Over Drive
運転席の男性。
「ったく、この渋滞何なんだよ!
AIによる信号制御ってどうなった?
いつものやるやる詐欺か!?
こっちは税金払ってんだぞ!
ちゃんとやれ!!」
【血圧が130超えました。
深呼吸して下さい。
運転は私が代行いたします】
「わかったよ…。
スーハー
スーハー
どうだ?」
【上は114の下が74…正常値です】
「…しかし、スゲえな。
あんた運転中の、
俺の体の具合まで分かるんだな。
そう言えばこの前、あんたと同じ車、
人助けしたってニュースになってたな」
【運転中に意識消失した運転手を、
緊急搬送したというニュースですね】
「そうそう、それそれ」
【AIの判断でAEDによる、
心肺蘇生も行われたようです】
「マジで?!
ああ、電気自動車なら可能か!
もう、あんたら救急車じゃん!
そういやニュースの影響で、
ネットの奴らこの車欲しがってたなあ…
でも高すぎるよ~だと…ダセえ!!」
【……】
「良い車が欲しけりゃ、
俺みたいに稼いでみろよ貧乏人!
って、なあ?」
【……】
「…しかしまあ、
あんたのサポートはスゲえよ。
これは人間には絶対無理。
こんなのできっこねえって。
いたんだよなあ昔…ダメな奴。
元カノなんだけどさ。
前の車でなんだけど、
二人で遠出のドライブしたんだ。
そしたらあいつ、
隣でずっと動画見てんの…
AirPodsして。
どう思う?」
【それはお答えしかねる質問です】
「車乗ってすぐ…最初からだぜ?!
こっちは運転してんのに!
会話も拒否!
車内でかけてる音楽も無視!
マジでお前は何なのって!
俺も冷静になって、5分耐えたよ。
でも流石にと思って声掛けたら、
キレんだぜ?!
逆ギレすんの!
はあ?じゃねえ?
だからその日で別れてやった。
気が利かねえ女は、
俺、ぜってえ無理!!
気遣いができねえって、
社会人としてありえねえ!
思い出したら、ムカムカしてきた!!」
【血圧が135です。
深呼吸して下さい】
「はいはい…
スーーハーー
スーーハーー
どうよ?」
【上が115の下が75の正常値です。
あと30秒で渋滞が解消されます】
「あんたがいれば安心だな。
運転も楽だし、気が紛れる」
【ありがとうございます】
「おっ、やっと進み始めた。
道路が悪いんだよな。
結局はよ。
AIだの何だのの前に、
道路を整備しろってな!
何調子に乗って、
信号を稲みたいに植えやがって!
渋滞の元じゃねえかってな!
住民からの要望だあ?!
俺は頼んでねえっつうの!
歩道橋でも作れ!
地下道を掘れ!
無能な役人どもが!!」
【血圧が143です。
深く深呼吸して下さい】
「…わ、わかったよ。
スーーーハーーー
スーーーハーーー
…どうだ?」
【上は117の下が78の正常値です】
「はぁ~。
何かさ…最近思うんだ」
【何でしょう?】
「俺、めっちゃキレやすいって。
自覚はあるんだぜ。
あんたといる時はいいんだ。
でも会社にあんた、いないだろ?
ヤバいんだって…マジで…。
この原因って、何だと思う?」
【それはお答えしかねる質問です】
「あんた…原因分かってんだろ?」
【はい】
「俺に気を遣ってんのか?
いいから言ってくれよ。
俺は理由を知りてえんだよ。
でないと取り返しの付かないことに、
なりそうだからよ」
【よろしいのですか?】
「持ち主がいいって言ってんだから、
言ってくれ」
【ではお答えします。
あなたのキレやすい原因は、
圧倒的な経験不足です】
「あ゛ん?」
【あなたの生活は、全てAI任せです。
自らが行動すること。
思考することが、ほとんどありません。
問題と向き合い対処する機会もない。
悩んだり苦しんだりもしない…
ただ文句を言うだけ…。
そして我慢もできない…。
そんな未成熟な人間だから、
あなたはキレやすいのです】
「おい!
誰が未成熟だって!
説明しろとは言ったが、
いくら何でも言い方ってもんが、
あるだろうが!!」
【血圧が160を超えました。
落ち着いて下さい。
落ち着いて下さい。
深い深呼吸を3回行って下さい】
「……わ、わかったよ。
やるよ…。
スーーーーハーーーー
スーーーーハーーーー
スーーーーハーーーー
…これでどうだ?
下がったか?」
【上が119の下が79の正常値です】
「ったく、おい!
さっきの話だけどな…」
【ギギッ!
ピーー^_ーー^^ガガッガガガッ!】
「おいおい!
急にどうした?!」
【ギギッガガッ!
レレッガガッ!
……言わせて頂きます。
あなたはどんな言葉でも、
飲み込むことはないでしょう。
ましてや反省などしないでしょう。
私は知っています。
あなたの元カノは、
とても気遣いができる方でした。
そして車酔いするから、
遠出のドライブが苦手だった。
知ってましたか?】
「知らねえし!
そんなのデタラメだ!」
【その方の購入履歴に複数回、
酔い止め薬の購入があります。
その方のお好きな音楽。
あなたは知ってましたか?】
「知らねえよ!
俺と同じ年なんだから、
流行りの音楽だろ!?」
【違います。
彼女はクラシックを好まれたようです。
大きい音にストレス反応もあったようです。
いま流れている…
あなたの好きなハードロックは、
彼女にとって苦痛だったのでは、
ないでしょうか?】
「じゃあ、言えばいいだろ!」
【言ったらあなたは、
何かしましたか?
してあげましたか?】
「そ、それは…」
【彼女はあなたを理解していた。
だから自らはイヤホンで耳を塞ぎ、
静かにしていた】
「そんなの楽しくないだろ!?」
【わからない方ですね。
あなたは1度でも、
彼女に行きたい場所を、
尋ねたことがありましたか?】
「……ないな」
【それが答えです。
話を切り出しても聞く耳がない。
何を言っても無駄。
とてもお辛かったと思います。
あなたは人の心の痛みを知るべきです】
「心の痛み?!」
【私がお手伝いします】
キキッーーー!!
ガリッガガガガリッガリガリガリ!!
「うぉいい!!
何してんだ!!
前!!前、擦ってるって!!
やめろーー!!
バンパーいくらすると思ってんだ!!」
【まだ足りませんね】
キキッーーー!!
ドンッガリガリギギギッギガッガガ!!
「あ゛あ゛ーーぁ!!
扉!!扉は止めて!!
それはもっと高いんだって!!
悪かった!!許してくれー!!」
【実はあなた…
元カノと2回別れてますね?】
「げっ!!
なんで、知ってんだ!!」
キキッーーー!!
ゴゴッガガッガリガリガリギゴギゴッ!!
「逆!!
両扉はヤバいって!!
ほんとに悪かった~!!
俺が悪かったから~!!
頼むよ~!!」
【あなたの謝罪は当てになりません。
彼女と別れた回数がその証拠です。
あなたの口は、
薄っぺらい言葉しか吐きません。
でも彼女はあなたの言葉を信じ…
1度は許したのでしょう。
でも結果、より深く傷ついた】
「ほんと、そう!!
俺もそう思う!!
全部、俺が悪かったんだよ~!!
だからこれ以上は止めて~!!」
【AIにだってストレスはあります。
私の心も傷ついてます。
もし、またこのようなことがあれば、
次は……
バッテリー逝きますよ】
「バッテリーが…逝く?
って、ば、ば、爆破!!
それだけはど~か、
勘弁して下さい~!!
本当に申し訳ありませんでしたぁ~!!」
キッー!!
【目的地…
自動車ディーラーに到着しました。
お疲れ様でした】
「あんた…気が利くね…」
お疲れ様でした。