ありがとう阿部勇樹
ぼくは熱心にサッカーを見るわけではありません。
過去にも触れていますが、その時々だけ都合よくどちらかを応援するようなものでした。しかしその僅かなサッカーとの付き合い方の中で阿部勇樹を知れて嬉しかった。
阿部は当時ぼくの目にとても珍しく映りました。
めちゃくちゃ格好いい見た目で、だけど金髪でひげまではやしている。金髪なんて野球だったらぶっ叩かれますよね。野球ではなくて良かった。
そしておおよそひげも似合っているかどうかぼくにはわからない。今でこそ阿部にはひげがあってこそかも知れないとは思えます。
阿部は真面目なので、いちいちひげに気を取られるほうがくだらないから、それなら剃る手間を自分の人生から削除するために生えっぱなしにしただけかも知れない。
あるいはその優しすぎる表情を少しでも敵や外国人から舐められないようにしていたのかも知れない。俺はここにいるぞ、と。
阿部の端正な顔つきは、ぼくは個人的にスピッツの草野正宗に似ていると思いました。阿部の全盛期も多分スピッツが全盛期だった……気がします。スターゲイザーの頃でしょうか。
草野正宗に惹かれていたぼくが、芝が生えたフィールドの中にも草野みたいな人を見つけてしまったら惹かれないわけがない。
ぼくは当時未熟な何のやる気もないタイプの厭世観にまみれた生命体だったと思いますが、阿部が別にその見た目だけではなくとんでもないフリーをポストに叩き込んでいる様を見るなりで触発され、髪を金色にしたり、たとえ何がすぐ変えられるかはわからずともひとまず外へ走りに行ったり、人の中に混ざるべきだと思ったことでしょう。
本田圭佑の影響も大きいと思います。阿部と多分同時代を生きた。本田のほうが後から入り、少し先に終わったかも知れませんが流石にそれは重箱において細かすぎる隅の部分です。
彼らと「同じ」を持つことで、自分の身体の一部に彼らを収めたく、自分の力としたくなったのでしょう。まさに阿部勇樹はぼくの勇気だった。
バラエティ番組に出なければならなかった時も、いくらほども畑が異なるコメディアンやアナウンサーに囲まれようとも同質化して調子に乗ることもなく、堅苦しすぎる感じもなかった。とても自然体でした。
すでに引退セレモニーを済ませたにもかかわらず、天皇杯で同じく引退する大久保嘉人がいるセレッソ大阪に勝ったあと、各同僚は「阿部に優勝杯を掲げて欲しい」と、その一点だけで決勝では大分トリニータと戦えた。
今年の浦和レッズには新しくジョインする人が多かったらしいです。そんな中で引退をするほどの年齢である阿部は彼らが気を遣わなくて済むように気さくに声をかけたようだった。
つまり自由に浦和レッズを楽しんで、ということ。しかも後半、ベンチ外が増えても……言い換える必要もないですが、決してスタメンではなくてもその姿勢は変わらなかった。
本当に浦和レッズがセレッソ大阪に勝ったことで、阿部は引退がさらに一週間つまり今日まで延びたとメディアには話したらしい。そして見事にヘッダ画像のようになった。
まず浦和レッズの半袖姿に身を包んだ者たちで撮影をしたあとに、面々はすぐ芝の上に降りてきていた阿部を呼びました。ぼくは呼ばれた阿部が重いコートを脱いで、表彰台に加わるところで涙を流さずにはいられなかった。