ヤマザキパンがカビないことがなぜ悪いのか?
一般市民を愚弄した「ヤマザキパンはなぜカビないか」
渡辺雄二氏が書いた「ヤマザキパンはなぜカビないか」という本について、鈴鹿医療科学大学の長村洋一教授が鋭く批判した論文を紹介します。
確かに、パンがカビないというのは一見良いことに思える。しかし、渡辺雄二氏が著書『ヤマザキパンはなぜカビないか』で指摘したことが波紋を呼んだ。
「ヤマザキパンには発がん物質の臭素酸カリウムが使われている」
「だからカビが生えないのだ」というのだ。
この本が発売されるやいなや、あちこちの勉強会で取り上げられ、食の安全を訴える人々の間で大きな話題となった。そうした状況に危機感を抱いた鈴鹿医療科学大学の長村洋一教授は、この本に対する反論を練り上げた。教授の論文は鋭い切れ味で、科学的な誤りを次々に暴いていった。
まず、長村教授が問題にしたのは、この本の実験がいかに稚拙であるかということ。
市販のヤマザキパンと他社のパンを並べて放置し、その結果ヤマザキパンがカビないことを「臭素酸カリウムが原因だ」と結論づけた渡辺氏。しかし、実際には臭素酸カリウムは防カビ剤ではなく、小麦粉改良剤として使われているだけであり、その防カビ効果を科学的に証明するデータは存在しない。
また、実験の前提条件自体が誤っていると指摘する。
ヤマザキパンがカビない理由を臭素酸カリウムに結びつけるための実験条件が、そもそも非科学的であり、一般の消費者を欺くためのものであると糾弾する。「科学に縁遠い人々に対して感情に訴えかける手法は詐欺的である」と、長村教授の怒りがにじみ出ている。
そして、一般の消費者には「発がん性物質が入っているからカビない」という誤解を与えることで、ヤマザキパンに対する不安を煽る手法がいかに危険であるかを警告した。
実際には、ヤマザキパンがカビない理由は、製造過程が非常に清潔であることや、包装がしっかりしていること、さらには発酵時間の調整によるものであることが科学的に示されている。
しかし、このような冷静な科学的解説は、感情に訴えかける煽動的な主張にはなかなか勝てないのも現実だ。メディアもこうしたセンセーショナルな内容に飛びつき、科学的根拠に基づかない情報が一人歩きする。この現象を見ていると、まるでガリレオ・ガリレイが地動説を主張したときの逆風のようだと長村教授は嘆く。
最終的に、パンがカビない理由を理解するためには、消費者自身が科学的な知識を身につけ、情報を鵜呑みにしない批判的な視点を持つことが必要だろう。科学は日常の中にこそ活きている。それを忘れてはいけない。