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ショートショート:石炭弁当🍱
「ふむ……このままではエネルギーが枯渇してしまう。」
N博士は7本目の脚を慎重にいじりながら考え込んでいた。
「どういう事ですか?博士。石炭資源はまだまだ大量にあると思われますが」
助手が触手を撫でて疑問を表明する。
「過去の文明を築いていた種族ホモサピエンスが蓄積した遺跡が消滅しそうなのだよ。」
博士は、現在の地球ではかつての生活様式が過去の遺物となった様子を語った。
高度な情報化社会は崩壊し、文明を担う種族は代替わりを果たした。
そして食文化の変化とともに、皆が自炊をするようになったため誰もコンビニ弁当を食べなくなったのだ。
かつて大量に流通していたコンビニ弁当が、そのまま埋め立て地で石炭のような姿に変わっていった。誰も気にも留めなかったが、その原因は保存料である。これが微生物を拒絶し、分解されることなく、何千年もの時間を経て化石化していたのだ。
「その石炭弁当が枯渇するんですか?大変だ」
N博士は生物研究室で「コンビニ弁当石炭化プロセス」に取り組むことになった生態学者だ。
石炭の山がコンビニ弁当だったことに驚き、その保存料に強い興味を持っていた。そして彼は、燃料として消費される一方の石炭に弁当の枯渇を解決するための突破口を探していた。
「現在エネルギーを頼りきっている『コンビニ弁当石炭文明』が崩壊してしまう。それを防ぐにはどうすれば……」
とN博士は17の目を使って片時も実験から目を離さず、日々試行錯誤していた。
そんなある日、彼の実験室で一つの奇妙な現象が起こった。N博士が培養していたあるキノコが、石炭化したコンビニ弁当を取り囲み、じわじわとその周りに生えるようになったのだ。
「これは…!」N博士は17個全ての目を疑った。
キノコが弁当を分解し始めていたのだ。どんな保存料も無効化するそのキノコは、石炭化した弁当を食い始めて驚くべきスピードでそれを自然に返していく。
数週間後、研究室から流出したキノコは、かつての廃棄された弁当が堆積した地層でみるみる石炭弁当を分解していた。
「これで我々の文明はエネルギー源を失い、終わりだ……だがコンビニ弁当はやっと自然に還ることができたのだな」
とN博士は笑った。
その後、キノコは世界中に広まり、どの弁当もどのおにぎりも、菓子パンの地層さえも分解して自然に帰していく。
石炭弁当はやがて姿を消し、コンビニ弁当の化石は未来の世界から消え去ることになった。
しかし、奇妙なことに人々は新しい状況に適応していった。今度は大量発生したコンビニ弁当を分解したキノコを、弁当にして売りだす外食産業が新たな流行となっていたのだ。
そしてそれには日持ちするために保存料がたっぷりと入れられた。
「これ栄養バランスは取れてるんですかね?」
助手がくちばしを尖らせながら言う。
そんな事は気にせず、
「自然は常にバランスを取る」とN博士はつぶやきながら、新しいキノコ弁当を味わった。