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【本の感想】『海のふた』よしもとばなな

海のふた

無いものを有るかの如く表す言葉は、不意をつかれるしハッとして何かに気づく。
そして今までに無いその響きにワクワクする。

それで海のふたがどんなものか想像してみた。
世界の海、全体を覆うふた。
これは球体で、北半球と南半球で半分に分かれている。
大陸の部分はくり抜かれていて、上から被せるとそのくり抜かれている部分に大陸がピタッと入る。勿論小さな島々もズレることなくきちんとおさまる。
そして海全体をすっぽりと覆ってしまう。

そんなのを想像して読み始めた。


小な海辺の街のひと夏の友情と日々の物語。
そこに書かれているのは日常や自然の大切さ。そして人との繋がり。

きっと素敵な、心に沁みる言葉が沢山書いてあったと思う。でも何か分からない違和感があった。

はじめちゃんが大人過ぎて、現実にこんな子いるのかなと思ったから?
(小説だから現実じゃないけど)

でも、それだけじゃ無い気がする。


読み進めると、ん?と思う文章が出てきた。

それに子供を生むとかっていうのも、よく考えたらものすごく深くて暗いことだから、女の人はその勉強で充分なのかも、真実のことは。

海のふた/よしもとばなな

女の人は子供を生む勉強で充分

ってこと?

ここで一気に気持ちが冷めてしまった。
その後は何を読んでもスッと入って来なくなった。

ただの台詞だけど、よしもとばななさんにはそう言う気持ちが少なからずあるのかなと思った。
そう言う意図ではなく、人として根本的な部分を大切にしようと言いたかっただけなのかもしれないけど。

それを寛大に受け入れられず、モヤモヤしてしまう自分がいる。

子供がいないし生めない私はよしもとばななさんの言う女の人にはなれないなあと思った。
私は私だから、女でも男でもどちらに当てはまらなくてもいいんだけど。

他にも気になる表現がいくつかあった。


この小説が出版れたのは2004年。
よしもとばななさんが出産されたのが2003年。
妊娠、出産を経て育児で忙しい中の執筆は大変な事も多かっただろうと思う。
だから、母としての気持ちや母性が小説全体に組み込まれ滲み出ているのではないだろうか。

この小説全体に溢れ過ぎているそう言う気持ちを感じて、素直に読めなかったのかもしれない。

若い時に読んでいたら、何の疑問も持たずに色んな言葉を吸収していただろう。
歳をとって寛容になっていたら俯瞰して『伝えたいこと分かるよ』と共感できるかもしれない。
どちらにしてもいい小説だと思えるのだろう。


ただ、今の私にはしっくりこなかった。
それだけのこと。


よしもとばななさんの描写に合わせて、挿入されている名嘉睦稔さんの版画がとても素敵だった。
自然の風景も良いけど、私は花火の版画がとても気に入った。


人が良いと言ってるものが良いとは限らない。
合う合わないもあって当然。

否定するような感想文は本当は書かない方がいいのかもしれないけど、今の気持ちとして残しておく。

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