本を読むと旅に出たくなり、旅をすると本を開きたくなる|後編
旅の途中に出会った本や映画を旅の記憶とともに綴る、後編。
フィンランド × 『かもめ食堂』
これはもう王道中の王道。小説があり、映画化もされている。
私はイタリアからフィンランドに向かう機内で映画版を観たんだけど、豪華キャストな四姉妹の話でしょ、と思ってたら違った。それは『海街diary』でした。
フィンランド語を話せる日本人女性がヘルシンキに自分の店を構えるところからストーリーが展開していくのだけど、主人公はおろかほとんどの登場人物のバックグラウンドは最後まで明かされない。多くを語らない、独特のテンポ。過去じゃなくて今を生きるんだ、ってことなのかな。
この映画で初めて、シナモンロールがフィンランドの食べ物だと知る。ほえー。
モロッコ × 『アルケミスト』
偶然聴いたPodcastで紹介されていて知った、世界中で訳されている名著『アルケミスト』。砂漠に行くし…!と、モロッコへ向かう道中と国内移動中に一気に読んだ。
宝物を求めてブドウが実る土地から海を渡り、ラクダに乗って砂漠を抜け、ピラミッドへ向かう少年の旅の物語。
国名がはっきりと明記されていないけれど、きっとスペインからジブラルタル海峡を渡ってモロッコへ、そこからサハラ砂漠を通ってエジプトに行ったはず。そんなことを想像しながら主人公が旅する風景描写を味わって、いま私は彼の見た景色を見ているんだろうか…なんて感情に浸ってみたり。私が滞在したのはサハラ砂漠のほんの入り口だったけど、もっと奥の方へ進むとオアシスもあるのかしら…なんて想像を膨らませてみたり。
航空券を予約する前に読んでいたら、きっとスペインからモロッコへ海を渡っただろうなー。フェリーで渡れるなんて知らなかったよう!
「大いなる魂(=神)」「夢(=お告げ)」「前兆」などの言葉が並ぶのでどうしても宗教的世界観が強く、すんなり入ってこないところもしばしばあった。けどモロッコという異国の地を旅しているからか、神の存在が前提にある世界観のストーリーにどっぷり浸かっていると、「そういうものかもしれない。私の当たり前が世界の当たり前じゃないよな」という気持ちにだんだんなってくる。
古都フェズから青い街シェフシャウエンから向かうバスの中でお気に入りのパタゴニアのキャップをなくしてしまったのだけど、なんとなく「このキャップ、私の手元からなくなるかも」と頭をよぎった瞬間があって。
そしたら本当になくなっちゃったから、「あれが前兆だったのかもしれない…」なんて、妙に納得したのは、この本を読んだ影響をモロに受けてたんだろう。いや、あの瞬間ちゃんと握りしめればよかったんだろうけど。くー。
シエラレオネ × 『銃・病原菌・鉄』
世界最貧国の一つと言われるシエラレオネに10日間ほど滞在した。これまで先進国の小規模農園に滞在してきた我々にとって、発展途上国の大規模農業はいろんな意味で刺激的だった。
不思議で仕方ないのは、アフリカは人類の始まりの地とされているにも関わらず、多くの国々が未だに厳しい衛生・教育・経済環境に晒されていること。諸外国と比べ、なぜ文明が発達しなかったのか。
このあたり、表現の仕方が難しくて。これらの国々を「発展していない劣った存在」と見なしているわけでは決してない。なぜ今の今までこうした厳しい環境下で生き続けられてきたのか、ヒトとして異なる発展を遂げてきたということなのだろうか、というシンプルな問いが根底にある。
その問いへのヒントとして、知り合いに勧められたのが『銃・病原菌・鉄』。上下巻でなかなか分厚い。
上記はプロローグからの引用。「それ、まさに私の疑問そのものです!」と飛び上がった。
著者は長きに渡りニューギニアでフィールドワークを続けてきたアメリカの学者で、人類が異なる経路をたどった理由を生物学的差異(持って生まれた能力が違う)によるものとするこれまでの言説を一蹴し、環境要因が経済や技術、社会構成、ひいては戦闘技術に影響を及ぼしてきたと指摘する。
帰国後早速読み始めたのだけど、面白い。でもなかなか進まない。やっと上巻の半分。ちびちびやります。
シエラレオネ × 『ブラッド・ダイヤモンド』
同じくシエラレオネ。
滞在した村の横にセワ川という川があり、ここではダイヤモンドが取れるらしい。その利権を巡って、シエラレオネでは長きに渡り政府と反政府組織の内戦が続いてきた。ダイヤモンドを売って武器を買い、その武器で血が流れる。まさに「ブラッド(血塗られた)ダイヤモンド」。その実話を元にした社会派映画。
これも帰国してからしばらく経って、ようやく観た。ちなみに映画のロケ自体はシエラレオネではなく、モザンビークで行われたらしい。
密輸による不正取引、罪のない市民への強制労働、子どもの誘拐と少年兵…。フィクションだと思いたい話が次々と出てくる。暴力性という意味では反政府組織がかなりひどいように描かれていたけど、実際のところはどうなんだろう? 今回滞在した中で聞く限りでは政府の腐敗もすごいようだったしな。
パリ × 『ロマンシエ』
シエラレオネから日本に戻る際、最後にパリに3日間ほど滞在した。
好きな小説作家の1人、原田マハさん。
アートに詳しい彼女の作品は、世界的芸術家たちの実話を下敷きに、記録にない部分の隙間を埋めて色鮮やかなストーリーを届けてくれるものが多い。
登場する飲み物が毎度美味しそうで、すっかりハマってしまうのも彼女の作品の特徴かもしれない。『風のマジム』を読み終えた時はホワイトラムが飲みたくて仕方なかったし、『楽園のカンヴァス』を読んでリースリング(ブドウの品種)のワインをよく手にとるようになった。
その原田マハ著の、パリが舞台の小説があったので即ポチ。これまで読んだ作品とはずいぶんトーンが違う、恋愛中心でポップな感じ。サクッと読める。
『ロマンシエ』ではクレープが美味しそうに描かれる。舞台とされているアトリエやクレープ屋にも行きたかったのだけど、タイミング合わず断念。
作中にはリトグラフと呼ばれる石版画の工房が登場する。石版に絵を描いて印刷するって字面で読んでも全然想像ができない…。これも実物を見てみたかったー。
パリ × 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
「初めてのルーブルはなんてことはなかったわ」
美術館疲れしていたけど、この一言が言いたくてルーブル美術館には行った。めっちゃよかった。イヤホンで宇多田ヒカルの「one last kiss」をループ再生しながら作品を観るのめっちゃ気持ちいい。なんてことなくなかったよ。
あと、劇場版:|| の冒頭で登場するのがパリ。真っ赤なエッフェル塔をマリが持ち上げて使徒への攻撃に使うシーン。これは予習しておかないと、と観直した。
そしていざ現地に行って実物のエッフェル塔を見上げて、エヴァの大きさを想像して感嘆する。聖地巡礼感あって楽しい。
その土地を舞台にした映画や本を観る/読むと、自分が滞在しただけでは受け取りきれない情報が入ってきて、より楽しい。旅をしなければ手に取ることもなかっただろう作品も多くて、自分のアンテナが普段とは違うように働く感じがいい。
特定の土地を舞台にしたもの以外に旅でインスピレーションを受けて読んだものもいくつかあるので、それもまた近いうちに。
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