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がん治療記x受験奮闘記

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コロナ禍でのがん治療をしながら地方国立大学薬学部に現役合格した大学生の書くがん闘病記x受験奮闘記 がん治療の中で経験した症状や精神疾患についてや 共通テスト元年の大学受験について…
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#大学受験

【がん治療記x受験奮闘記】放射線治療(1)

 8月31日、抗がん剤治療の開始と同じ日、放射線治療も始まった。初日は何もなかった。数日前に作った樹脂でできたマスクをつけてCTやMRIと同じように機械の上に寝て待つだけである。CTよりは時間はかかるがMRIのようにうるさくはなくとても楽だと感じた。
 放射線を照射されながら考える。この放射線の種類は何だろう。もし電磁波であるのならばそれはどのくらいの波長をもつのだろう。X線やγ線は紫外線より短い

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【がん治療記x受験奮闘記】抗がん剤治療(1)

 8月31日、抗がん剤治療が始まった。僕は少しワクワクしていた。白金が体の中に入るのだ。どうなるのかとても気になるに決まっている。副作用なんて簡単に乗り越えられるだろうと軽んじていた。ただ、点滴の針を入れるのはどうも慣れない。MRIの造影剤や手術の麻酔で点滴を使ってきたが、皮下注射、採血に比べると痛みが強いのだ。また、血管に管が入っている感覚も気持ちが悪い。さらに、邪魔である。右利きの僕はもちろん

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【がん治療記x受験奮闘記】治療前

 治療を受ける前、僕の頭の中に治療に対する不安はなかった。それよりも病室での受験勉強に対する不安の方が大きかったからである。まず、病室は大部屋のため他の患者の音が聞こえる。また、慣れない環境でなおかつベッドの上で勉強しなければならなかった。さらに、6時起床21時就寝であるため、健康な受験生に比べ勉強に集中できる時間が少なくなると思われる。受験生であるならば、1日10時間以上が普通だろう。しかし、僕

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【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(3)

 治療が始まる前、薬剤師から抗がん剤について詳しく説明があった。ただその説明を行う人は研修生だった。彼女は恐らく緊張していた。横で教育担当の薬剤師が見ていることも緊張の原因だろう。もし自分も病院で働く薬剤師になるのであれば同じようなことをするのだろうと想像しながら説明を受けた。
 僕の場合、抗がん剤治療は点滴で3日間薬を投与した後、25日間経過を見るのを1コースとし、それを3回繰り返すと言われる。

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【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~白金~

【がん治療記x受験奮闘記】理系トーク~白金~

 治療が始まる前、使うと言われた抗がん剤をインターネットで検索してみた。エトポシドに関しては環構造が多くかなり複雑な構造だったため深くは調べなかった。一方で、カルボプラチンの方は簡単な構造だった。そしてその構造を見て驚いた。2価の白金(プラチナ、Pt)が使われていた。よく考えれば名前にプラチンとは言っている時点でPtが使われていることを想像できたはずだが、僕はそうできなかったため少し悔しかった。カ

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【がん治療記x受験奮闘記】友人(1)

 入院から1週間が経過しようとしていた頃、明言は避けるが男性として必然的なある悩みを抱えることとなる。男子高校生が1週間もそれを我慢するというのはかなり難しい。そこで僕は文系の友人にLINEでこんなメッセージを送った。
「我欲慰自 是衝動如何」
 なんともくだらないメッセージだったが、友人はこう返してきた。
「使看護師慰若」
 嬉しかった。こんなくだらない会話に付き合ってくれる友人を持ってよかった

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【がん治療記x受験奮闘記】英検

 手術後、脳神経外科の病棟に戻ってすぐに僕は英検準1級2次試験の勉強を始めた。「脳腫瘍の発見(2)」で述べたように、手術後に退院できればその試験を受けることができ、もし合格すれば第一志望校の2次試験の英語に10点の加点があるからである。手術後の回復は順調で抜糸も予定通りの日に行われた。2次試験はスピーキングの試験なので本来は口に出して練習するものだが、大部屋の病室ではそれができないため頭の中で練習

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【がん治療記x受験奮闘記】手術後

 脳神経外科の病棟に戻ってすぐに尿道カテーテルを取り外してもらった。取り外す瞬間、とても痛かった。下半身を露出させなければならない恥ずかしさとその痛みのせいで気分は最悪だった。
 トイレに行くと鏡に自分の顔が映る。酷い顔だった。頭には包帯が巻かれており、顔はむくんでいるようだった。また、シャワーを浴びていなかったせいで髪の毛が油でギトギトになっていた。余計に自分の顔が嫌いになる。
 手術後数日間は

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【がん治療記x受験奮闘記】入院前~浪人~

 僕にとって浪人という言葉はかけ離れた存在だった。しかし脳腫瘍があると分かってからその言葉は急に僕の前にくっきりと表れ始めた。それでも僕は浪人をしたくなかった。浪人なんて受け入れられるはずがなかった。高3の夏の時点で第一志望A判定を取ったのに、浪人なんて有り得ない。そう考えていた。そのため入院前にした学校や予備校での面談で僕は一般入試での第一志望現役合格を目指す意志を示した。
 しかし、両親はそれ

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【がん治療記x受験奮闘記】修学旅行の中止

受験生になる前の最後のビッグイベント、修学旅行が新型コロナウイルスによって中止に追い込まれた。中高一貫校に通っていた僕にとって5年間楽しみにしていたそれはあっけなく消えた。高校2年生の最後に修学旅行に行きそこで切り替えて受験に挑むという予定が崩れ、気合の入りきらないまま受験生を迎えてしまった。