ティーチングからコーチングへ。そして、その先にあるものへ──?

 主体的、対話的で深い学び。個別最適な学び。学習の個別化と個性化。
 これらの課題を前にすると、それに応えようと日々、工夫を重ねてらっしゃる先生方の思いと共に、学びの主体は子ども達自身であること、に改めて思い至ります。
 私が長く関心を抱いてきたテーマの一つに、セラピー/カウンセリングがあります。セラピーやカウンセリング、あるいは精神分析でも、その主体はセラピストではなく、クライアントであるとされます。
 セラピーやカウンセリングというと「癒し」という言葉が頭に浮かんでくるのですが、「癒し」という言葉を忌避するセラピストさんも多いのです。「では、何をやっているのですか?」と尋ねると、「当人を支えること、そして当人の変容をアシストすることです」と。
 特別支援教育の現場では、マインドフルネスが導入されているケースもあると聞きます。マインドフルネスというのは仏教でいう瞑想のことですが、セラピーやカウンセリングのみならず、かなり以前から、大手企業などでも社員のメンタルヘルスやマインドセットの変容のために取り入れられているメソッドです。
 そんな関心から手にとった本──。バイロン・ケイティ+スティーヴン・ミッチェル 『タオを生きる──あるがままを受け入れる81の言葉』(ダイヤモンド社、2014年)。
 本書はバイロン・ケイティというセラピストが、中国春秋時代の哲学者である老子の言葉を自身の解釈で今に伝えたものです。
 ケイティは「ワーク(探求)」と呼ばれる方法で数百万人に及ぶ人たちの癒しや成長を支援してきたセラピスト。辣腕のビジネス・ウーマンであり、南カリフォルニアの小さな砂漠の町に住む母親であった彼女は30代前半に重度の鬱状態になり、その後、約10年にわたって彼女の精神状態は悪化。妄想や激しい怒り、自己嫌悪、そしてたえまない自殺願望に陥ります。最後の2年間は寝室から出られないこともあったといいます。
 しかし1986年2月のある朝、人生を変えるような気づきが訪れます。ケイティはそれを「現実(リアリティ)への目覚め」と呼んでいます。彼女が「ワーク」と呼ぶ自己探求の方法は、その朝にケイティの中で目覚めた「問いかけ」を形にしたものです。
 彼女のワークは、以下の、たった4つの質問からなります。

1.それは本当でしょうか?
2.その考えが本当であると、絶対言い切れますか?
3.そう考える時、あなたはどのように反応しますか?
4.その考えがなければ、あなたはどうなりますか?

 「私は安全ではない」「私にはこんなことはできない」「彼女は私から去るべきではなかった」「私にはもっとお金が必要だ」「人生は不公平だ」等々──。
 本書には、自分自身や人間関係、世界についてのこうしたストレスフルな考えに対して、4つの質問を発するケイティのガイダンスを受けながらワークをおこない、ダイナミックに変化する人たちの実例が豊富に紹介されています。
 ケイティは本書のなかで繰り返し繰り返し、「現実」ということを言います。
 「瞬間瞬間のまったくあるがままの現実は、常に優しいのです。私たちの視野を曇らせ、本当のことを曖昧にし、世界が不公平であると私たちに信じ込ませるのは、現実についての私たちの『ストーリー』(現実についての考え)です。……私は現実を愛します。あるがままの現実を愛します。それがどのように見えようとも。そしてそれがどのように自分に訪れようとも、両腕を広げて歓迎します」と。
 彼女の夫であり、本書の共著者であるスティーヴン・ミッチェルは、こう書いています。
 「4つの問いかけをした後、あなたはもう同じ人間ではありません。人生がどう展開するにせよ、もっと多くの自信と心の平和をもって生きることになるのです。そして最終的に、頭(マインド)がクリアになれば、人生があなたを通じて自然に展開し始めます。苦もなく、喜びや思いやりをもって。それこそ、老師が私たちに指し示していたことです」
 苛烈な現実を注視しないことによって、それを真正面から注視していればありえたであろう希望を失ってしまい、現実がより一層、苛烈さの度合いを増してしまう──。ケイティのきわめてシンプルかつパワフルなメソッドは、私たちが日々の課題に向き合うことを鼓舞してくれるものという印象を強く抱きます。
 同時に、ケイティという稀代のセラピストの言葉に触れると、コーチングというのは人間のポテンシャルを信じ抜くカウンセリング・マインドを内包するものではないか。そんな思いに駆られます。
 教育とカウンセリング──。追究したいテーマです。

(文責:いつ(まで)も哲学している K さん)

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