を着た訳のわからない連中に無理やり連れてこられて。全く意味がわからない。そもそも俺はパジャマなんだぞ。いい加減にしてくれ、どいつもこいつも。なんでこう、俺の邪魔ばっかりしやがる。

お袋もお袋だ、いくら息子の俺の素行が気に入らないからって、まさかあんな訳のわからない連中に頼んで、俺を部屋から連れ出させるとは。なんてこった、くそ、そこまでやると思わなかった。どちらしても、俺は絶対に親父の後釜なんかに座るつもりはないからな。最初から、俺は自分に好きに生きさせてもらう、ってことで大学を卒業したすぐ、5年前に忌まわしいあの家を出たんだ。

親父が死んだことで、俺にお鉢をまわそうってハラなんだろうが、あんな家に帰るなんて金輪際まっぴらだよ。弟の真杉もいるんだ、あいつに全部やらせればいいんだ。協会のことなんて知るか、どう考えても、俺はあんなものをまとめる器なんかじゃない。というか、あんなペテン師集団のトップなんか、もう死んでも嫌だね。窓のない部屋の天井を仰いで、俺は大きく喘いだ。

「アンタ、まだ意地張っているんかい。」言ったか言わずか、年配の女がドアを開けてゆっくりと入ってきた。全身黒の服にパールのどぎついネックレスがギラついてやがる。昔よりも明らかに化粧が濃い。ほら見ろ、案の定、お袋だ。この女が俺を連れ出したのか。ペテン師の妻の、いかにもやりそう手口だ。

「俺はやらないって、前から言ってんだろ。」

「まだ、そんなこと言ってんの!いい加減、自分の立場つーものを理解しなさいよ、アンタは」

「嫌だ」「だから、大人になれって言ってんの」

「そんな風にして、俺をずっと騙して、親父の後を継がそうとしても、ダメだからな。もう俺はいい加減、飽き飽きしているんだ。真杉にやらせらいいってって言っているじゃないか」

「あの子じゃダメなんよ。協会のことはあの子じゃ回せなんのよ。あの子は大人しすぎるの」

「大人しいから、アンタらの言うこともよく聞いて、余計に好都合じゃないか。」

「親に向かって、そんな口の利き方はあるかい!」

「あーもう、うるせえな。」

俺はテーブルに肘を突きながら、顔を横にして吐き捨てるように毒づく。くそ、何回このやりとりを繰り返せば済むんだ。感情が昂ったせいか、無性に喉が渇いている。そうだ、朝起きてから何も口に入れていない。俺は起きたら、必ず腸の活性化のために毎朝水をコップ一杯飲むことに決めているんだ。そうやって、毎日を健康に健やかに真っ当な人間の人生を歩むと決めたんだ。

18歳の時に、高校を卒業して大学に行くときになって、はじめて親父から「協会」と呼ばれるうちの家業の詳細を明かされた。今まで、自分の両親が一体どんな仕事をしているのか、全く全容を知らされていなかったからだ。前々から、うちは他の家の親の仕事と違うな、ということは薄々感じ取ってはいた。

小学校の時に、「僕のお父さん」というような作文の課題が出たときがあった。友達は皆「僕のお父さんはサラリーマンで、会社で毎日遅くまで一生懸命働いてくれています。」とか「僕のお父さんは警察官で悪い人を捕まえています。」とか、堂々と発表していたのに、俺は親父にどんな仕事をしているのかを聞いても、口を濁して決して教えてくれなかった。子供心に「うちの親は何か、人に言えない仕事をしているんじゃないか」と勘繰ったものだ。その勘は当たった。

「お父さんの後継ぐのは、やっぱりアンタじゃないとあかんのよ。自分でも、わかっとるでしょ」

「俺は真っ当な人生を歩むって決めたんだ。ペテン師の仲間にはならない」

「アンタはまだそんなこと言っとるんか。ペテン師やない。警察も捕まえはせんのやから。大丈夫や、みんなわかっとることなんや」

だめだ、「協会」の考え方にもう浸かりきって、すでに腐敗しきっている。ネトネトに癒着した繊維みたいに固定化したもので、今度は子供の人生も縛ろうとしているんだ。全く、俺が警察官になって、お前らを逮捕しようと思わなかっただけ、マシだと思うんだな。

「柴田さん、おるやろ。あの人もう20年もうちでいろいろと助けてはってくれて、あの人の言うことをちゃーんとよく聞いておれば、アンタでも十分うちは回せるようになる。ここまで協会が大きくなったのも、あの人のおかげよ。協会を潰すわけにはいかんのよ。」

柴田のおっさん。あのニヤついた顔を思い出した。親父と同じ穴のムジナ。親父から最も信頼の厚かった協会のNO2の幹部だ。協会員から騙し取った金で私腹を肥やしておいて、いつも二言目には「これも全て協会のためだ。」とか、「親父さんみたいに立派な協会長になれ。」だとか、ふざけてやがる。あの脂ぎった顔を見るたびに反吐が出る。これはおそらく俺の推測だが、弟の真杉じゃ協会長にはなれないと柴田さんが判断したのだろう。そして先月、親父が死んだのを機に、俺を連れ戻しに来た。つまり、そういうことだ。

「いいから、頭冷やしてよく考えなさい。アンタはあんな訳のわからん慈善活動かなんかに、時間を使ってる場合や無いんやから。」

「NPOだって、言ってるんだ。いい加減覚えろよ。俺は、社会を良くするためにやっているんだ、アンタたちと違ってな」

そうだ、今日も俺が所属するNPOの活動の一環で、札幌の障害者の人たちの支援をするために前泊でホテルに泊まってたんだ。ああ、クソ、これじゃ全てメチャクチャじゃないか。

「そんなことやって、何の意味があるんや。社会なんてアンタが考えているように、甘くないんや。先生方とか、そういう人らが世の中いいように仕切っておられるんやから、そことうまく付き合わせてもらうんが一番やって言ってるんや。アンタはまだ若くて、世の中の渡り方っていうのを知らん。物の道理いうものがあるんや。自分ひとりで世の中まわっていると思ったら大間違いや」

「道理がないのはそっちだろ。そうやって政治家にいっぱい金渡して、それで協会を大きくして。人をだまくらかして、何の社会の役に立ってない、そういうもんなんだよ、アンタらがやっているのは」

「ええ加減にせえ。ええか、ここでゆっくり頭冷やして考えい。そしたら、柴田さんと話をするんや。わかったんか。アンタの負けや!」お袋は吐き捨てるようにして、部屋を出ていく。

「知るか!」

お袋の背中にそう吐き捨て、俺は目をつむった。ああ、くそ、なんてこう現実っていうのは胸糞悪いことばかり起きるんだ。俺は間違っていない、絶対に。間違っているのはあの家族と協会の奴らだ。世の中そんなことばかりじゃないはずだ、ちくしょう。



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