風のような君と -已己巳己-
ある夏の日。初めての旅に君が準備したのは、九州の南端行きと、北端から羽田への航空券、乗り捨てのレンタカーの3つだけ。
宿無しノープラン。心の赴くままの一週間の旅は、少しの不安をバックに忍ばせ始まった。
風のように自由な年下の君。石橋を叩きがちな私。
育った世代も、環境も、考え方も違う。
何処をどう切り取っても已己巳己には程遠い、でこぼこな二人。
左肩にのせたバックの不安は、時にずしりと重力を帯びた。
旅の半ば。火の国熊本。
草千里の中にある小さな丘に登ろうという君。
疲れで気の進まぬ私。
渋々登るとそこは、陽光を浴びて金色に輝く草原。
眼前で雲が沸き立ち、わが身をすり抜けていく絶景が待っていた。
君はいつも、新しい景色を見せてくれる。
未知の世界へ導いてくれる。
あの夏の旅は今、君と歩む人生の旅へと続いている。
君にそっくりな男の子と三人。
風任せも悪くない。
心の声に寄り添いあい、これからも未知なる旅を続けようか。