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『8番出口』という社会現象。ユーザーとクリエイターの「魔改造」の影響力

こんにちは!スゴロックスです!

『8番出口』の不思議なバズり方

年末が近づき、今年の世相を表す「流行語大賞」のノミネートが発表されました。

SNSで話題となった「猫ミーム」や、オリンピックで注目を集めた「無課金おじさん」、社会問題として取り上げられた「令和の米騒動」など、2024年を象徴するような言葉が並ぶ中、ゲーム関連のワードとして『8番出口』がノミネートされています。

引用:「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞
https://www.jiyu.co.jp/singo/

『8番出口』のリリースは昨年11月ですが、2024年に入ってからもXやYouTube上で大きな反響が続いた話題作です。

その『8番出口』ですが、インディーゲームのバズり方としては不思議な動きをしています。

その一例として、Googleでの検索ボリューム推移を示したグラフを見てみましょう。

Googleトレンドより引用
https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=2023-11-03%202024-12-04&geo=JP&q=8%E7%95%AA%E5%87%BA%E5%8F%A3&hl=ja

赤丸で強調している部分を見ていただければ分かる通り、『8番出口』の検索ボリュームは、いちど大きな盛り上がりができた後も、わずかながら二回目、三回目の盛り上がりができているんです。

一般的に、バズったインディーゲームは大きな山ができた後、そのボリュームは落ちる一方で、なかなか回復しないことが多いです。

しかし、『8番出口』の盛り上がり方は持続的で、『8番出口』のバズり方、ウケ方はいわゆる普通のインディーゲームとは違うように感じ取れます。

なぜ『8番出口』は、他のゲームと比べて、長く人々の心を掴んでいるのでしょうか。

その要因の一つに「配信者がたくさんプレイした」という点があるのは事実だと思います。
ですが一方で、この持続的な盛り上がりを「配信者の活躍」だけで説明するのは、少々乱暴なように感じます。

今回は「8番出口の不思議なバズり方」について、多面的に考察していこうと思います。

期待を形成するウェブメディア

まずは、リリース当初、『8番出口』がどのように広がっていったのかを振り返ります。

最初期の期待値を形成したのは、開発者本人の発信や、ゲーム系ウェブメディアです。

『8番出口』の最初の情報解禁は、2023年11月3日に開発者のKOTAKEさんから行われました。

この情報は、ゲーム系ニュースサイトのオートマトンゲームスパークで取り上げられることとなります。

これらの情報発信に対するリプライを見ていると「こんな駅ありそう…」「新宿行くといつもこれ(道に迷って駅から出られない)で草」などのコメントが寄せられています。

この段階で、ユーザーのゲームへの期待値や、興味関心の度合いはかなり高かったように思えます。

火付け役としての配信者

そして、2023年11月29日の正式リリース。
ここから拡散の主役は、YouTube上で活躍する動画投稿者・配信者に移ります。

リリース翌日の11月30日には、有名ゲーム実況者のレトルトさん、12月1日にはキヨ。さんの動画が投稿されました。

また、配信者も動きます。12月1日には、にじさんじのメンバーが配信を開始。その数なんと12人。また、少し遅れた12月5日からは、ホロライブのメンバーも配信を開始します。

これらの動きと連動するように、12月6日には、YouTube上での『8番出口』の検索数や、Steam上での同接数がピークを迎えました。

Googleトレンドの検索ボリューム等を参考に筆者作成

このような動きを見ているとやはり、『8番出口』ブームの火付け役として、動画投稿者や配信者の存在はかなり大きいものであったと感じます。

配信者も「期待値がある」ゲームを選ぶ

補足ですが、これらの「火付け役」となった方々は、同作が「発売前から話題になっていたから気になった」「SNSでバズっていた」ため、ゲームをプレイして動画にしようとしたと語っています。

この発言からは、SNSやウェブメディアで、人気の「初動」を形成することの重要性を再確認できます。

昨今のゲームタイトルは、動画投稿者やゲーム配信者の手によって盛り上がりを見せるものも数多く存在します。

一方で、そもそも動画投稿者や配信者の「目に留まる」事がなければ、配信もされません。

配信者はあくまで「人気を加速させる」役割であり、そもそもユーザー側に『このゲーム面白そう』という期待値がないと、配信者も取り上げないという現実が見て取れます。

配信者が一般的になってきた今だからこそ、ゲームメディアやXなどの媒体で盛り上がりの初動を作ることや、ユーザーに好意的な反応をしてもらうことの重要度が、より増しているのかもしれません。

ここは、開発側や運営側のマーケティングの腕が試される部分です。

クリエイターの「魔改造」が始まる

さて、ここまで説明してきた「開発者やWebメディアが初めの認知を作り、YouTuberが盛り上げる」という流れ自体は、一般的な「バズったゲームの流れ」と同じだと思います。

『8番出口』が異質なバズり方をしたのは、ここからです。

その担い手はゲーム制作者をはじめとしたクリエイターでした。

次々登場する「8番ライク」なゲーム

このムーブメントに拍車をかけたのが「8番ライク」と呼ばれるゲームタイトル群です。

『8番出口』が大きな注目を集めた後、さまざまなゲーム開発者が、同作にインスパイアされた作品を発表し始めます。

その多くは、「ループする世界の中で異変を発見する」という、8番出口「らしさ」をベースにしつつも、そこに「クリエイター自身の作風」を追加して生み出されています。
たとえば、「夜勤事件」などをリリースした人気ゲームクリエイターであるChilla's Artさんは、『新幹線0号』という、異変発見ゲームをリリースしています。

こちらの作品は、無限に続く空間、謎めいた雰囲気、ウォーキングシミュレーター形式といった8番出口の要素を持ちつつも、ストーリー性やホラー性、考察要素などがふんだんに盛り込まれていて、非常にChilla's Artさん「らしい」ゲームに仕上がっています。

そのほかにも、エスカレーターに乗って地下空間を進み、脱出を目指す「エスカレーター」や、部屋の中で異変を見つけたら写真を撮影する「偽夢」など、「8番ライク」なゲームが次々とリリースされています。

これらのムーブメントから分かるとおり、『8番出口』が持つ魅力に、それぞれの開発者のオリジナリティや工夫が加わることで、多様な作品が生み出されました。

この「8番ライク」流行の背景にある、「新しいエンターテインメント性を持つゲームを吸収し、自分たちなりのオリジナリティを加えた新しいゲームを作る」というムーブメントには、以前記事を書かせていただいた、日本の『魔改造』文化に近いものを感じます。

こういった「原作にインスパイアされたゲームが次々にリリースされて、話題性が継続する」構造は、2023年に大流行した「スイカゲーム」を彷彿とさせます。

この、多様なクリエイターの「魔改造」が『8番出口』の息の長さの一つの要因であると考えることもできるのではないでしょうか。

そしてネットミームになった

一方で、『8番出口』の盛り上がりを形成したのは、「8番ライク」を作るゲームクリエイターだけではありません。

イラストレーターを始めとしたクリエイターたちが、X上で「8番出口ネタ」の投稿を始めます。

その動きはXだけではありません。
インスタグラムでの「#8番出口」の投稿は1000件以上。pixivでの「#8番出口」の投稿は800件以上あります。

さらに、こういった「8番出口パロディ」の動きは企業公式にも。

アース製薬は自社の看板製品「モンダミン」の宣伝動画に8番出口のパロディを採用。

「“異変”のないお口にするために」をテーマにX上に動画を投稿します。

このシュールさが好き。

こういったパロディや創作以外にも、『8番出口』をテーマにした投稿はSNS上で話題になっています。

特にX上での動きは顕著で、多くのユーザーが「この通路…8番出口っぽい…」といった投稿をして話題になっています。

『8番出口』の世界観は「無限に続く地下通路」という、一見すると非現実的な空間です。ですが、ゲーム内での描写はあまりにもリアルで、本当に「どこか」に実在しそうな「駅の通路っぽさ」があります。つい「モデルになった駅」を探してしまいますね。

また、「駅の出口で迷う」という「誰しもが一度は経験したことのある体験」に紐づいている点も大きい要素のように感じます。
駅そのもののサイズが大きかったり、出口がいくつもある駅で迷う人も多いでしょう。
そして、迷う度に思うのです。「これ、8番出口っぽいな」と。

ここまで紹介してきたことを踏まえると、『8番出口』はネット上のユーザーの手によってミーム(画像や動画がSNSに多く拡散されていく現象)化していったと言えます。

「遊び方」を再発明したプレイヤー達

こういった「ミーム化」によって生まれた盛り上がりとは別軸で、『8番出口』の遊び方にも多様な盛り上がりが生まれます。

その代表格の一つは「8番出口RTA」でしょう。
※Real Time Attack(リアルタイムアタック)の略語。ゲームをスタートしてからクリアするまでの時間を競う。

「異変を発見し、脱出をめざす」という『8番出口』の独特なゲームシステムは、非常にRTA向きです。

『8番出口』のクリア時間を短縮するには「いかに効率的に通路を探索し、異変を見つけるか」という戦略性が求められます。

プレイヤーたちは、ゲームの構造を徹底的に分析し、最速ルートを見つけ出すために日々試行錯誤を繰り返しているようです。

実際に、この記事を執筆している2024年11月現在では、RTAの統計サイトであるSpeedrun.comにおいて104件の『8番出口RTA』レコードが記録されております。

もちろん、このウェブサイトに記録されているレコードは氷山の一角であり、実際はさらに多いと思います。

実際に、このSpeedrun.comに登録されていませんが、クリア速度58秒という衝撃の記録を出した様子もYouTubeに投稿されております。

また、この『8番出口RTA』は、日本で行う大規模オフラインRTAイベント『RTA in Japan』の種目にもなっております。

「本来開発側が想定していない遊び方を『発見』して、その遊び方が盛り上がる」のは、プレイヤーの裾野が広がる要因にもなります。

また、開発者のKOTAKEさんも、『8番出口』のRTAを歓迎するような発信をしています。

RTAによる「遊び方の再発明」が行われたことにも、『8番出口』の息の長さを支える要素があるのではないでしょうか。

『8番出口』という社会現象

ここまで、「8番ライクなゲームを生み出すクリエイター」「ミーム化させていったネットユーザー」「新しい遊び方を発見したプレイヤー」の活躍について説明してきました。

いずれにも当てはまるのは、『8番出口』というベースがありつつ、クリエイターやユーザーが、自分たちなりに「改造」していき、開発者の手を離れて『遊びだした』点にあると思います。

もはや社会現象です。
『8番出口』が人気を持続できている理由は、ゲームそのものの面白さや、配信者の影響力だけではありません。『8番出口』をリスペクトしつつも、『自分ナイズ』していった多くのクリエイターやユーザーの力も、大きいと感じます。

結局、コンテンツを持続的に盛り上げるためには「新しい遊び方を見つける」ユーザーと、「本家へのリスペクトがある魔改造コンテンツを作る」クリエイターの力があってこそなのではないでしょうか。

「前味」「中味」「後味」がしっかりデザインされている

最後に、今回のテーマ「8番出口の不思議なバズり方」について、西Pのコメントを紹介。

前職時代に、オーナーが「前味・中味・後味」が大事だと言っていたことを思い出しました。

「8番出口」、、、何それ!?って興味を引く感じあり。
そして、それが手軽に試せる感じで、値段も手ごろ。
いや、それでも簡単にDLしないぞ、、、
あら、配信者がやってる、何よ、これ、簡単にできそうじゃないの!?
じゃあ、ぽちっとしちゃおう!
なんか、面白い、どういうこと?なんで出られないの!?誰かと喋りたい!

というように、このゲームには「前味・中味・後味」の要素が凝縮されて、開発の力だけではなく、マーケ的な力もあってサービスが成り立ったんだと解釈しています。

そして、中心は新たな体験、ビジュアル的なインパクト。
ファミコンやPCエンジン時代の良さもあり、これは大手では作れないような気がします。

スゴロックスもこの感覚を大切にしていきたいと、あらためて感じさせられました!

今回は「8番出口の不思議なバズり方と、ユーザー、クリエイターの影響力」について語ってまいりました。

一方で、この記事で執筆させていただいたことは、あくまで僕たちなりのいち視点だということに、ご留意いただけましたらと思います。

このスゴロックスのnoteで取り上げて欲しいトピックやキーワードがありましたらこちらまで‼

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