中国古典から、「自分を知る、自分を動かす、人を動かす」ヒントを学ぶ ②
何のために学ぶのか?
これは、『大学』冒頭の章句です。『大学』は、孔子のお弟子さんである曾子(そうし)の作と言われ、四書の1つ、儒学入門の書です。何のために人は学ぶのか? 冒頭からド直球の問いです。その答えは、2,500年経った今でもまったく色あせません。答えは以下の3つ、三綱領と呼ばれています。
① 明徳を明らかにするに在り(明徳を明らかにするため)
② 民に親しむに在り(その明徳を自分のためだけに使うのではなく、人のために活かすため)
③ 至善に止まるに在り(上の2つの状態を保つために、努力し続けるため)
「明徳」とは何か? 人それぞれが生まれつき持っている素晴らしい徳と説明されたり、生まれつき持っている心の鏡などと説明されています。
私は、この明徳を「自分らしさ」と捉えたいと思っています。自分の持ち味や強みと言ってもよいかもしれません。英語で言えば、authenticity(真正さ・本物)です。
スピノザの言う「コナトゥス」、中江藤樹が言うところの「良知」、ユングの「Self」、西田幾多郎の言う「本来性」、E・シャインで言えば「キャリア・アンカー」。新海誠監督『すずめの戸締り』のラストシーンでの、すずめちゃんのセリフ「大事なものはもう全部、ずっと前、もらってたんだ」の「大事なもの」。この解説が学問的に合っているか自信はありませんが、先人が言うところのその人の中核としてすでに持っている何か。『大学』で言うところの「明徳」とは、人それぞれが持っている(持って生まれた)その人らしさを指しているのではないかと考えています。
自分らしさとは何か? これに気づき、それを活かすために「学び」がある。① 日常生活や仕事などの様々な経験を通して、自分が持っている「明徳」に気づいていく。
② そして、「自分らしさ(自分の持ち味・強み)」を自分のためだけに使うのではなく、人のために使う。
③ さらに、「自分らしさ」を活かし人のためになれるよう精進を続けていく。
儒学の入門書の冒頭で、これが「学ぶ」目的だと言っています。
「自分らしさ(自分の持ち味・強み)」に気づいて、それを活かして人の役に立つ。
これって、幸せの要件そのものです。「学ぶ」と「幸せ」は表裏一体なのかもしれません。