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太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第31話 グランド蒼月

「女と男の二元論でもある」
「そうかな?」
「違うね」
「違うのかよ!」
「自分の中に基準を設けるのは悪いことでもないだろうけど、これから自分が出会う誰もがその基準を満たすかどうかだけでその相手を推し量ったり、扱いを決めつけるのは非常に危険な気がする」
「おお」
「浅荷は『おお』っていうのが癖なの?」
「おぉー……そうかもしれん」
「……」

浅荷と長らく話していて気づいたことがある。下校のときも含め、今日も含めて。それは絶対にまず相手の言ったことを否定しないということだ。だからこそ彼女の中に芽生えた相槌としてそのようなものがあり、他の女子高生とかとは一線を画しているのだろう。

いや、俺が浅荷以外の女子高生と話す機会がほぼないため、現代の女子高生とはみなそのようにチューニングされているのかも知れない。だとしたら、恐ろしく配慮ができる層ということになる。悲しいかな俺が話す同性層はそんなことない気がする。

そんなことあったら、俺が男と話すのが好きじゃないとはならないだろう。だからこれは浅荷に対して意地の悪い質問だったと思う。そのような意地悪が軽口として言えるぐらい気を許せている、と相手も思っているだろうと自己認識するなんて俺は増長しているのだろうが、この時は多分気づいていなかっただろう。

「あんたはよく考えてぶわっと話すからあたしは圧倒されるんじゃないの」
「悪いなぁ。俺は」
「守ってもらって当たり前ね……別に男がどうとかじゃなくて、世間のバレー部とかに対する印象なんてさっきも言ったけどゴリラ程度でしょ。だからあたしがそういうクラブに入ってる限り、そういう考えとは無縁な気がしてたのかも。でも実際に銀行で強盗の人質とかになったとして、身を挺してそいつらをぶちのめせるかわからない」
「いや普通はできないだろ」
「そうかな」

浅荷は考えながら歩いているようだった。

「ああーっ」
急に俺は声を出してしまった。
「えっ……どうした」
案の定、思考中だったと思われる浅荷に驚かれた。
「その……思い出した。『でも体育会系ならそりゃ俺なんかより強いだろって思う……なぜそっちの顧問は俺にボディガードみたいな役割を押し付けたのか』ってさっき言ったけど、これも群を抜いてノンデリだった」
「ああ~」
「だから『ああ~』でいいのかよ!女として……」
「いやぁ、今言ったように世間からは猛獣のように思われててもおかしくなさそうだし」
「そ、そんなもんかな……」





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