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VRしぐさと自己表現

 にわかにアバターの装いがサンタ多めになり、きらきらして空気が透明なワールド需要が高まる候、皆様いかがバーチャルライフお過ごしでしょうか。Galupenoです。
 今回はアドカレの記事として、VRしぐさと自己表現について、なんやらぼちぼちと書こうと思います。
 先日はるーしっどさんの「リアルとバーチャルのイベント運営」でした。clusterでも大型イベントが増えてきましたが、いつもは観客側として知らないことがたくさんあって勉強になりました。

 なお主な生活圏がclusterなので、このプラットフォームにおける話をします。あと、僕はあまり写真を撮らないのでVRじゃなくてデスクトップ入室の写真も含みます。


VRしぐさとは?

 僕がVRゴーグルを初めて被ってから2年くらいが経ちますが、被るまでの人生では決して気付かなかったことがたくさんあります。そのうちの一つが、自分はVRしぐさで自己表現するのがとても好きなのだということです。

 VRしぐさというのは僕が勝手にそう呼んでいる行為のことで、それはシンプルに「VRゴーグルを被り、トラッキング状態で身体を動かす」ことを意味します。現実世界のボディランゲージに近いです。頭+両手の3点トラッキングでも、6点8点11点などの全身トラッキングでも同じですが、座ったまま/立ったまま何もしていない状態はこの限りではありません。また、VR睡眠とも異なります。
 僕がバーチャル空間でVRしぐさをするときは、たいてい体調と気分が良く、リラックス状態で、目の前の人に好意を示す目的があります(Gレコのステップみたいな)。動き方は様々ですが、挨拶のときはオーバー気味に手を振ったり、ホラー系ワールドでは縮こまってぶるぶるしたり、立ち話をしていたら手足や首をぶらぶらさせたりします。
 現実世界で同じことをしたら「なんだァてめーは?」と思われるような行為ですが、せっかくVRで身体を動かせるのだから、動かせるだけ動かしたいと僕は思います。VR体験初期の頃は、疲れて座りながらということもありましたが、今ではずっと立ったままプレイすることが大半です。

VRしぐさの楽しさを知るきっかけ

アウェー時代と承太郎ポーズ

 僕が初めてのVR機器を手に入れて入った世界は、アウェーのVRChatでした。当時WindowsPCを持っておらず、clusterもQuest単体に対応していなかったからです。VRCでのフレンドという橋頭保を築けないまま、ワールドを一人で探索したり、無言で外国人に混ざってマーダーゲームをやったりしていました。しかしぼっちだったので、他ユーザーとのコミュニケーションも無く、VRしぐさをする機会はありませんでした。

見知らぬ海外ユーザーに助けてもらった時の写真

 月日が流れ、WindowsPCを手に入れてclusterにVRで入れるようになってからも、VRしぐさの楽しさはまだ知らないままでした。clusterでのVR利用は主に、自分のワールドのVRでの見え方確認や、イベントがあった時にVRで観覧するくらいの用途に限定されていました。
 clusterは非VRユーザーが多く、耳と口だけ置いている「ながらメタバース」状態のユーザーや、棒立ち状態のアバターなどが大半であった(当時アバターのモーションは移動・ジャンプ・棒立ちのみで、3人称視点でも背中しか見えなかった)ため、没入度のゆるいユーザーの割合が多いのは、僕がいろいろな場所で書いてきたとおりです。その結果、没入度・熱中度の高いコミュニケーションに僕が出くわさなかったことが、VRしぐさの楽しさに気付かなかった一因だと思います。

YouTube動画:【公式】Hello Cluster(11月16日)より

 最初の転機が訪れたのは、ハロークラスターで告知をしたときです。そのとき僕のアバターは制帽を被っていたのですが、告知の最後にネタとして空条承太郎が制帽の庇を摘まんで回すポーズを真似しました。

(昔は告知1分あったのでだらだら喋ってますね)

 この日の振り返りとして、身体の動きを使って自分のスピーチを補強したり、承太郎ポーズをとったりする姿が他人に見られること:身体を動かした自己表現が好きだと思った、と書いています。ここで初めて「VRしぐさ」と「自己表現」が結びつきました。
 昔、「運動は飽きるけどダンスは続けられた」と話していた人がいて、僕は「ダンスは自己表現だからじゃないの?」みたいに返しました。絵描きの表現媒体がキャンバスと絵具なら、ダンサーの表現媒体は自身の身体なわけです。

全員強制ミュートでVRしぐさ炸裂

 次に大きな記憶に残っているのは、今年の夏、とあるホラーワールドに遊びに行ったときのことです。ワールドは「変化屋敷」という怪作です。

ここはほんまこわい

 VRでうろうろしていた折、ここにフレンドがいたのでなんとなく合流してみたら、なぜかマイクでしゃべっても声が聞こえない謎仕様になっていて、全員強制ミュートでコメントのみのコミュニケーションになっていました。探索してゴールを目指すワールドなので、みんな固まってあちこち歩くのですが、なんせ声を出しても虚空に消えるのでお互いの姿だけが頼りです(エモート音も消えていたはず)。
 ここで僕は唯一のVRユーザーとしてVRしぐさを炸裂させていました。気になる物を指さしたり、ワールドのNPCにちょっかいをかけたり、怖い場面でオーバー気味に怖がったり、とにかく全身を使ってフレンドと遊ぶのが楽しかった記憶があります。

聲なきに聞け

 先述の「変化屋敷」の後にフレンドと遊びにいったホラーワールドでは、いつもどおりボイスによる会話ができるようになり、僕もボイスを使ってほかのフレンドらとコミュニケーションを取りました。しかしここでは全員強制ミュートの「変化屋敷」ほどVRで身体を動かせること、それによって自分の感情や意思を表現することの重要性はなく、VRしぐさもほぼ発出しませんでした。
 僕は昔からコメントとエモートだけでコミュニケーションを取るときと、ボイスも使うとき両方を使い分けています。ボイスを使わないコミュニケーションを「ノンバーバル・コミュニケーション」と呼んだり、それを主とするユーザーを「無言勢」と呼んだりするのを見かけます。みんな様々な理由でボイス使用の有無を選んでいると思います。

 僕がVRしぐさをする場合、ボイスは使わないほうが楽しいなという感触があります。喋るときはVRしぐさを取らない、VRしぐさを取るなら喋らない、という感じです。当たり前ですが、特定の表現にこだわって情報を発信する際、他の表現を加えるとノイズになってしまいます。ボイス無しなら相手に100%伝えられていた身体表現も、ボイスを入れると相手には声+身体の情報が100%として伝わり、相対的に身体表現の効果が薄れるからです。

 そのために、僕はよく無言でふらふらVR仕草していることが多いのだと思います。

VRしぐさは着ぐるみに近い?

良いVRしぐさは良いアバターから

 僕には自分のアイデンティティの基点となるアバターが無く、そのときの気分でころころ変えます。その中でも、VRプレイ中によく着るアバターと、そうでないものがあるということに気付きました。
 VRプレイ中によく着るアバターは、まず手足が生えていて、人型に近いもの、というのは理解されやすいと思います。自分の身体の動きにアバターが合っていなかったりすると結構ストレスだからです。

VRだとガチガラスは頭の位置が補正され奇妙な見た目になる

フルトラ適正と呼ばれるように、デスクトップ入室では問題なくともVRで着用した際に破綻するアバターも多く、これをクリアしていることが第一条件になります。

 次にVRでよく着用するのが、可愛くて元気なアバターです。

アバター「FortyOne」付属おまけ画像より

 最近よく着ているFortyOneというアバターは、活動的な見た目、チャーミングな表情などが気に入っています。こういったアバターを着て、現実なら絶対にしないような仕草:ケツ振りダンスなどをしていると、普段は得られない幸福感があります。
 リアルの属性とは正反対のアバターを着てVRしぐさをすることで、自分は普段とは別の人格を演じているという意識が発生し、これが新鮮で楽しいのだと思います。

 一方で、マッチョとか地獄アバター(奇怪な見た目のネタアバター)みたいなものは着ていて辛いです。

 先日のマッチョロビーでは、1時間くらいマッチョアバターを着ることがありましたが、長時間マッチョ姿でいることに耐えられずイベント終了と同時にすぐアバターを変えました。マッチョ姿でもギャグ仕草をすることはありましたが、自分のおかしな姿が笑いものになっているのは、どこかもやっとするものがあります。
 これがVRではなくデスクトップ入室だったら、ネタアバターでも違和感は少ないです(それでも可愛いアバターを着ている方が幸福度が高い)。

 リアルの人格・属性とかけ離れた、「自分ではない姿」を身にまとってボディランゲージを取る楽しさ。これがVRしぐさの醍醐味なのかなと考えます。
 ただ、「自分ではない姿」=「自分の理想の姿」ではないことは知っておいてほしいです。僕の現実での理想像とバーチャルでの理想の姿は一致しておらず、VRしぐさはあくまでVRの楽しみ方のひとつであり、一時的なロールプレイやコスプレ、着ぐるみを着て遊ぶ行為に近いのかなと思います。

VRしぐさは着ぐるみしぐさ?

 VRしぐさをしていてたまに思うのが、これは着ぐるみを着て動くのに似ているな、ということです。

 遊園地などでは、着ぐるみをまとったキャストがキャラクターになりきって来場者とコミュニケーションを取っています。その際、遊園地の世界観やキャラクターのイメージを損なわないように、キャストは決して喋らないパターンが多いです。そして言葉でコミュニケーションを取れない代わりに、オーバー気味なボディランゲージで対応しているのをよく見ます。
 個人的に、僕のVRしぐさと着ぐるみの仕草は共通するものがあると思っていて、「喋らない」「その代わりに身体を大げさに動かす」「全力でキャラになりきる」など、共通点が多いです。また、目の前の物や相手の所作をよく観察して、ネタになりそうであればボディランゲージに取り入れてネタにする、というエンターテイナーの気質も似ている部分があります。
 VRしぐさ・着ぐるみしぐさに限らず、すべての表現活動は豊かな想像力を必要とします。「いま自分はこのキャラなんだ……!」という状況を想像し、「このキャラならこう動くに違いない」という完璧な演技を追求する。VRしぐさは、役者、声優、歌手、落語家、漫才師などと同じような、極めれば芸事に通じるものがあると思います。

何故、身体を使った自己表現なのか?

 僕は今まで様々な媒体で表現活動を行ってきました。絵、マンガ、アニメーション、バーチャルワールド、バーチャルイベント、ゲームなど。特定の表現にこだわりがなく、その時々で「なんかこれいいな」と思ったものに節操なく手を出して、自分なりの世界を出力し続けています。
 VRしぐさもこの自己表現の枠に分類できると考えています。先述のダンスなどと同じような、自分自身の身体を媒体とした表現です。表現の定義は様々ありますが、ここでは「ある者が自身の思考や感情を創出し、それを他者に提示すること」としておきます。つまり、表現には「他者へ見せること」が必ず必要であり、僕が自分の気持ちや考えをアバターに乗せて他のユーザーへ見せることは、明確な表現行為であると考えます。

 それでは何故、自己表現がバーチャル世界で必要なのか、どうしてアバターの動きでなければいけないのかについては、まだはっきりまとめられていません。ですがきっと、「俺はここにいるぞ、ほら動いてるぞ」とか「見ろ、俺のアバターの動きは可愛いだろ」という自己主張や、現実では抑圧していたり伝える相手がいない「俺は今こんな気持ちだぞ」という感情表現をバーチャルで発散させているのではないかなとか考えています。
 なるべく現実の姿とは異なるアバターを選ぶのも、「自己を主張するな」「感情を表現するな」という超自我の抑圧から「これはそういう遊びだから」と逃れるためである、みたいな捉え方もできます。まあこの辺はあんまり考えても仕方ないのでほどほどに。

VRしぐさはここが楽しい!

 さんざっぱら難しいことを書いてきたので、最後にVRしぐさの楽しさをみなさんに共有します。

・自分ではない姿になりきってストレス発散!

 バーチャル空間では規約や法に触れない限りどんな姿をしても許されるし、現実での自分の姿や属性に縛られることなく、好きな姿でいられます。
 そこで普段はできないような派手なボディランゲージや、その姿ならではのロールプレイに興じること、並びに身体をがんがん動かすことでストレス発散になります。clusterには運動系イベントがいくつも定期開催されているので、そっちへ行けば運動不足解消にもなります。

・新しい自己表現ができる!

 自分の身体を動かし、その姿を他人に見てもらうことは立派な表現行為といえます。自己主張が苦手だったり、感情をうまく言葉にできなくても、身体の動きでそれらを表現することで、普段は味わえない新鮮な体験ができます。
 突き詰めれば演劇やダンスにも通じるVRしぐさで、現実ではできなかった自己表現を拡張してみてはどうでしょうか。

・全身トラッキングでさらに表現力UP!

 最近、トラッカーを買って全身トラッキングができるようになりました。これでトラッキング箇所が頭+両手の3点から、頭+両手+腰+両足首の6点になり、ついに足が飾りではなくなりました。
 3点トラッキングの時にいつも不満だった、頭の向き=全身の向きが改善され、頭と腰から下を別々に動かせるようになり、とても満足しています。また、しゃがんだり寝転んでも下半身が崩壊せず、ちゃんと自分の身体の動きとマッチしている点も嬉しいです。
 3点トラッキングでVRしぐさにはまったら是非、全身トラッキングでVRしぐさに興じましょう。

まとめ

 VR機器は単なる全視界モニターではなくて、自分の身体の動きをトラッキングしてバーチャル空間に表現できるデバイスです。あなたのアバターにはせっかく身体がついているのだから、動かさなければもったいありません。
 まずはいつもより大げさに手を振ってみるところから始めて、手持無沙汰の時にふらふら揺れる、このアバターだったらこういう時こういう動きをするだろうなと想像して動く。VRしぐさを始めるのに特別な用意はありません。あなたの身体が表現媒体なのです。
 この冬に、寒いしなんか身体うごかすかくらいの気持ちで始めてみてはいかがでしょうか。いつもは味わえない新鮮な体験ができます。

 明日のアドカレ記事は利賀セイクさんの「clusterのワールドを巡る謎解き」です。利賀さんはクイズイベントをコンスタントに開催されておられる方で、どんな内容なのかわくわくしますね。
 それではまた。

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