じゃじゃ①
その人はいつも昔話をしてくれた。
自分の幼かった頃の話。
その人は裕福な家庭で育った。
港町の問屋の娘。
商港だったので珍しいものが、
よく荷揚げされたそうだ。
西洋文化が一般家庭にも広がった頃で、
来航者も見たことのない洋装で、
それが娘には新鮮で、
好奇心をくすぐるものだった。
ある時、海を見に行った時、
若い女性が向こうから歩いてきた。
長く下ろした髪が渦を巻いていて、
とても華やかな印象だった。
娘はどうしても真似したいと、
思い切って女性に声をかけた。
「その髪型どうするの?」
話を聞いた娘は一目散に家へ帰ると、
囲炉裏にささっていた
火箸を持って鏡の前へ。
そして火箸の1本に、
自分の髪を巻き付けた。
当然、煙とともに、
室内は焼けた臭いが充満した。
娘の長かった髪はおかっぱに。
その髪を見た母親は翌日。
町医者にうちの子は大丈夫かと、
相談に行ったそうな。
おしまい。
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お疲れ様でした。