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夜市/恒川光太郎(2005/10/26)【読書ノート】

選考委員激賞の、第12回日本ホラー小説大賞受賞作
何でも売っている不思議な市場「夜市」。幼いころ夜市に迷い込んだ祐司は、弟と引き換えに「野球選手の才能」を手に入れた。野球部のエースとして成長した祐司だったが、常に罪悪感にさいなまれていた……

野球の才能を得るために弟を売り払った裕二の話。高校時代の同級生、泉に誘われた裕二は、ありふれた公園を抜け、徐々に特別な森へと足を進める。そこは普通の場所ではなく、妖怪が集まり、様々な不思議なものが売買される市が開かれていた。裕二の目的は、かつて野球の才能を求めて売り払った弟を取り戻すことだった。しかし、裕二は弟の顔や特徴を思い出せずにいた。果たして裕二は騙されずに弟を見つけ、無事に市から抜け出すことができるのか。そして物語は美しくも切ない結末を迎える……

幻想的な妖怪たちの市場へようこそ。この場所は、さまざまな品物を売る不思議な夜市、いわば「幻の市」だ。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時、主人公はこの市で迷い込み、自分の弟と引き換えに野球の才能を手に入れた。野球部のヒーローとして成長するが、弟を失ったことへの罪悪感に苛まれ続ける。そして、弟を取り戻すため、再びこの幻の市を訪れることになる。
おすすめポイントは、第一に読みやすく美しい文章にあり、特に小説の書き出しが印象的だ。物語の世界に引き込まれること間違いない。
第二のポイントは、幻想的で哀愁を帯びたストーリー展開で、読み進めるほどにその世界に没入していく。
そして第三に、妖や和風の要素が好きな人には特におすすめできる。この小説は、幻想的な世界観を楽しみたい、美しい文章を味わいたいという人にぴったりの作品だ。
読者は美しい文章とともに、深いストーリーに引き込まれる。特に、主人公が抱える葛藤や、幻の市の不思議な雰囲気が印象的である。また、この物語には、幻想的な要素と和風のテイストが融合しており、それがこの小説の独特な魅力を形成している。さらに、物語の中で描かれる自然との関わりや、人間の内面を探るテーマも読者に深い印象を与える。このように、幻の市は幻想と現実が交錯する世界を舞台に、人間の心の奥深くに迫る物語を展開している。そこには、美しい自然の描写や、人間関係の微妙な変化も繊細に描かれており、読む者を魅了する。最終的に、この小説はただのホラー小説にとどまらず、人間の心理や感情を巧みに表現した作品として高く評価されている。

この本は以前からお勧めされていたが、最近になってようやく読む機会があった。読み終えてみると、もっと早く手に取っておけばよかったと強く感じた。『夜市』の舞台は、この世とは異なる特別な市場で、様々な店が軒を連ね、訪れる人々はそこで非日常の体験をすることができる。しかし、この市は普通の市場とは違い、人間かどうかも定かではない不思議な生き物たちが店を構えている。本作の魅力は、登場する異形の存在たちが非常にリアルに描写されている点にある。まるで目の前でその光景が繰り広げられているかのような臨場感と、ファンタジックな要素が絶妙に混ざり合っている。特に、作者の生き物の描写力には感嘆した。また、物語の構造が非常に興味深く、最後はある条件を満たさなければ市場から出ることができないという点で、ショートショートに近い作品だとも感じられる。

これからネタバレありの部分に入るため、まだ読んでいない方はここで一度視聴を止めていただきたい。



物語の一つの大きなテーマは、「何かを買わなければ市場から出られない」というルールにある。主人公がこのルールに直面する場面は、物語に深みを与えている。また、短編小説としての『夜市』を読むことで、短編やショートショートの書き方について新たな発見があった。短編であっても、十分に肉付けされた物語を作り上げることができることを学んだ。恒川光太郎さんの他の作品にも興味が湧き、今後も彼の作品を読み進めていきたいと思う。



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