【辰】龍尽くしカレンダー10月・龍に乗る
今日から10月ということで今月も龍を語ります。
今月は「龍に乗る」、乗り物としての龍のお話。
大河ドラマで熱い平安文化からは龍頭鷁首、
そして秋といえばのお祭り・お神輿。
そんなあれこれにまつわる龍を語っていきます。
3000字!、どうぞゆるゆるお付き合いください。
これまでの龍はこちらよりご覧いただけます
10月のテーマ「龍に乗る」
竜舟ですねぇ。
竜の舟に揺られてお神輿が運ばれて行きます。
神様の乗り物・神輿を、さらに舟に乗せる特盛状態。
「お神輿は担ぐものでは…」
ちらと思いましたが、舟に乗せ川や海を渡る巡行もあったのでセーフです。
今回はそのまんま工芸品、ではなく色々参考にしながら描いてみました。
大元になったのはこちらの2つ。
龍の顔やお神輿の下の建物っぽいのは、私めがイイ感じに描きました(*’∀’)
竜舟とは
さて、まず竜舟とはなんぞや。
私もあまりなじみがないもので調べてみましたら
「ドラゴンボート」というにべもない単語が出現。
このボートに乗ってスポーツやお祭りが行われるそうです。
そう、端午の節句に。
「端午節!」
季節外れの10月カレンダーではないか…と愕然としましたが、
大丈夫、お神輿があるから…となんとか気を保ちまして。
この「龍舟競漕」と呼ばれる行事は、舟を使って疫病などを祓う面も持っているそうで
竜舟に乗って漕ぎ競べをしたり、太鼓を叩いたり、爆竹を鳴らしたり。
日本でも沖縄・長崎にはそうした文化が根付いたようです。
最近では氷上でも行われるそうで、現代でも船首に可愛らしく龍があてがわれている様はなんとも微笑ましい気持ちになります。
(「氷上ドラゴンボート」で検索ください)
龍頭鷁首
竜の舟、と聞くと思い浮かぶのは「龍頭鷁首」かなぁと思います。
こんな感じのですね。
(スマホの方は画面横向きが見やすいかと思います)
いづれの御時にか…というか
まさに今をときめいている紫式部の日記絵巻にも登場する龍頭鷁首。
中国の王朝行事が日本に伝わり、貴人の遊楽船として用いられました。
平安貴族の白鳥ボート(’∀’)
と、イメージされている方も多いのでは(私がそうでした)。
いやしかし、だがしかし、
どうもそうではない面もあるようです。
『當麻曼荼羅(當麻寺 蔵)』
『絹本著色地獄極楽図(金戒光明寺 蔵)』、
そうした浄土絵画にこの龍頭鷁首が描かれています。
極楽浄土の宝池、衆生の心を洗い清める黄金の水に浮かび
死者を迎え送り届ける。
そうした役割をもった船がこの龍頭鷁首。
平安時代の貴人たちはその極楽浄土を思い描きながら、
その見立てとしてこの1対の船を浮かべていたのでしょう。
(スワンボートとは違うのだよスワンボートとは)
マニアックな話として、もともとは龍舟鷁首だったとの話があります。
龍頭ではなく龍舟、ややこしいですね。
要は龍の舟の船首が鳥、というもので(ややこしいな)
2つで1セットではなく、1つの舟に龍も鳥もいた。
このあたりを描いてみるのも面白かったかもしれません。
龍は乗り物
さて、竜舟も龍頭鷁首も形状は「舟」でした。
人が乗りますからね(’∀’)
ダガシカシ、そのまんま龍に乗っちゃうパターンも散見されます。
(昨今も「銀の龍の背中」ですとか)
これも元をたどれば盛んなのはやはり中国。
古代からずっと龍に乗っかってる。
古代の地理書『山海経』では2匹の龍に神様が乗っていますし、
羽の生えた人が羽の生えた龍に乗っている画像石、
龍にまたがり昇天する様が描かれた石棺、
車をひく龍、
仙人伝『列仙伝』には立ち乗りする姿まで。
神様から仙人から死者まで皆が皆、
天に向かう際には龍に乗ることが多いようです。
天から迎えに来るパターンもあり、龍は天地を行き来するものだったことがうかがえます。
神輿にひそむ龍
もうだいぶおなかいっぱいかと思われますが、
お神輿の話を少し。
今回の龍カレンダーに描いたお神輿、
なにも10月=秋=お祭り=神輿描いとこ!という乱暴なノリではありませんで、
何を隠そう、ここにも龍がいらっしゃるのです(*’∀’)
じゃじゃん、こちらをご覧ください。
じゃじゃん、としたわりにちょっと地味ですけれど、
そう、お神輿のワラビテとヒモ、ここが龍の見立てになっているのです!
ずいぶんシュールな話になってきたなぁ…と思いますね。
いやしかし、こちらをあわせてご覧ください。
てっぺんに向かってのぼるヘビで出来た屋根!
どうです。
お神輿の龍が見えたでしょうか(シュール)
この話を聞いたときには目からウロコでした。
天から降りそそぐ雨、天にのぼる水蒸気、天地を往来する龍。
なんていい話だ。
とはいえ実際にネパール寺院を見たわけでもなく(画像検索でも見つけられず)、本を読んで身震いしただけなんですけれどね。
世界各地のこうした図像の話で
「鳥と龍」=「天と地・水」の思想はなかなかに根強いものです。
そしてその2つは相対しながらも交わり、気が付けばお神輿の中で溶け合っていると思うと、なかなかに感慨深い。
ヒモに関してはしめ縄など「ヘビ信仰」との関りも指摘が多いところですので心構えはあったのですが
ワラビテ!
そうねぇ、言われてみればシャチホコとかああいう装飾がある。
そんな驚かなくても…と平常心を装いつつ、若かりし私は震えましたよ。
以来、一般住宅の屋根の隅棟(お神輿のノスジ)を見ても
ちょっとイイ感じのヒモを見ても
龍が降りてきているなぁ…と。
ドキドキが止まりません。
今月も長々とお付き合い下さいまして、ありがとうございます。
どうぞお神輿を目にした際には「龍!」と思われますように(*‘∀)
こうして改めて見てみると、龍の乗り物率はなかなか高いですね。
羽の生えた人が羽の生えた龍に、というのは非常に可愛らしい。
(「画像石 金石索」で調べて頂ければ見られるかもしれません)
ご丁寧に雲にのっかっている龍たちも、飛べるのか飛べないのかあやふやなところが憎いなぁと思っています。
空を飛べるなら鳥も適役ですが
龍はどうも「難を排して導く」といったことが期待されているのかなと感じます。
あんな怖い顔をしているのは、守り導くためで
そうした強い力で、天地を循環するように行き来する龍という思想に
人は亡くなった人の魂を預けたのかもしれません。
お盆にキュウリの馬とナスの牛も非常に愛らしくて好きですが
なかなか現実では出会えない龍という生き物。
その背中に乗って故人が天地を行き来していると思えば、少しおかしいような、そうであれば素敵だなぁと願えるような、そんな光景にも思えます。
さて、来月も案の定なにも決めていませんが、
何にせよ熱く語らずにはいられません。
どうぞ来月もお楽しみに!
龍カレンダー10月の参考
・素彩竜舟磁彫(四川博物院蔵)
・沃懸地螺鈿金銅装神輿(鞆淵八幡神社蔵)
資料作成の参考
・龍頭鷁首:紫式部日記絵巻
・2匹:蒋本山海経
・羽あり:金石索
・車つき:離騒図
・座り:人物騎龍画像石、隋代の石棺
・たちのり:列仙伝
・ネパール寺院の屋根:杉浦康平.生命の樹・花宇宙.p161
参考文献
・笹間良彦.図説 龍とドラゴンの世界.遊子館,2008年
・杉浦康平.生命の樹・花宇宙.日本放送出版協会,2000年
・齊木崇人(監修),杉浦康平(企画・構成).靈獣が運ぶアジアの山車 この世とあの世を結ぶもの.工作舎,2016年