上條雅峰

1964年長野県生まれ 書家である父より書を学ぶ 日本自由書道連盟常任理事 日本デザイン書道作家協会 会員 桃李会主宰 書家

上條雅峰

1964年長野県生まれ 書家である父より書を学ぶ 日本自由書道連盟常任理事 日本デザイン書道作家協会 会員 桃李会主宰 書家

最近の記事

澄泥硯

 この記事は、2019年にブログに掲載したものを加筆修正したものです。  書道を始めたばかりの頃は、道具についての知識が全くありませんでした。師匠である父からは「筆にしても紙にしても何か道具が必要になったら必ず相談するように。」と言われていました。  ところが、1年もするとやはりいろんな道具が欲しくなってしまって、ついに自分で勝手に硯を一面買ってしまったものです。おそらく5〜6,000円くらいだったと思うのですが、硯の種類も何も知らずに購入したのが澄泥硯でした。どんな硯なの

    • 先輩よりも偉くなった、褚遂良

       この記事は2019年にブログに掲載したものの再掲です。  初唐の三大家、欧陽詢、虞世南、褚遂良。三大家とひとくくりにされますし、唐の太宗に重用され、楷書を美しく完成させた3人と言われますので、ついつい3人とも同世代の同僚かと思ってしまいます。けれども褚遂良は他の二人、虞世南、欧陽詢よりも40歳近く年下の後輩です。 1.褚遂良の生い立ち 褚遂良(ちょ すいりょう)・596年〜658年。字は登善(とうぜん)、63歳で亡くなっています。  褚遂良は杭州銭塘県(現在の浙江省)の

      • 白猿の子と言われるほど猿に似ていた?欧陽詢

         この投稿は、2019年にブログに掲載したものの再掲です。  中国の名前というと、名字が一文字で名前が二文字というのが普通だと思っていました。例えば王羲之は王が姓で羲之が名前です。同様に虞世南も虞が姓で世南が名前。なので、恥ずかしながら最初に欧陽詢の名前を知った時、欧が姓なのかと思ってしまいましたが、欧陽が姓なのですね。そういえば、「ラヴ・イズ・オーヴァー」のヒットで有名な欧陽菲菲という台湾出身の方がいましたが、欧陽詢と同じ姓ですね。 1.欧陽詢の生い立ち 欧陽詢(おうよ

        • 割れた墨はくっつければ大丈夫!

           この記事は2019年にブログに掲載したものを加筆・再録したものです。  品質の高い墨は決して割れることはない、というのは迷信のようです。以前、ある和墨メーカーのサイトで「粗悪品でなければ墨は割れない」という内容を読んだことがあります。  私もずっとそうだと思っていたのですが、その後さまざまな本やサイトを見ていくうちに、「それでも墨は割れることがる」というのが実際のところだと考えるようになりました。  また実際に、知人の割れた墨を見たことがありますし、ご覧のように私が購入

          半紙の裏打ち

           毎年8月から9月にかけて、私の教室「桃李会」では、社中展に向けての作品作りがメインになります。今年も無事にみなさん作品を書き上げて、現在は表具屋さんに表装の依頼中です。  おひとり、半切作品を書く時間がどうしても取れなくて、半紙の作品を書かれた方がいらっしゃいます。その方の作品は私が裏打ちをしました。 1.裏打ちの準備 私は裏打ちのとき、カラーボックスに使われるようなコーティングされたボードを使います。このボードはツルツルなので、糊を使う裏打ちには便利。このボードの上で

          半紙の裏打ち

          なぞり書き日本国憲法

           『通販生活 2024年9・10月号』の特集、「なぞり書き 日本国憲法」を書かせていただきました。読者にアンケートした回答から、好きな条文の上位1位から11位までをなぞり書きできる、という企画です。  『通販生活』は、通販カタログですが、冊子の半分は読み物のページと言う特徴のあるカタログ雑誌です。過去にも、さまざまな読み物ページの題号を毛筆で記号させていただいたり、Webページや商品ロゴなども書かせていただきましたが、このような長文の硬筆を書かせていただいたのは初めてのこと

          なぞり書き日本国憲法

          父の一周忌

           今年は10月になっても30度近い気温の日があって、年々四季が感じにくくなってきているような気がします。  そんな10月、昨年亡くなった父の一周忌法要を故郷の長野県でしてきました。父の命日は11月22日なので1ヶ月以上も早い一周忌法要なのですが、お寺の予約が取れずにこんな日取りになってしまいました。お寺さんも忙しいのですね。 1.慈雲寺 上條家は、信州諏訪にある慈雲寺というお寺の檀家です。  臨済宗妙心寺派のお寺ですので、いわゆる禅宗です。慈雲寺の創建は1300年、鎌倉時代

          父の一周忌

          日本でも人気の中国製墨メーカー「曹素功」

           「そうそこう」と読みます。創業者の名前がそのまま店名となっています。本名は「曹聖臣」、字は「昌言」。元名は「孺昌」、もう一つの字は「藎庵」そして号が「素功」です。曹素功は民の末期1615年に安徽省歙県の岩鎮に生まれました。こよなく墨を愛した人物ということです。  この記事のカバー写真は、曹素功の墨の中でも特に人気のある「鉄斎翁書画宝墨」です。日本でも愛用する方が多いと思います。かく言う私も愛用しています。 1.創業期 曹素功は、明末に墨づくりで有名だった名工「呉叔大」が

          日本でも人気の中国製墨メーカー「曹素功」

          虞世南は智永に書を習った!

           この記事は2019年にブログに掲載したものの再掲です。  初唐の三大家、虞世南、欧陽詢、褚遂良。楷書体を美しく完成させたと言われるこの三人は、唐の大宗に重用され、楷書を普及させる務めを果たしました。  唐は、隷書から発展し後漢時代に現れた楷書体を正書として採用し、この普及に努めます。科挙の試験でも楷書体が美しく書けることが合格の必須条件でした。この楷書体を広めるために唐の太宗は、「弘文館」を建てて、虞世南、欧陽詢、褚遂良に書法の指導をさせたのです。 1.虞世南の生い立ち

          虞世南は智永に書を習った!

          雨畑硯

           この記事は、2019年にブログに掲載したものを加筆修正したものです。  私が本格的に書を学び始めた時、父からはじめて頂いた硯が雨畑硯でした。そのこともあり、今でも私が一番好きな硯は雨畑硯だと思っています。  当然、その硯を頂いた時には雨畑のことなど全く知らなかったですし、硯にいろんな種類があることも、硯でどうして墨がすれるのかも全く知りませんでした。 1.作硯のことを教えていただいた峯硯堂さん 書の仲間方のご紹介で、初めて訪問した硯工房が甲州雨畑硯製造加工業組合の組合代

          石川啄木の「たくぼく」はキツツキのことだったのか!

           この記事は、2018年にブログに掲載したものを再録したものです。  真田紐といえば、真田幸村が高野山に流刑になった時に、収入を得るために発明した丈夫な紐だと子供の頃に父に聞いた覚えがあります。真偽は定かではありませんが、長野県では広くそう信じられていると思います。  掛け軸の紐は、その真田紐に類するものだと思っていたのですが、似ているのは平紐という形だけで、掛け軸の紐は「組紐」で真田紐は「織紐」と全く別の種類のものでした。織紐である真田紐は伸縮がほとんどなく、強い紐。組紐

          石川啄木の「たくぼく」はキツツキのことだったのか!

          短冊に俳句や短歌を書いてみよう

           この記事は、2018年にブログに投稿したものを加筆修正したものです。  短冊や色紙に作品を書く場合、ぶっつけ本番になるため、作品としての価値は一般的に半紙などに書いたものに比べて低いということになっています。もちろん、実際にはぶっつけ本番などということはなく、ちゃんと練習してから書くのですが、そういうことになっています。  短冊には練習用の用紙がありますし、半紙に練習しても良いわけです。色紙にも練習用紙というものがありますが、半紙の長辺を5〜6センチほど折れば色紙のサイ

          短冊に俳句や短歌を書いてみよう

          懐紙と短冊と色紙

           この記事は、2018年にブログに上げたものを加筆修正したものです。  外苑前教室(現・桃李会)で、ある生徒さんが半切の作品に落款印を押すときに「半切ってまっすぐじゃないんですね!」と驚いていました。書道用紙に限らず、紙の角って正確に直角ではないのですが、手漉きの書道用紙ではその狂いも大きく、さらに半切は大きいので狂いも目立ちます。ですので、例えば半切のサイズは34.5cm×135cmと言っても正確にその大きさになっていない場合が多いのです。  かなの書を書くときに使われる

          懐紙と短冊と色紙

          書道で墨汁は使って良いのか?

           この記事は、2018年にブログに掲載したものを加筆転載したものです。  1900年(明治33年)、岐阜県の小学校教諭であった田口情爾という方が、子供達が冬場に墨をするのがかわいそうだと考えて、なんとかすらなくていい墨を作ろうと、墨汁を開発したそうです。子供にとっては墨をすることはなかなか大変なことですよね。小学校の先生の子供たちを思う心が墨汁の発明に繋がったのです。 1.昔の墨汁は質が悪かった? 田口情爾氏が発明した墨汁は、現在のように液体のものではなく、固形墨と同じよ

          書道で墨汁は使って良いのか?

          ザラザラが表かツルツルが表か

           この記事は、2018年にブログに掲載したものを加筆修正したものです。   昔、コピー機にコピー用紙をセットするとき「よく紙をサバキなさい」と言われたものです。でも最近は千枚のコピー用紙ひとシメを包装紙から出してそのままコピー機の給紙トレーに入れても、紙詰まりが起きたことがありません。コピー機が良くなったのか、それともコピー用紙が良くなったのか??  そういえば、環境のためにコピーに裏紙を使ったりするものですが、裏紙でも綺麗に印字されます。そもそも最近のコピー用紙は、裏も

          ザラザラが表かツルツルが表か

          遺作展「不如学」終了

           父、上條渓楓の遺作展を去る7月20日〜21日まで、池袋「オレンジギャラリー」で開催しました。  父の遺作展をしようと思い立ったのは2月のこと。私の書道教室「桃李会」のメンバーにそのことを伝えると、みなさん協力していただけるとのこと。  父が亡くなってから、ずっと気落ちしている母の反応が気になるところでした。「そんなことしなくていいよ」と言われるのが不安でした。けれど、いざ話してみると、とっても喜んでくれて、それまで何もやる気が起きないと言っていた母が、みるみる元気になって

          遺作展「不如学」終了