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魚鱗の輝きを”理科”してみた

子供の頃から言われていたことには、疑問を抱きすらしないことも多い。
中学時代の水泳部の顧問の先生は雷鳴の中「プールに雷は落ちない」と言い切って練習を続けた。
理科の教員として20年を超えるが、いまだにその謎は解明されていない。

アルミニウム製の名作ルアー

「魚のウロコに含まれ、銀色に輝くグアニン色素に最も近いアルミニウム製なので、よりナチュラルにアプローチできる!」

私の大好きなルアーにWLというメーカーのバイブレーションプラグがある。ルアーフィッシングを初めて間もない頃の私は、このルアーの売り文句()にイチコロとなり、初期ロットを購入した一人である。以後、このルアーは数々の獲物を私の手元に届けてくれたのはいうまでもない。

とにかく釣れる不朽の名作W.SONIC

プールにも雷は落ちる

数年前。
私が指導を担当していた中学生がメダカの群れ行動に関する研究をした。具体的には、メダカは群れをつくるために、相互の鱗の輝きを手がかりとしている可能性に迫った。
その検証実験では、水を濁らせて輝きが鈍るほど群れは分散した。また、水槽内を泳ぐ個体数を増やすほど群れが形成されやすくなった。
《結論》
鱗の輝きは群れの形成に必要な要素である。

さらに、その後も研究を続けた彼の研究は昨年、奇しくもあのプラグの核心に迫ることになった。

解明されたこと

それは、金属の輝きには魚を誘引する力があること。同時に、アルミニウム・真鍮・ステンレス・銅など、さまざまな金属間でメダカの誘引度に有意差は認められないということだった。
《結論》
・アルミニウムの輝きが特別はわけではない。
・金属的な輝きが群れ形成の手がかりになっている可能性が高い。

『アルミニウム≒グアニンだから釣れる』神話が朧げになる瞬間だった。
プールにも雷は落ちるのである。

しかし、あのアルミ製バイブレーションプラグが釣れることに間違いはない。そのことは私だけでなく数々のルアーアングラーの釣果が証明している。最近は金属価格の高騰で生産されていないが、中古屋で売っている場合は即買いのルアーである。アルミ製のルアーが釣れる理由は間違いなく存在する。

アルミ製のルアーが釣れる理由(予想)

ここからは検証を行なっていないが、アルミ製のルアーが釣れる理由は金属としての比重の軽さだと思う。アルミで作ったルアーは、同じ大きさの金属ルアーよりもゆっくりと沈み水流の影響を受けて動きやすい。これは、状況によっては非常に大きな利点となる。
当然、その逆もあるわけで、その時は普通の真鍮製ルアーを使えば良い。

同じ大きさだが左:アルミ2.5g   右:真鍮5.0g

鱗の輝きと群れの科学

なお、この探究活動の指導を通して、釣り人としての面白い気づきも多かった。
①「どう考えてもフィッシュイーターではない小魚がついてくる。」
ルアー釣りをしていると、フィッシュイーターではない小魚がルアーを追ってくる。これは、群れ形成のメカニズムが関係している。魚たちが群れをつくる際にはまずは互いの追従行動から始まるのだ。だから、輝きを放ちながら動くルアーと群れを作ろうとして追従していると言える。
やはり、”鱗の輝きは群れをつくるきっかけ”仮説は有力だ。

②「同じ条件で鱗の光沢度を計測すると、値が魚種ごとに異なる。」
同じ条件で鱗の光沢度を計測すると、値が魚種ごとに異なる。鱗の輝きの構成要素は「(グアニン結晶による)反射光」と「(骨質層(鱗表面)の反射光」だ。後者は光沢度として測定することができる。
なお、魚の種類ごとにこの光沢度を測定すると、群れをつくる魚の鱗の光沢度は高い。この調節をうまくできれば、群れづくりを誘引することができ、うまくいけば魚類の保全に役立ちそうである。
ちなみに、大手釣具メーカーD社が大学教授を巻き込んで、鱗の輝きを利用したルアーを開発した。着眼点は同じだが、鱗は何故輝くのかという生態的意義に注目した我々の研究とは目的が異なるが興味はある。

新旧”鱗の輝き”ルアー?

鱗が美しい

生徒撮影の一枚

たくさん鱗のことを考えてきた。結果、自然の造形美にひたすら感心した。
出会った1つの図鑑を紹介する。魚だけではなく、爬虫類までも含めて、様々な鱗の紹介と詳細な分析が行われている、なかなか需要がなさそうな鱗の専門図鑑だ。
にしても、1つのことを突き詰めるって、こういうことを言うんだと執筆者の熱意が沁みる。

綺麗な写真と詳しい解説!

『鱗の博物誌』田畑純著(グラフィック社)

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