【100職種プロジェクト】第5回 脳性麻痺(下肢)、ADHD、うつ×人事事務 数々の経験を積み、次へ
100の職種プロジェクトはさまざまな障害や特性がある人たちが社会で働く中で、どんな職種や業種で働いているのか、社会で働く障害のある社会人のみなさんにインタビューをし、障がい種別や特性と職種や業種をかけ合わせた100通りの働き方を発掘・発信する試みです。さまざまな障害や特性を活かせる、多様な選択肢のある社会を実現すべく、Collableのインターン生が取材を行っています。
第5回目は愛さん(仮名)にお話を伺いしました!
愛さんは30代女性で、生まれつき脳性麻痺(下肢)の診断を受けていましたが、3年前に抑うつ状態、ADHDの診断を受けたそうです。
Q.愛さんの経歴について、簡単にお聞かせいただいてもいいでしょうか。
愛です。31歳です。出身地は愛知県で、学生時代も愛知県内の大学に通ってました。大学時代は図書館情報学っていう図書館司書の勉強をしていました。
大学卒業後、新卒で入ったのがガス会社で、障害者雇用で入社しました。ガス会社なのですがウォーターサーバー販売もしていて、最初の部署にはガス会社からそのウォーターサーバー販売の部署に出向っていう形で配属されました。そこでは主に電話対応を4年ぐらいかな。その後、移動辞令(出向解除)が出て、ガス会社の人事部に勤めています。現在は休職中です。
Q.当時は具体的にどんなお仕事をなさっているのでしょうか。
出勤簿の管理だとか、税金を社員の人から徴収して、その分を会社から市役所に納めるための事務手続きの一部が担当業務でした。会社で働く人たちは、給与(収入)から必要な税金や社会保険料などを引いた額を受け取るんですが、その計算などをするという感じです。
具体的にはパソコンでログを取ったり、紙の出勤簿を集めたりして勤務状況を把握して、それで給与計算をして、そこから税金や保険料の計算をして、給与を払うっていうのなんですが、あとは、社会保険や雇用保険などの加入脱退手続きもしますし、新しく入社した人がいたら、その人の情報を人事情報管理システムに登録したりもしてます。
Q.なぜそのお仕事を選んだのでしょうか。
地元が好きなので、地元に就職したい貢献したいっていうのが一番にありました。地元で働くことを考えるときに、はじめに大学内の企業説明会だとか、地元企業がいっぱい参加している合同説明会とか、マイナビやリクナビみたいなところのイベントとかに参加したかな。
ただ、地元で就職したいとなると、マイナビとかリクナビは全国規模の採用情報が多くなっちゃうから、地元の新聞社がやってる合同説明会にも行って、地元の会社を探していく必要がありました。最終的にたどり着いたのが、県が開催していた障害学生の就職相談会の存在でした。そのお知らせを大学から受けて、相談会にいきました。
Q.現在の仕事で、自分の特性と合っていると思う部分はありますか。
以前ウォーターサーバーの部署で働いていた時、電話対応とパソコンでの事務だけだったので、足は全く使わなくても仕事ができました。全然自分の障害を感じずに仕事ができたので、足のことで何か思うことも特になかったし、職場の人もすごく温かい人たちばかりでした。
あと、すごく丁寧に仕事をいろいろ教えてくれる先輩がいて、私はExcelの基礎的なところしか分かってなかったんだけど、いろんな関数を教えていただいたりとかして、Excelのスキルもアップしました。もちろん、そのスキルは今の部署でも役立ってますし、足がハンデにならない仕事なのは今の部署も同じです。
最初の部署、電話対応とか何かミスしたりすると、こうしたらいいよとアドバイスをくれたりと、私のことを考えてくれるような温かい職場だったんですね。なので、障害って環境によって感じなくなるんだなって思ってました。
Q.逆に苦労した部分はありますか。
障害者雇用で入れたとしても、会社とのコミュニケーションがうまくできていないと難しいと思います。会社側に、障害者だからできない、あまり業務をやらせないでおこうみたいな先入観があっても困るし、逆に、杖とか車イスなしで動けるからこの仕事は頼めるだろう、って思い込まれるのも困るし。うまく言葉にして伝えるっていうのはすごく大変ですね。
Q.仕事をする上で大切にしていることはありますか。
気を配ることを大事にしてるかな。言われたことだけやればいいっていうよりも、周りに何かしてあげられることないかなみたいなのを考えて働いていました。周りの人の困っていることに対応できた時とかに嬉しいなって思いますね。
Q.将来のビジョンはありますか。
今実はちょっと休職中で、いろいろと会社の事務が積み重なったりとかして、抑うつ状態と診断されて、現在治療中です。1回休職して、復職したりとかもしてたんだけど、一般企業で働くのってすごく難しいなって思うことが多くって。レベルアップしろというのを常に求められるみたいなのが、だんだん追いつかないっていうか、しんどくなってきちゃったんです。なので、これからのキャリアの進め方としては、できれば自分の特性、自分の特長を生かして仕事をしたいな、って思ってます。
例えば、文を書く仕事とか、福祉関係の仕事とか、以前と同様の事務職もありだなと思うし、まだイメージをはっきりつかめてないんですが・・・。
でも、ゆくゆくはその、自分の経験とか、自分が今まで感じてきたこととか、学んできたことを活かせるような、障害が障害じゃなくって、強みにできるような仕事ができればいいな、って思ってます。
Q.学生時代にやっておいてよかったこと、やっておいた方がいいことってありますか?
多分、就活などで就活生がよくする質問だと思うんです。なぜなら、私にも身に覚えがあるから。この質問に対して、企業側の担当の人から「学生生活を楽しんでください」とか、「学校生活の中で勉強できることをきっちりしてください」みたいな返答されることが多いと思うんです。私も学生側だったときは「学生生活を楽しんでください」なんて、そんなん当たり前じゃん!みたいな感じに思ってて「いやなんかもっと必要な資格とか教えてよ」って思ってたんですよ。
だけど実際社会人になってみると、仕事の中身の細かいことは入社してから考えるしかない側面も多いんです…。仕事を続けていくには、学生生活でちゃんと1つのことに集中して学んだこととか、逆に学生生活で失敗したこととか、自分にはこういうのが向いてるんだなっていうことを知っておくことが、大事になってくるんだと思います。
学生の頃は自由な時間があるから、例えば気になるボランティア活動とか行ってみたりして「自分ってこういうことしてると楽しいと感じるんだな」っていうことを知るのってすごく大事だと思うんですよね。そういうのをまとめると、結局のところ「学生生活をしっかり楽しんでください」っていうことになるんだと思います。
Q.最後に、この記事を読んでいる学生に伝えたいことがあれば教えてください。
自分のできること、できないことを、できる限りその人に説明するというか、自分のことをちゃんと掘り下げておくみたいなことが大事かなと思います。障害があるからそうしておこう、というだけではなくて、自分のことをちゃんと知っておくっていうことは「相手にちゃんと自分のことを伝えられる」っていうことでもあると思うんです。自分はどんなことが得意なのかなとか、自分はどんなことが苦手なのかなっていうのをちゃんと知っておくことで、いざ就活ってなったときとか働くってなったときに、すごく動きやすくなります。
周りの人たちのことにも目を向けながら仕事に取り組む愛さんの様子が感じられました。個人的には障害者雇用といっても、会社側や周りの人たちと十分なコミュニケーションを取ることの必要性を感じました。
愛さんの通勤手段は「車」だとお伺いしたのですが、足に障害のある方がどのように運転されるのか気になったので質問してみたところ、運転補助装置の存在を教えてくださいました。
日本の車は右足でアクセルとブレーキを操作できるように設計されていますが、運転補助装置を車に取り付ければ運転することが可能な場合があるそうです。例えば、愛さんの場合は左足だけでアクセルとブレーキを操作できるようになっているんだそうです。足が不自由な方でも車の運転ができる場合もあるので、興味のある方はぜひ調べてみてください!(愛さんは「左足運転装置」を使っているそうです)
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