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目的から考えるランダムな仕様~より良いゲームデザインを考える~
1. はじめに
今回は、ゲームの仕様を考える時に使いがちなランダムについて、
どんな時に使うとよくて、
どんな時に使ってはいけないのか。
その目的からランダムな仕様を実装するケースを考えていきます。
また、ゲームデザインをする上でのゴールは
「ユーザーが楽しんでくれること」
「ユーザーの狙った感情を激しく揺さぶること」
だと思うので、ユーザーがランダムな仕様について、どのように感じるのかも合わせて考えていきます。
2. ランダムな仕様を採用する目的
ゲームメカニクス おもしろくするためのゲームデザインでは、
ランダムを採用する状況について、以下の二つに適しているとしています。
プレイヤーに即興を強いる場面
絶対有利な戦略への対抗
逆に言うと、これらの状況以外ではランダムは採用されないということになります。次章では、ランダム=偶然性以外の要素を整理して、そこから偶然性の活かし方を考えていきます。
3. 創発型
あなたが、ランダム=偶然性を仕様に盛り込むとき、
「プレイヤーの行動がワンパターンにならないように」と考えていませんか?確かに、ランダムな仕様は結果が一つに決まらないため、プレイヤーの行動はワンパターンにならないかもしれません。しかし、実はプレイヤーの行動をワンパターンにしない方法は、ランダム以外にもあります。
ここでは、「創発」について説明します。
創発とはどのようなもので
ランダムと何が違っていて
どのように使い分けるのか
を説明していきます。
創発とは
「全体が部分の総和以上になること」
を意味します。
例えば、ゲームを作ったことのある方はイメージしやすいかと思いますが、
プレイヤーの移動をC#でコーディングするとき、
縦軸の入力と横軸の入力をそれぞれ+と-で受け取ると思います。多分。(Input.GetAxis("Horizontal")とInput.GetAxis("Vertical"))
この時、上下左右の4方向の入力を受け付けますが、
実行すると、上下左右に加え、斜め方向にも移動ができます(計8方向)。
このように4つの入力方向から8つの移動方向が生まれるような
全体が部分の総和以上になることを「創発」といいます。
このような、シンプルな構造によって
ゲームにおいて存在しうる状況(確率空間)が膨大に膨れ上がることを
「創発」といいます。
つまり、ひとつひとつは論理的に理解できるものの、総数が圧倒的なため、
プレイヤーが知覚しきれない・判断しきることが難しいため、
結果的にランダムを採用したようにプレイヤーの対処行動に多様性が生まれます。
ランダムとの決定的な違いは、プレイヤーがロジックを理解できる点です。
全貌を把握することは難しくとも、部分を理解し、自身のプレイングに反映することができるので、「運ではなくスキル」で挑戦をクリアすることができます。反対に、プレイヤー間のスキルの差が如実に結果に表れるため、必ずしもランダムより優れていると結論付けることはできません。次章でどのような状況でランダムを採用するのかを見ていきます。
4. プレイヤーに即興を強いるシチュエーション
ここからは、ランダム=偶然性を用いる具体的な機会について話していきたいと思います。
まずは、プレイヤーに即興を強いるシチュエーションです。
具体的には、
モンスターハンターの大型モンスターの動きがランダムなこと。
Slay the Spireなどカードゲームでランダムな手札になること。
Among Usのインポスターが参加者からランダムに割り当てられること。
などがあります。
これらの共通点は、ランダムな決定を採用していることによって、
未知の状況に対応する「意思決定の遊び」を生み出し、
「繰り返し遊んでも楽しい!」=リプレイアビリティが確保されています。
どういうことかをケースごとに考えていきます。
ケーススタディをするにあたって、
Jey.P.さんの以下のnoteを参考にしました。
ケース1:モンスターハンター(ライズサンブレイク)
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意思決定×アクション
=ランダムな行動パターンへの素早い対処!
モンスターハンターの場合、モンスターの動きがランダムなため、
相手の攻撃モーションを見て、どのように対処するのかを素早く判断する
必要があります。FPSのゲームでエイムを合わせるような精密な技術は要求されませんが、瞬間的な判断を求められます。
リプレイアビリティ
=周回しても飽きない・報酬のランダムさ
同じモンスターと対戦しても、毎回異なる行動パターンをしているため、その時その時にあった対処を求められ、常に高い集中力を要求するため、繰り返し遊ぶことができるようになっています。
また、クエストというインゲームではなく、アウトゲーム(いわゆるソシャゲの文脈とは違いますが)の話ではありますが、クエストクリア時の報酬がランダムなため、欲しい素材を手に入れるために、繰り返しクエストに挑戦するモチベーションをプレイヤーに与えます。
メリット
=アクションに集中できる!
行動パターンが固定のゲームでは、覚えてしまえば簡単なため、
そもそもの対処が難しくなっていたり、覚えることに集中力を使うことになります。しかし、ランダムにすることでアクションに集中できるようになっています。
デメリット
=移動面でストレスに…
モンスターハンターでは様々な仕様がランダムになっています。
モンスターの行動パターンだけでなく、サイズや体力、初期スポーンの位置などなど。上位やG級などクエスト開始地点がランダムなクエストでは、初期スポーンの位置がお目当てのモンスターから遠いと、それだけでストレスを受けることになります。(エリア移動含めてランダムだけの問題ではありませんが)
ケース2:Slay the Spire
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意思決定×研究
=状況に合わせた最適化
Slay the Spireは「デッキ構築×ローグライク」のゲームです。
ダンジョンを探索しながら自分のデッキを作っていき、ボスを倒すことを目指します。
このゲームでは、毎回の手札は勿論、入るごとにダンジョンが変化したり、
貰える報酬や宝箱の中身、ショップの売り物など多岐にわたってランダムな要素を持っています。
どのようなデッキビルドを作るかイメージしながら、状況状況に合わせて修正の判断が求められたり、その場の最適解を追求することができます。
リプレイアビリティ
=その場の最適解を導き出す
遊ぶたびに変化する要素が多いため、常に狙ったパフォーマンスを出すことはできない。そのため、「もう一回挑戦したらうまくいくかもしれない」という気持ちにプレイヤーをさせてくれます。
また、すべての階層を踏破できなくても、得た経験値で新たなカードがアンロックされ、新しいデッキビルドの幅が増えます。
メリット
=「ランダム×ランダム」によって生まれる膨大な挑戦とゲーム体験
カードゲーム…ランダムな手札から自身の望む最適解を生み出す
ローグライク…入るたびに毎回変化するダンジョンに対応する
どちらも「意思決定」を主軸に据えているゲーム。
意思決定の遊びを作る上では、毎回同じ答えにならないようにする必要がある。そのためにランダムなシチュエーションを準備する。
「理想の状況になかなかならないからこそ、ハマった時が気持ちいい」
が楽しさとなるため、ランダムを採用する必要があると思います(緊張と緩和の関係)。
デメリット
=リスク・リターンの判断の難しさ、取り返しのつかない要素
反対にデメリットとしては、膨大なランダム要素を持つため、どの判断が結果的に正解になるのかの判断が難しい。勿論、こうした能力を磨くこともプレイヤースキルのうちで、「研究」の楽しみではあるが、行き過ぎてしまうとコアユーザーにしか判断のできない要素が出てくるため、バランス調整が難しい要素だと感じました。
また、一度カードを獲得したり、レリックを選択すると、選択のやり直しができない。これは「意志決定のゲームらしさ」ではあるものの、本作は1プレイの時間がかなり長いため、選択を間違えたプレイヤーの責任として次のチャレンジまでマイナス感情を引きずった状態になってしまうことが懸念点だと思う。少なくとも、直前の選択をやり直すなどの救済措置があるだけで、プレイヤーの心象が変わるシチュエーションは多そうに感じました。
ケース3:Among Us
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意思決定×競争と協力
=疑心暗鬼と駆け引き
Among Usなど人狼ゲームといわれるジャンルでは、
誰がインポスター(人狼)で、誰がクルーメイト(市民)かがランダムになっています。各プレイヤーは、他プレイヤーがそれぞれどの陣営なのかを推理しながら、自身の陣営の勝利を目指します。
また、アモングアスでは、フィールド上に一部固定、一部ランダムで出現するタスクをこなす必要があります。周りのプレイヤーの陣営を予想しながら、ランダムに割り当てられるタスクから、次にどのタスクを行うか考える必要があります。
リプレイアビリティ
=プレイヤーごとの個性による創発が意思決定の機会を生み出す
ランダムに割り当てられる人狼を予測するうえで、プレイヤーごとのプレイスタイルの違いによって、同じような結果になりづらいのが特徴。また、
ランダムタスクによって各プレイヤーの動きが毎回異なるために、
他の人狼ゲームのような安定の初手が存在せず、その場で判断しながら行動するため、遊ぶたびに行動も結果も変わる。
メリット
=ランダム×創発の楽しさ
誰が人狼か分からないことで、疑心暗鬼になり、そこから生まれる行動やコミュニケーションが面白さを作り出す。
加えて、プレイヤーを操作できるがゆえに発生する可能性空間の広さが膨大な意思決定の機会を与えてくれる。
デメリット
=基本的に無し
Among Usにおいてのランダム要素は
・誰が人狼になるのか
・どのタスクが割り振られるか
の2点で、これらに関しては、ランダム化にするデメリットはとくになし。
5. 絶対有利な戦略への対抗
絶対有利な戦略への抵抗
次に絶対有利な戦略への対抗を見ていきます。
これは、ポケモンの「急所」を見ていくとその役割がわかります。
名称: 急所
世代: ポケモンSV
条件: 1/24
効果: わざのダメージが1.5倍になる
攻撃側に不利なランク補正が無視される
急所とは、上記のような仕様で、この急所の存在により絶対有利の戦略に打ち勝つ可能性があります。
それは、ランク補正を上昇させるいわゆる「積み技」です。
自身のぼうぎょを2倍にする「てっぺき」や
自身のとくぼうを2倍にする「ドわすれ」は強力で、
上手く展開されてしまったらひっくり返すことが難しいです。
こうした状況を、急所は1/24の確率で打破してくれることがあるため、
リスクを加味してこうした戦略を取るのか取らないのか判断する必要が生まれます。
絶対強者への対抗
また、ゲームメカニクス本誌の趣旨とは異なりますが、
絶対強者への対抗という見方もできます。
確かに対戦ゲームはプレイヤー間が平等であるべきです。
しかし、負けているプレイヤーが逆転する方法がなく
精神的に脱落してしまったら、ゲームとして成立するのでしょうか?
特に、一回限りの対戦では負けが確定している段階で敗者のプレイヤーは
そこからゲームを続ける必要がなくなります。
そのため、勝てない=楽しくないと直結し、プレイをやめてしまうユーザーがいることも確か。
これは、各ゲームのターゲット層や与えたいゲーム体験によって違いますが、逆転の可能性を残すという意味でランダムな要素を用いることもあります。
例えば、ポケモンの急所では、
プレイヤーAは急所を当てなくても勝てる
プレイヤーBは急所を当てないと勝てない
そうした状態でプレイヤーBが急所に当てて逆転することを
良いとするかどうかで仕様を決定すると良いと思います。
6. ランダムを採用しない例
最後に、あえてランダムを採用しない例として、Celesteを取り上げます。
Celesteはスーパーマリオブラザーズなどと同じ2Dプラットフォーマーという
ジャンルのゲームです。
このゲームでは、ギミックや敵の動きにランダム性がありません。
なぜなら、
「ランダムな状況に対する対処」よりも、「決まったギミックに対応する」
ことを重視しているからです。
スピードランなどタイムを競って遊ぶ際に、ギミックの動きが一定だからこそ研ぎ澄まされたプレイングが生まれ、見ている観客を魅了するプレイングが生まれています。
このように、意図してランダムを選ばないこともあります。
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7. まとめ
以上のように、ランダムは、プレイヤーの即興性を試し、意思決定の面白さを生むことに役立っています。その一方で、ランダムな要素によってプレイヤーに余計なストレスをかけたり、プレイヤーが「自分でゲームをコントロールできない」と感じる原因にもなります。
筆者もこれからランダムな要素をゲームに実装するときは、
「どんな楽しみを生み出すために実装するのか?」と自問自答しながら実装を進めていこうと思います。
今回はここまでです。読んでいただきありがとうございました~。