【読書レビュー】内海の輪、ゼロの焦点/松本清張
先日、友人とランチで予約したお店の
入っているビルに大型書店があったので
待ち合わせ前に「ゼロの焦点」を購入。
友人に会うと、彼女は
私のために「内海の輪」を買ってくれていました。
私が松本清張にハマったのを知って
彼女も少し早い目に来て
きっと有名な作品から読んでいくだろうから
知名度の低い作品の中から選んでくれたのでした。
なんてやさしい。
まさにそのとおり。
人が選んでくれた本や
読み終えたものを
譲ってもらうのも大好きです。
自分では選べないものに出会える喜び。
思いがけなさ。
視野が広がる感じ。
「内海の輪」は
私が以前住んでいた尾道と
その周辺が出てくる中編でした。
「死んだ馬」という短編も収録されています。
「内海の輪」は
日本の古代史を研究している助教授と
松山の老舗の家に嫁いで
自らも洋品店を経営している女性との
不倫の話がしばらく続きます。
ふたりの逢瀬や旅行の話がかなり続きます。
短編というほど短くもないけど、
長編というほど長くないページ数で
半分は過ぎないと誰も死なない。
読んでいる途中で
「あれ?私が今読んでるのって
松本清張だよね?」と
表紙を確認したぐらいに
なかなか誰も死なない。
なかなか事件が起こらない。
推理小説として、
これはなかなかチャレンジャーです。
でも、最後には
この長い前振りが
全て伏線として回収される気持ちよさ。
高い教育を受けて出世もし
人々から尊敬もされている人間が
自分の賢さに傲り高ぶり
下層の人間を軽く見ていることから
足元をひっくり返される展開は
ちょっと気持ちよかったです。
自分が住んでいたところが
大作家の手で描写されるのを
読むのも楽しい。
「ゼロの焦点」は
殺人の動機が「砂の器」に
少し似ていました。
私は高校生のとき、授業中に
文庫本を読んでいたんだけど(コラ)
あるとき現代文の先生が
「一人の作家の作品を
10個ほど読むと
その作家が何を書きたいと
思っていたのかがわかるよ」と
授業中の読書を咎めもせずに
言ってくれたことを思い出します。
松本清張はまだ私にとって3冊目だけど
それでもだんだんと作品全体の
ある視点が見えてきたように思います。
戦後の占領期を経て
高度成長期に差し掛かり
人々が辛く苦しく暗い記憶を
後ろに追いやりながら
上へ上へと目指している中で、
清張は、人々を上へと向かわせる
エネルギーの背後に隠された
劣等感やドス黒い欲望や
そんな社会に足蹴にされている人々に
目を向けていたのではないでしょうか。
そういう視線の低さみたいなのが
ちょっとした風景描写や
登場人物の仕草の描写に感じられました。
そして、そういうことが、
けっして説教臭くなく
まずはストーリー展開やトリックの
おもしろさが大前提としてあって
その上で、
登場人物のリアリティとして
描かれているところが
松本清張の魅力なのかなと思ったり。
引き続きハマる予定です。