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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第18話「鬼ヶ島到着! 頭の中の味方と現れた二丁拳銃…」

「ビーッ、ビーッ、ビーッ」

 俺はこの地下一階のフロアに入ってから、破壊される事の無いように頭部に装着していたヘッドセットを入り口から入ってすぐの棚に置いておいたのだ。状況が風祭かざまつり聖子にも分かりやすいように部屋の中央にカメラを向けた状態で。
そのヘッドセットが聖子からの連絡でアラームを鳴らしていた。

 俺はヘッドセットを棚から取り上げて頭に装着した。そして、地下二階へと続く階段を下り始めながら聖子に話しかけた。

「聖子君、俺だ。」
聖子には俺の声が聞こえているはずだ。

『所長っ! 大丈夫なんですか? 良かった…
 あの黒オニにとどめを刺された次の瞬間には白虎に変貌していましたけど、いつもと様子が違ってたわ… あの黒オニとの闘いは二人の速度が速すぎて、カメラでも動きが映らなかったんです。』
聖子の声は少し震えている。よほど俺の事が心配だったのだろう。

「すまなかった… 俺は大丈夫だ。黒オニは倒したよ。
 俺の様子がおかしかったのは、どうやら俺はいったん死んじまったらしいんだ。そして俺は生まれて初めて白虎の完全体になったらしい…
自分では覚えてないんだが…
倒した黒オニから聞いた。たぶん事実だろう、彼が俺に嘘を付くはずが無い。」
俺は地下二階への階段を下りながら、聖子に簡単に状況を説明した。

『まあ… それじゃあ、所長は御自分の師匠に当たる方だったオニと死闘を… それはさぞかし…』
聖子の声は俺に対する気遣いで後が続かないようだった。

俺は聖子を安心させるように、努めて明るい声で話した。
「なに、心配はいらない。師匠は最後には人間として死んでいった。俺に優しい言葉もかけて逝ったよ。死に顔はとても安らかだった…
彼は満足して成仏したんだ。」

聖子が鼻をすする音が聞こえてから
『そうだったんですね… それなら、お師匠様もきっと満足して逝かれたのでしょう…』

俺は、その話を打ち切るようにして聖子に質問をした。
「ところで、聖子君。『地獄の番犬、ケルベロス』ってのを知ってるかい?俺も名前くらいは聞いたことがあるが… 教えてくれ。」

『地獄の番犬、ケルベロス… ギリシア神話に登場する犬の怪物で、冥王であるハーデスが支配する冥界の番犬であるとされています。
 関連する文献では三つの頭部を持ち、尾は竜でたてがみを持った巨大な犬や獅子の姿で描かれる事が多いようです。ですが、あくまでもギリシア神話に登場する伝説上の怪物ですよ。
そのケルベロスがどうしたって言うんですか、所長?』
聖子が俺に問い返して来た。

「どうやら、そのケルベロスは伝説じゃなくて俺の進む先にいるらしいんだ。さっき今わの際の師匠から聞かされた。自分など足元にも及ばない最強の魔人だって言ってた…」
俺の説明を聞いた聖子は絶句していたが、間を置いて話し始めた。

『私はもう何が何だか分からなくなってきました… オニが現れたと思ったら次は地獄の番犬… 
 普通なら信じられない所だけれど、うちの事務所の所長自身が伝説の神獣の白虎なんですもんね。ふふふ… もう、何でもありだわ。開き直りました!』
聖子の苦笑した顔が俺の目に浮かんで来た。

「君にはいつも苦労ばかりかけてるな、すまない… それから、聖子君。
これは俺の杞憂きゆうかもしれないが、例の『黒鉄くろがねの翼』をいつでも使える様にしておいてくれないかな。
ひょっとすると、使う事になるかも知れん。何となく、そんな予感がするんだ…」
俺は聖子に頼んだ。

『了解です、所長。でも、お言葉ですけど…「黒鉄の翼」は、今すぐにでも使用出来ましてよ。準備万端の状態ですのでご安心を。』
たぶん、聖子は事務所でウィンクをしているんだろうな…俺はそう思った。

「ありがたい、さすがはうちの事務所のスーパー秘書の面目躍如やくじょってところだな。恩に着るよ。
今、地下二階に着く所だ。じゃあ、気合を入れて行くとするか。」
俺はそう言って階段を下り切った先にあるスチール製のドアに手をかけた。
 鍵が閉まっていたらぶち破っても良かったんだが、意外な事に鍵は掛かっていないようだ。

「聖子君、この扉の向こう側にオニは何匹くらいいるか分かるか?」
俺はヘッドセットを通じて聖子に尋ねた。

『これはっ! 所長… オニの総数は127匹… 多すぎますよ、いくら所長でも一人で相手をするなんて無理です! 無謀すぎますっ!』
聖子の悲鳴にも似た叫び声が、キンキンと響いてきた。

 俺は聖子からの答えを聞いて尻ごみするどころか、背中がゾクゾクするほどの期待感が胸にこみ上げてくる自分自身に対して苦笑した。また俺の悪い癖が始まった…
「127匹か。まさしく鬼ヶ島ってところだな。
 だが…大丈夫だよ、聖子君。今夜は満月なんだぜ… 今の俺を殺すつもりなら1万匹程度のオニが必要だ。」
ニヤリと笑った俺の口からはとがった巨大な犬歯がのぞいている。

『もう、無茶苦茶だわ… 絶対に死なないで下さいよ、所長!』
聖子のあきらめ切った声が聞こえてきた。

「ああ…鬼ヶ島から帰る桃太郎は、お土産みやげにオニの財宝をいっぱい持って帰るんだ。楽しみにしててくれ。」
俺は鼻歌でも歌う様な明るい口調で、聖子に語りかけた。

「よし、じゃあ行って見ようかな…」
 俺はスチール製の両開きドアのノブに手をかけた。そして、ゆっくりと扉を奥へと開き始めた。

 だが、ドアを開け切る前から大勢のオニの匂いが漂って来やがった。数十…いや、三桁はいるかもしれないな。
 しかし、俺の犬以上に効く鼻は懐かしい匂いを嗅ぎ分けた。もう日が変わったから一昨日になるが、安倍あべの神社で死闘を繰り広げた二人組のライラのなまめめかしい匂いがする… 

 だが、信じられない事に…ライラばかりか俺が死闘の末にとどめを刺して殺し、ライラがその首を持ち帰ったバリーの匂いまでしやがる。
どういう事だ…?
 俺は確かにバリーにはとどめを刺した… ライラには逃げられたが、相棒のバリーの死は俺自身が確認したんだ。ヤツの瞳は生命のともし火が完全に消え去った。そして、ライラ自身が持ち帰るためかバリーの首を切断したんだ。バリーが生きているはずが無かった…

しかし、この匂いは…? 
この満月期の俺が、一度あったヤツの匂いを間違えるはずが無いんだ。
 俺は一抹のためらいと、ここまで来た目的を達成出来る期待を込めて、ゆっくりとドアを開けた。

 そこは、地下二階とは思えないような天井の高さと広さを持った空間だった。しかし、その広い空間に立ち込めていたのはムッとするオニどものきつい体臭と、ヤツらの口から発せられる口臭だった。
 
 それは動物園でも、かくはあるまいと思えるほどの悪臭だった。気の弱い人間なら匂いだけで気絶するか命を失ってしまうほどの、濃密で物理的な圧力すら感じるほどの空気だった。

 その中で、一際鼻につくのが残忍だが艶めかしくも美しいライラと…ついさっき対峙したばかりの師匠であるりん 大人に次いで、俺が命がけの死闘を繰り広げたバリー…
奴らの事を、俺が忘れるはずが無かったのだ。
 ほんの一昨日の事だが、これが何年か経っていたとしても俺の中で決して消える事の無いほどの印象を与えた二人組の匂いがプンプンと漂っているのだ。
 俺は奴らと再び対峙できる事が、嬉しくてしょうが無かった。俺はゲラゲラと笑い出したい気分だった。
 
 だが… 聖子には俺の鼻が嗅ぎ取った、このドアの奥で俺を待ち構えるライラとバリーをの事は黙っておいた。何しろ俺を瀕死ひんしの目に遭わせたヤツ等だったからだ。
 彼女に心配をさせたくなかったのはもちろんだが、正直な所は邪魔な差し出がましい意見など聞きたくなかったからだった。
それくらい、俺の気分は高揚していたのだ。
 
 俺は、そんな口笛を吹き出したい気分を無理やり抑えつつドアを全開した。

「よう! お待ちかねの俺様がきてやったぜっ! 仲良しのライラにバリーよおっ!」

俺の目の前には幻想的と言ってもいい様な光景が広がっていた。
おそらく、所狭しと設置されているのは最凶ドラッグのstrongestストロンゲストを生成するための装置なのだろう。
 地下二階のそこは、テレビなんかで見かける製薬工場の機械そのものがあちこちに設置された広いフロアーだった。
 高校の体育館くらいは優にすっぽりと収まりそうに広い空間に備え付けられたstrongestストロンゲストの生成装置群。しかも、すでに生成されたアンプルを詰め込んだ段ボールも一角に山と積み上げられている。
 その装置や段ボールの置かれていない空間のそこかしこに立つオニの姿があった。聖子の情報では総勢で127匹という事だったな…
 それぞれが様々な色をして2m以上の巨体を持ったオニどもが全員、俺を睨みつけてやがる。
 俺は背筋がゾクゾクするのを自分で禁じ得なかった。あまりの敵の多さに怖気おぞけだっていた訳では無い。
 これは満月期の俺の悪い所だった。暴力への渇望が自分でもどうしようもないのだ。
 俺はこのフロアの全ての敵を叩きのめし、俺のカブキ町に害毒を撒き散らすstrongestストロンゲストを作り出す一切の装置全てを破壊しつくせる事に酔いしれていたのだ。

その時だった…

『馬鹿者… お前はわしが教えておった少年時代からちっとも進歩しておらんのう… 情けないヤツじゃ…』

 俺の頭の中に突然、声が響いてきたのだ。ヘッドセットからの聖子の声では無かった。
 間違いなく俺の頭の中から聞こえてくる… しかも聞き覚えのある声だった。それは、ついさっきまで死闘を繰り広げ、俺が化身した『完全なる白虎』が倒した林 石龍リン シーロンの声だったのだ…

「いったい、これは… こんなバカな事が… 師匠は、林 大人リン たいじんは死んだはずだ…」
俺は一度師匠に破壊されて再生した自分の頭がどうかしたのかと思った。

『ほっほっほ… リーよ。お前の頭がどうかなった訳では無い。わしは実際にお前の頭の中でしゃべっておるのじゃよ。』
頭の中で林 大人リン たいじんの声が俺のつぶやきに答えて来た。
これは、いったいどういう事なのか…?
俺にはさっぱり分からなかった。

リーよ。わしは確かに先ほど死んだ。わし自身にも分からんが、こうは考えられんかのう…?
 わしはお前を完全に殺すために全身全霊の力を込めて練った気功を、お前の脳に一気に流し込んだのじゃ。その時の気功にはわしの全てが込められておったからリーの破壊され再生された脳に、気功に込められたわしの思念が残留思念となって閉じ込められたのかも知れぬ…
 今お前と話しておるこのわしは、リーの脳内に残ってしまったわしの思念…つまり「心」なのじゃろうな…』

 俺は、現実としてはとても信じられない師匠の説明を心で理解した。科学では説明できない現象なのだろうが、実際に起こっている以上…俺は林 大人リン たいじんの言う『心』が俺の脳内に留まっている事を信じる気になった。
 俺の師匠は死してなお、俺の頭の中で生きているのだ。そう思ったら、なぜか嬉しくて楽しい気持ちになって来た。

「よお、師匠… 俺の頭の中で好き勝手な事しないでくれよな。今からひと暴れするんだからな。」
俺は頭の中の林 大人リン たいじんに話しかけた。

『お前は無駄な動きが多すぎるからダメなのじゃ、わしが言うとおりに動いて見い。このオニども全てをただ倒すのでは無く、自分の腕を磨くために使うのじゃ。お前がこの先に出会う魔人と戦うための修行だと思え。
 そうすれば、わしがお前と闘った時に見せた動きを習得出来よう…「無明陽炎むみょうようえん拳」をな。この体術を習得すれば、お前は文字通り無敵の白虎となる。』
師匠の林 大人リン たいじんが俺に語った。

「『無明陽炎むみょうようえん拳』… 師匠の、あの陽炎かげろうの様な残像を残す目にも止まらなかった動きの拳法か… ありがたい、ぜひ教えてくれよ。」
 俺は師匠の話に興味を覚えて、頭の中で語りかけてくる林 大人リン たいじんの話に聞き入った。

その時だ…

「探偵いぃ~っ! 来やがったかぁっ!」
良く透る甲高い女の叫び声がした。

 俺が女の叫び声のした方を向くと、階段入り口から入ってすぐの俺から見て最奥部に立っていたのは、忘れもしない二人組…ライラとバリーだった。
 ライラがいても不思議では無かったが、俺が完全に殺したはずのバリーが完全な身体で立っているのを実際にこの目で見ても、俺にはまだ信じられなかった。
 バリーのそっくりさんなんて事は考えられない。俺自身の犬以上に利く嗅覚が、ヤツが紛れもないバリー本人である事を証明していた。
 となると… 信じられんがバリーはどうにかして、ライラが大事そうに抱えて持ち帰った頭部から再生したとでも言うのか…?
 あの時のヤツは間違いなく完全に死んでいた。しかもバリーの首から下の身体は、鳳 成治おおとり せいじの配下の特務零課とくむぜろかが持ち帰ったはずだ。
 頭部だけから元通りに再生するなんて、白虎の俺にだって出来はしない…

「やれえ~っ! 貴様ら、その男をブチ殺して見せてみろ~っ!」
 
 やれやれ… 見た目が色っぽくて美しいお姉さまが、とんでもないこと言ってくれやがるぜ。

「だが、師匠。こんなゲスなオニ野郎どもなんて、百匹かかって来ようが俺には屁でも無いぜ。
 あんたの『無明陽炎むみょうようえん拳』なんて使うまでも無い。俺の『白虎拳』で全員ブチのめす。見ててくれよ。」
俺は自分を睨みつけてくる二百以上の目を、笑いながら見返してやった。

『お前のその自信は無理も無いがな。じゃが…目をつむっても、あ奴らに勝てるかのう…? どうじゃ、リーよ。』

「何言ってるんだ、師匠? 何で俺が目を瞑って戦わなきゃならないんだ?」
 俺の頭の中で、おかしな事を言い出した林 大人リン たいじんに俺は食ってかかった。

『じゃから言うておるじゃろう。目を開いてあ奴ら全員を倒す事など、白虎であるお前にとって造作もあるまいて。じゃが、目を瞑ったら勝てる保証は無い。白虎のお前でも怖いか…?』
 師匠は俺をからかっているのではなく、挑発している様だった。俺をその気にさせようという魂胆が見え見えだった。

「俺を自分の思い通りにしようってんだろうが、その手は食わねえって言ってやりたいところだが… その人を小馬鹿にしくさってる、あんたの態度が気に入らねえな。
よし、目を瞑ればいいんだな。やってやるよ。」
俺は師匠の言った通り目を瞑った。

「このクソ野郎が! 目えつぶりやがって! なめるな、クソガキぃ!」
「ぶち殺したらあっ!」
「八つ裂きじゃあっ!」

 オニどもが口々に喚きながら俺に殺到してくる気配が、殺気の波として俺の身体に押し寄せて来た。
俺は全身に力をみなぎらせて防御の姿勢を取った。
 ある者は突きで、別の者は蹴り、後ろから噛みついてくるヤツもいたようだ。俺は右腕の一振りでかかって来たオニどもをなぎ倒した。
俺にかかって来たオニどもは、間違いなく皆殺しにしただろう。
 俺にはヤツ等の息遣いと体臭でそれが分かった。そして間違いようが無いのが、俺にかかって来た三体のオニどもの殺気が完全に消え去った事だった。

「そうか、師匠… あんたの言いたかったのはこの事なんだな。目を瞑ってても俺には殺気を持って向かってくる敵の動きが、気配と匂いに音で分かった。」
俺は頭の中の林 大人リン たいじんに確信を持って話しかけた。

『ふ… 思った以上に冴えておるようじゃの。その通りじゃ、お前は人間としての生活の長さ故に視覚に頼り過ぎておった。人間の五感の内で、他の感覚を戦いに生かし切っておらんかったのじゃな。
 視覚を取り払っても、白虎のお前なら他の全ての超感覚で十分以上に戦える。むしろ、視覚からの情報に惑わされる事が無くなる。戦いとは目で見た事が全てでは無いのじゃよ。
 敵の起こす殺気や空気の流れを肌の触覚で読み取り、敵の発散する汗や体臭を臭覚で嗅ぎ分け、耳の聴覚で敵の動きの際に起こす微妙な音を聞き分ける。
 目を閉じておっても、他の感覚から膨大な情報が入ってくるんじゃな。
 これが暗闇の中でも戦える暗殺拳の神髄である「無明むみょうの極意」じゃ。これを体得すれば、真の暗闇でも刮目かつもくしておる時以上に戦えるわい。』

その時だった。
「ドッガーン!」

 俺が入って来たこのフロアの入り口のスチールドアを、力いっぱい蹴り開けた様な音が響き渡ったかと思うと…

「バンッ! バンッ!」
続いて銃声らしき音が鳴り響いた。

「大丈夫かっ? 千寿せんじゅっ!」
聞き覚えのある声が叫んだ。
俺はつむっていた両目を開いて叫び声の方を見た。

何てこった…
 両手にイタリヤ製の自動拳銃であるベレッタM92を構えた鳳 成治おおとり せいじが駆け寄ってきて、俺の隣に並んで立ちやがった。

「お前… まるで二丁拳銃を構えたガンマンだな…
昔の西部劇映画の見過ぎじゃないか?」
俺は目の前の幼馴染おさななじみで腐れ縁の旧友を、呆れた表情で見つめた。

「そんな9㎜の拳銃弾なんてオニどもに効くわけないだろう…」
そう言いながらおおとりの撃った二匹のオニを見た俺は驚いた。
 倒れたオニは人間の姿に戻っていったのだ… 
 これは俺の経験上、オニの死を意味する。一度オニの姿になった者達は自分でオニの姿を解除するか、死ぬまで人の姿に戻る事は無い。
 おおとりの撃ったオニの内一匹は頭部に銃弾を受けていた。こっちは理解出来るのだが、もう一匹は胸部に一発喰らっただけだ。こんな9㎜弾など至近距離から喰らったところでオニにとっては蚊に刺された程度の痛みのはずだ。死ぬなんて考えられない。

「驚いている様だな、探偵さん…
 この二丁のベレッタM92は普通の拳銃だが、撃ち出した銃弾は稀代きだいの大陰陽師おんみょうじ安倍賢生あべの けんせい自らが念を込めた五芒星を先端に刻んだ特殊9mmパラベラム弾だ。魔界の者など当たりさえすれば一撃でほうむる。
 俺の撃つ銃弾の一発一発が、大陰陽師おんみょうじの術式を込めた強力な式神なんだよ。
 俺の課で検証した結果、BERSバーズとは人間が魔界の存在へと姿を変えられたものだと判明した。こいつらは人間が生み出した薬剤で変身した兵器としての強化人間なんかじゃなくて、正真正銘の魔界の怪物どもだ。もう、人間では無いんだ。遠慮も会釈えしゃくも必要ない。
 この拳銃から発射する銃弾はBERSバーズどもには有効なのさ。見ろ、千寿せんじゅ。俺はこの弾を百発以上持参して来た。」
 そう言って、着ていたコートの前をはだけたおおとりのたすき掛けの様なホルスターと腰のベルトには、ベレッタ用の替えのマガジンが幾つもぶら下がっていた。マガジン同士がカチャカチャ音を立ててぶつかっている。

俺は口をポカンと開いたまま旧友を見つめた。

「何てこった… こいつ、マジだぜ…」

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幻田恋人
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