今頃どうしているのか?少年A
この記事を読んで『少年A矯正2500日全記録』(草薙厚子著)を読み終えた時の感想が蘇りました。
少年Aとは、あの神戸連続児童殺傷事件の被疑者である酒鬼薔薇聖斗のこと。
14歳で2人の子どもを残忍に殺害し、警察に挑戦状を叩きつけ、日本中を震撼とさせた事件の加害者だ。
風化しつつある事件で、知らない世代も多いと思う。
あれから25年。少年Aは既に少年ではなくなり、医療少年院での矯正教育を終え2004年に仮退院を果たし、現在では37歳になっている。
事件当時の私は3歳の長男と1歳の次男を抱え、テレビに釘付けになっていた。
ようやく言葉を話し出した可愛い盛りの長男が、まだミルク瓶を離せないでいる次男が、10年後にはこの少年Aのような事件を起こす殺人鬼に変貌するかもしれないと(可能性は0ではない)、子育てに迷いも苛立ちも感じていた私は身震いする思いで見ていた。
同じような不安を抱いたのは、きっと私だけではなかったと思う。
心の中にバモイドオキ神を作り出し、『聖なる実験』や『聖なる儀式アングリ』という殺人をやってのけたのは一体何が根本原因だったのか?
当時テレビなどの報道では、慕っていた祖母の死と母親の過交渉と愛情不足が原因だとされていた。
そう言われればそうなのかもしれないけど、でもたったそれだけのことで、あそこまで残忍なことが14歳の子どもにできるのだろうか?という疑問が拭えないでいた。
一方、同年齢の子どもたちから「わかる様な気がする」「ボクもいつキレるかわからない」という声も聞えた。少年Aが例外とは限らないという不安も膨れ上がる。少年Aは精神異常者だという診断が出ていれば、あるいはもっと気が楽になったのかもしれない。
この本で始めて知ったのは、鑑定医による精神診断の結果『少年Aは未分化な性衝動と攻撃性との結合により、持続的かつ強固なサディズムがかねてから成立しており、本件の非行の重要な要因となった』と診断されていたことだ。
つまり少年Aの場合、思春期の少年にある性中枢の発達が遅れ、暴力シーンをイメージすることでのみ性的な興奮と満足を覚える『性的サディズム』だったのだ。
少年Aの性の成長が異常だったのか、このアンバランスは誰にでも有り得ることなのか、また何が原因でバランスが崩れたのかまでははっきりとした診断は出ていない。
そのはっきりとしない部分に『母親との関わり』が滑り込んでいる。(ように思われる)
現に、医療少年院では『赤ん坊包み込み作戦』といって、精神科医や教官などのスタッフによる擬似家庭を作り出し、少年Aを赤ん坊の頃から愛情を注いで育て直すというプロジェクトが実行された。
そして本の文中によると、少年Aの性的対象が以前の猫の虐待シーンや暴力的なものから、女性へと移行していき、疎外していた母親との関係も回復したとある。
少年法に守られて少年Aは更生への道を歩むべく社会へ船出した。
『少年Aに再犯の恐れはない』と少年院関係者は太鼓判を押していたが、例えば私の家の隣に移り住んできていたとしたら、正常心ではいられないだろうと思う。
隔離と管理が徹底された場所での矯正が、どれほどの効力があるというのか。また実際に少年Aをこの目で確かめて安心できる状態になったとしても、少年Aに二面性がないと、あるいはサディズムが再燃しないと誰が言い切れるのか。
もし少年Aが再び何か問題を起こせば、(少年Aが既に成人しているとはいえ)自己責任の域では収まらないだろう。
少年Aは後に告白本である『絶歌』を執筆し出版している。
私はこの本を読んでいないけど、被害者家族にとっては傷口に塩を塗られたような、耐えがたい仕打ちだっただろうと想像できる。
このことからも少年Aが自らが犯した罪を反省し、矯正がなされたと言い切れるのか?
しかし、こうも思う。
事件を起こしたのは子どもだった。
どんなに残虐な事件だったとしても、子どもの頭で考え、子どもの衝動が引き起こした事件だった。決して幼稚な大人の仕業ではなかったのだ。
子どもは全ての面で発達途上で、どの部分にも可能性が秘められている。
きっと少年Aにも未熟だった性衝動が完成し、今後も必要な指導と保護の元で、地域に根ざした、より良い社会人として成長を遂げるのも不可能ではないはず。
その可能性に人間としての尊厳を賭けても良いのではないかと。
実際、現在の少年Aは結婚し生涯の伴侶を得て子どももいるという。
実際に自分が親の立場になって、過去に自分が犯した罪の重さを感じているに違いない。(そうであって欲しい)
「少年は未熟で、更生し得る」との信念を貫き、加害少年の審判を神戸家裁で担当した、元判事である井垣康弘さんの半生が無駄になってはならない。
少年Aが執筆した『絶歌』を「人間として生きることの決意表明」と読み解いた井垣さんの切なる希望を、一母親の立場からも見届けていきたいと思いました。
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