妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「遠吠え…」
「ワオオオオォ~ン…」
遠吠えがする
野犬か…
今宵は満月…
野犬どもも興奮して騒ぎおる様子…
ぬ…?
あれは野犬の群れ
微かに人の叫び声が聞こえる…?
野犬が人を襲いおるか!
助けなくては!
よし…
母子らしき者達は
木の上に逃げておる…
だが、数十匹の野犬に
その木が取り囲まれておる様子…
それに…
しまった、遅かった…
一人喰われておる…
どうやら父親の様じゃな
「南無… 成仏致せ…」
捨てては置けん
だが…群れとは言え
相手はただの野犬じゃ
『斬妖丸』よ
今回はお前の出番では無い…
我が腰に帯びし長刀二本…
一本は『斬妖丸』
もう一本は名も無き刀…
野犬どもには、これで十分じゃ
ん…?
いかが致した…『斬妖丸』よ?
何故にお前が震えるのじゃ…
あれは、ただの野犬では無いと…?
拙者に、そう申したいのだな?
相分かった…
お前の勘に狂いなど無し
行くぞ!
野犬ども、こっちへ来い!
そうだ、拙者にかかって来い!
『斬妖丸』!
これだけの数じゃ!
しかも相手は獣、素早いぞ!
『疾風の舞い』で躱しながら斬る!
むんっ!
「ブシュッ!」
てええぇっい!
「シュバッ!」
よし、半数ほど斬り捨てた…
残り半分…
「ワオオオオォ~ン…」
む…? また遠吠え…
どうしたというのじゃ…?
野犬どもが揃って逃げていく…
あの遠吠えは…?
むっ…
逃げ去った野犬達が
矢じりの隊列を組みおった
これは獣の知恵では有り得ん…
矢じりの先端部にいるあの獣は…?
真っ黒で牛ほどもある巨躯…
しかし、姿形は野犬…?
いや、あれは狼…
巨大な黒き狼…
ヤツが遠吠えしておったのだな
そして野犬を操りおる…
あれか…?
『斬妖丸』を引き寄せし妖は…
ならば、捨て置く訳には参らぬ
それに…
樹上の母子を
妖の率いる野犬どもより救い
父親を弔ってやらねばならぬ…
野犬どもを率いしはヤツだ…
斬るぞ『斬妖丸』!
奴さえ屠れば残りし野犬どもは
烏合の衆…
『斬妖丸』よ
化け狼には虎で相手を致す…
秘剣『虎の牙』を使うぞ!
覚悟致せ、妖の狼よ!
いざっ、参る!