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秋空の向こう、遠い国に思いを馳せて


皆様、おはこんばんちわ。
紅葉は色付き始め、街も少しずつ、寂しくも煌びやかにネオンが彩りを見せてきました。

少し前にスーパーにて温かい飲み物を買おうとした時、レジ横にも飲み物売り場にも「温かい飲み物ゾーン」が無く、図らずとも冷たさを覚えた今日この頃です。


先日のこと。
ちょいとした用があり、簡易ではありますがPCR検査を受けなければいけず、その日は夕方からの仕事があった為日中をオフにし、昼一番で検査場へ。

平日だったこともあり、見積もりより格段に早く終わり、いつもは無いと嘆く時間を持て余すことになりました。


まあこんな日は、前々から気になってたラーメン屋に行くに限るな、うんそうしよう、そうしよう、双子葉類(ナンチャッテ)
などと心の中で軽く大爆笑を取りながら天神をテクテク歩いていると、正面に僕をまじまじと見つめる男がいました。

本当に偶然、小中学校の友達に逢ったのです。

驚き。1年ぶりくらいでしょうか。
思わず聴いていた[言えないよ/郷ひろみ]を停止し、しばし談笑。

お互いに暇だったので一緒にラーメンを食べることに。
そこでああでもないこうでもないと話し、その友人の知り合いが近くでポップアップストア的なのを開いているからそこに行く、着いてくるかととの事なので、お腰につけたきびだんごよろしく、ラーメンを啜り終え、いざ鬼ヶ…、いざお店へ。



詳しくは割愛するが、書店の一画にスペースがあり、そこに3店舗が同じように店を構えているという感じ。

件の知り合いの方は最初は居られず、仕方なく出直そうとしたが、見るからに高いヴィンテージでレザーのジャケットが目に留まる。

正直、欲しいわけではない。
ただ、素人目でも分かるハイブランド、漂う気品、今までに袖を通してきた人の愛着ある手入れの跡が、どうしても気を惹くのだ。
貧乏心に、見るだけなら、と眺めていると、案の定担当の方が。

小柄ながら紳士を思わせる素敵な男性。
オシャレと着こなしを兼ね備えすぎた男性。
ファッションの事やそのブランドの事など、詳らかに教えてくださった。


説明を聞くが、はっきり言ってまったくわからない。
イギリス王室の方も愛用されてて〜、このロゴはエリザベス女王、こちらはその旦那様、こちらは現チャールズ皇太子のロゴで〜、など、すごいのは分かるが、すごいなと思うのみ。

なるほどとは言うものの、横文字と興味の無さが理解の邪魔をする。
友人も、たしかにありがたい説明を聞きつつも、やはり少しだけ所在なさげ。


いよいよ一旦出ようかとした時に、


「買わなくていい。せっかくだから、袖を通してみませんか?」


いや、いやいや。別にそんなつもりじゃなくて、ただ見てただけだし、なんならすごく高いですもの。安くても1着50000円台だし、その近くには約100000円のジャケットもある。
第一、まずそんなの似合わないですから。


「あのね、それは言い訳なんです。あなたはこのジャケットを、ブランドを、知らないだけ。自分に合う服を知らないだけ。そりゃここで買って欲しいですよ、でも、どんなスタイルや、ファッションでも必ず自分に合うものがあるんです。そのきっかけになればいいと思っています。」


固唾を飲みながら、恐る恐る70000円のジャケットに袖を通す。
いや、こんなの似合うわけない。
おれいまGUのセットアップよ?
お腹めっちゃ出てるし、イギリスとかの前におれさっきラーメン替玉してたよ?


「ほら、ね。お似合い。」


驚くほどしっくりくる鏡の中の自分は、ギョギョギョー!みたいな顔をしていた。

なにこれ。すご。

すごいの言葉しか出ない。
27年間、知らなかった自分がそこにいる。

ヴィンテージ品、イギリスで生まれたそのジャケット。
買い付け、輸入、はたまた日本で偶然、どういう経緯でこの方が手に入れ、ここに辿り着いたかは聞かずとも大変だったと推察する。

ただ、そんなバックボーンをものともしない程、着る人に合うようになっている。
値段ではないその高級さが、背筋を伸ばす。


これがファッションか。

少しだけ、針の先ほどかもしれないが、分かった気がする。
心の底から感動した。


いいんです、それでいいんです。楽しみましょう。今やりたいことをやりましょう。


服ひとつでここまで言ってくださる店主の方、若造が言うことではないが、とても素晴らしいお人だと感じる。


試着ではあるが、一度着たからか、10分前とは商品の見方が変わった気がした。

高い、が、それ以上の価値がある、と。


一瞬、ちょっと、欲しくなった。


しかしそんな財力はない。
しかも気持ちも付け焼き刃。

宝くじが当たればまた来ます、とかいう「行けたら行く」レベルに信用ないセリフを残して退店。

友人も同じ気持ちだろう、よかったなとは言いつつも、さすがにね、という顔。


でも、本当によかった、あのジャケット。

イギリスに後ろ髪を引かれながら歩く天神で、いつもより大人になれた気がした。


それから数日は経っただろう、まだ記憶にある。


十中八九、買いはしないだろうが、気づきを与えてくれたあの店主の方には非常に感謝している。

でもなー、

やっぱなー、



70000円は高いよなー。


のり弁いくつ買えるよ。
ちょっと外国行けるよ。
家賃払って水道光熱費ガス代払えるよ。


そんな私は今日もマイペースに、着たい服を着て過ごします。

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