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中国古典から、「楽観的な人の方がうまくいくのか?それとも悲観的な人か?」

中国古典から、「自分を知る、自分を動かす、人を動かす」を学ぶシリーズ第3弾。これまで『論語』『大学』の冒頭の章句をご紹介しましたので、今回は『孫子』冒頭の章句です。

楽観的な人の方がうまくいくのか?それとも悲観的な人か?

『孫子』は2,500年前に書かれた兵法書です。2,500年前に書かれたことが現在にも役に立つということは、人は変わっていないということです。2,500年間も読み継がれてきたのは相当本質的なことが書かれているからです。現代人がここから学べる領域は多々ありますが、今回はリーダーシップの観点から書きます。

孫子曰く、兵は國の大事にして、死生の地、存亡の道なり。察せざる可(べ)からず。故に之を經(おさ)むるに五事(ごじ)を以(もつ)てし、之を校するに計を以てして、その情を索(もと)む。一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く將、五に曰く法。

孫子 兵法 第一章「始計篇」

戦争というのは、国家の一大事である。よくよく情報収集・分析し戦略を立てなければならない。戦いを有利に進めるためには5つのポイントがある。そして、7つの項目で相手と自分たちを比較する。そのためには情報収集に努めなければならない。

5つのポイントとは、
 ① (ビジョン・目標の共有)
 ② (天の時:時代性・タイミング) 
 ③ (地の利:事業領域)
 ④ (リーダーシップ)
 ⑤ (規律・組織文化)
の5つである。

すごく合理的ですよね。しかも、これが2,500年前に書かれている。ちなみに、日本は弥生時代です。まだ、日本では文字すらない時代に書かれていることに驚きます。ちなみに、孫子を書いた孫武は、孔子や釈迦と同年代の人です。

私は、「察せざる可からず」に注目したいと思います。漢文独特の二重否定が読みづらいですが、「察するべきだ」と強調しています。戦争したら国が亡びるかもしれない。よくよく考えて、考えて、考え抜きなさいと言っています。

名将、名経営者には慎重な方が多いように思います。経営者の方にインタビューしたり経営者の本を読むと、悲観的に考える人が多いです。ちまたあふれる自己啓発の本や言説では、ポジティブシンキングが勧められています。しかし、楽観的な人の方がうまくいくのでしょうか?


楽観的な人の方がうまくいくのか?それとも悲観的な人の方がうまくいくのか?これに関する面白い心理学の実験があります。心理学者のG・エッティンゲンのダイエットに関する実験です。

楽観的な人と悲観的な人、どちらがダイエットに成功すると思いますか?
この実験では、ダイエットプログラムに参加した女性に質問し、調査をおこないました。実験結果は、「自分は成功する自信がある」と答えた女性のほうが、そうでない女性と比べ平均約12㎏多く減量に成功しました。楽観的なほうがうまくいきます。しかし、「容易に成功できる」と楽観的に答えた女性は、「簡単ではない」と悲観的に答えた女性に比べてうまく減量できなかったのです。「簡単ではない」と悲観的に考えた女性の方が、平均約11㎏も多く減量できたのです。整形外科のリハビリ、就活、婚活でも同様の結果が見られています。

ここから何が言えるかと言うと、「結果」に対して楽観的な人のほうが上手くいく可能性が高い。「自分は実現できる!」「実現したい!」とポジティブにイメージしたほうがうまくいく。
一方、そこに向かう「プロセス」関しては、悲観的に考える人のほうが成功する確率が高まる。「そう簡単にはいかないよな」「こういうことも起きるかも」「こういう場合に備えておこう」と慎重に考えたほうがうまくいく。

自分がこうなりたい!こういうことを実現したい!と未来を描く時は、ポジティブに描く。そして、そこに向かうまでのプロセスは「こういう困難・壁があるかも・・・」と、ネガティブに想定する。故稲盛和夫さんがご自身の経験から紡ぎ出された言葉にこうあります。

楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する


参考資料:
天野鎮雄『孫子呉子』明治書院, 1977
ガブリエル・エッティンゲン『成功するにはポジティブ思考を捨てなさい』講談社, 2015