本を読むこと。 ~ デジタルミニマリズムで自分を取り戻す ~
Appleの創業者、スティーブ・ジョブスが壇上で、最初のiPhoneを発表したとき、それは単なるiPod(iPod touch)に電話の機能をつけただけのものでした。
それは1つ持ち物を減らすだけの便利なもの、面白そうなものに思えましたが、ここまで私達の生活を一変させる革命的デバイスになることなど誰も想像できなかったでしょう。
私達は一日平均して、ソーシャルメディアとその関連メッセージサービスの利用に一日に2時間を費やしており、その半分近くはFacebookとInstagramに集中しており、一日のスマホのチェック回数は85回に登るといいます。
これはアメリカでの調査結果ですが、日本においてもそれはさほど変わらないことと思います。
当然、私達はそうする理由があり、そうせざる負えないようにデバイスによってコントロールされています。
これらのメディアの収入源の主なものは広告料であり、あたりまえであるが、メディアは収入のためにユーザーがスマホをチェックする回数が多くなるようにサービスを設計しています。
これらは目の前のことに集中すべき時間を細切れにし、日々を主体的に過ごすのに必要な平常心を乱しています。
デジタルツールの過度な使用は主体性を弱め、幸福度を低下させ、負の感情を増幅し、より大事な活動から注意を逸らせ「疲労感」をもたらしています。
これは多くの人が経験することでしょう。
私も以前は気がつけば家族の前でもFacebookを開いており、家族の話もろくに聞けてない時期がありました。
仕事に有用、情報戦に有用との触れ込みを信じ、常に新しい文献やそれを解説してくれる人の投稿や記事を見て、それらの人と繋がることで安心感を得ていました。
繋がった人の数だけ自分の人生を豊かにしてくれる、仕事を充実したものにしてくれると信じていたのです。
しかし、現実は上述したように、目の前の大切な時間への注意を奪われているにすぎず、それがなければならないことは一つもありませんでした。
人が勉強会や講習会にに行ってきた、学会で発表してきた、研究論文を発表してきたなど、それらは刺激にはなりますが、自分と比較し、焦る時間を増やしていただけでした。
私はFacebookを開くのを止めました。
テクノロジーをすべて否定することはありません。
自分の力と集中を取り戻すために必要なことは「テクノロジー利用に関する哲学」です。
それについては以前こちらの記事にも書きました👇
この哲学について、ジョージ・タウン大学の准教授、カル ニューポートはそれを「デジタル・ミニマリズム」と命名しました。
これはデジタル・ツールと付き合う上では「少ないほど豊かになれる」というシンプルな考え方のことです。
これは通常のミニマリズムと同様の考えであり、古典的にはマルクス・アウレリウスやヘンリー・デイヴィッド・ソローに代表される考え方の応用となります。
それらを実践する人々はデジタルミニマリストと呼ばれ、彼らはオンラインで過ごす時間を極端に削り、ごく少数の価値ある活動に集中しています。
カル・ニューポートの著書「デジタルミニマリスト 本当に大切なことに集中する」はデジタルデバイスにコントロールを失いかけている私たちに最適な処方箋となります。
デジタルミニマリズムとは
デジタル・ミニマリズムは、
「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー哲学」であり、この哲学を利用しているデジタル・ミニマリストたちは常にデジタルテクノロジーの費用対効果を意識しています。
“これを成し遂げるためにテクノロジーを利用するのは最善といえるのだろうか”
という根源的な問いを出発点として、デジタル・ツールを取捨選択していくことがスタートとなります。
デジタル・ミニマリズムの三原則
以下にデジタル・ミニマリズムの三原則を示します。
①あればあるほどコストがかかる
あまりにも多くのデバイスやアプリによって自分の注意や時間が埋め尽くされた状態は、一つ一つがもたらす小さなメリットの総和を帳消しにするデメリットを生み出しています。
先出のソローは著書「ウォールデン(和名:森の生活)」で金銭的価値を時間的価値に換算しました。
「ものの値段とは、短期的、長期的にみて、それを手に入れるのに費やさなくてはならない、私が生活と呼ぶものの量である」という原理を土台に、多くのモノを持つほどにコストがかかることを指摘してる。これはソローの新経済論と言われています。
②最適化が成功のカギである。
潜在的なメリットを最大限に引き出すために、そのテクノロジーをどのように利用するかを慎重に判断することが必要となります。
経済論では「収穫逓減の法則」と言われ、生産プロセスの改善に適応される原理です。
これはあるプロセスに投入するリソースを増やしても、生産量は無限に増えるわけでないことを示しており、デジタルツールを無限に増やして、エネルギーを投入し、それぞれから得られるメリットを増やしても、生産性(目標の達成量)は増えないため、最適化する必要があるということとなります。
③自覚的であることが充実感に繋がる。
新しいテクノロジーとの関わり方に自覚的であろうとする基本的な心構えから大きな喜びを得ることができます。
テクノロジーから得られる利益よりも、意識的にテクノロジーを選ぶことを優先する、これらは「アーミッシュ共同体」の哲学として研究されており、デジタル・ミニマリズムに適応する考え方となります。
この3つの原則に納得がいけばデジタル・ミニマリズムの正当性を理解することができ、次のステップへ躊躇なく進むことができるのです。
デジタル片付けの実践
デジタル・片付けのプロセス
①30日間のリセット期間を定め、かならずしも必要ではないテクノロジーの利用を休止する
必須ではないテクノロジーにはSNS、ウェブサイト、アプリ、ゲームが含まれます。この他テレビやネットフリックスなどのストーミングサービスを加える場合もあります。
家族との連絡手段は「必須」であるサービスであり、この他人間関係にダメージを与えるようなサービスは必要なテクノロジーに分類すべきものとなります。
②この30日間に、楽しくてやりがいのある活動や行動を新しく探したり、再発見したりする
必須ではないテクノロジーの使用に当てていた時間が余りますが、それを埋めるものがなければ、日々は不快で退屈なものになりかねず、再びスマホに手を伸ばしてしまうことは容易いことでしょう。
私はその時間を「読書」や「運動」で埋めました。
「英語学習」を組み込んだこともあります。
自分の人生における目標や、楽しい未来をを考え、その未来を達成するためのステップとしてこの時間を使用するとやりがいのあることが見つかりやすいと思います。
絵やプログラミング、旅、ソロキャンプ、友人との時間、家族との時間。
自分の大切な時間をみつけることが大切となります。
③休止期間が終わったら、まっさらな状態の生活に、休止していたテクノロジーを再導入する。
以下の条件を満たした場合に限り、テクノロジーを生活の中に再導入します。
1.②で得られた大事なことがらを後を押しすること
2.大事なことがらを支援する最善の方法である
3.いつ、どのようにそのテクノロジーを利用するのかを具体的に定めた標準運用規定に沿った形で生活に貢献できる
これら3つの条件を満たしているのであれば、そのデジタル・ツールはあなたの生活に「必須」であり、あなたの目標を後押ししてくれるために使用することができるツールであり、再導入すべきである。
まとめ
常時繋がっている世界の住人になってから、すでに20年以上のときがたちました。
95年以降に生まれた世代はいわゆるデジタル・ネイティブ世代といわれ、10歳になるころにはスマートフォンやタブレット、常時接続のインターネットが当たりまえに存在しています。
2015年のこれらの世代を対象とした調査ではテキストメッセージやソーシャルメディアを含むデジタルツールを平均で一日あたり9時間も消費しているといいます。
そしてその影響はメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしており、不安障害を訴えるケースが急増しているというデータもあります。
そして鬱と自殺率が急上昇しており、その大半は不安障害に起因しています。
私も常時接続時代に生まれた一人の子を持つ親として決して無関係ではなく、これからデジタル・ツールとの付き合い方を子供と模索していかなければいけません。
人の幸福には孤独な時間も必要です。
しかし多くの人はそのことに気づかず、孤独を恐れ、常時接続の世界に入り浸っています。
そして、これを書いている私もまた経験者の一人であり、油断をすればすぐにスマホを目的もなく手に握っています。
Facebookはやめることはできましたが、新たにTwitterというテクノロジーを手にしており、徐々に触れる時間が長くなっています。
アテンション・エコノミーは油断に漬け込み、そして快楽を武器に私たちを誘惑してきます。
だからこそ定期的に本書を読み直し、自分のスマホを見直し、要らないアプリなどは削除するようにしています。
そして、たまにスマホをわざと家において出かけます。
それは私にとって自分を取り戻す大切な儀式となっています。
本書の紹介が多くの人の「デジタル習慣」を見直し、自分の人生について考えるきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の紹介図書
カル・ニューポート 池田真紀子訳「デジタル・ミニマリスト」
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