勇者クエスト ~サガ~
自室でゲームを立ち上げる男性。
ロールプレイングゲームを買った。
ある国の勇者が、
魔王を倒し世界を救う。
ざっくり言ってしまえばそんなゲーム。
私くらいの古株ゲーマーになると、
説明書やチュートリアルを見なくても、
ゲームを進められる。
「ほら出た。
これ説明が長くて面倒なんだよ。
だから私は見ない…
【いいえ】」
すると画面が切り替わり、
主人公が玉座の前で跪いていた。
目の前の王様が話しかけてくる。
「おお~勇者よ!
よくぞ参られた。
この王国…いや世界はいま、
魔王によって滅亡の危機にある。
頼む、どうか世界を救うため、
魔王を倒してくれ!」
「出た~!ゲームあるある。
ゲームする人への意思確認。
ここで【いいえ】を選んでも、
本当にそれでいいんですか?
って延々聞いてくるんだよ。
結局、【はい】を選ばないと、
ゲームが進まないように、
なってるんだよ、これ。
でもどうなるか気になって、
押したくなるんだよねぇ…
これが好奇心ってやつだな。
【いいえ】っと」
「ほらね、また聞いてきた。
でもこれゴリ押しパターンになったな。
もう一回やってみよっか?
【いいえ】」
「泣き落としできたぞ!
何か台詞が変化して面白いな。
こういう拘りって、
ゲームファンは嬉しいんだよね。
どこまで作り込んでんだろ?
【いいえ】」
「【いいえ】っと」
「いいえって…危なっ!
これ質問が逆になってる!
危ねえ~引っ掛け!
倒してくれないの?で、
いいえを押すと、
倒しに行くにことになるじゃん。
古株ゲーマーはそう簡単には、
引っかからないよ。
行けるところまで拒否しよう。
魔王討伐拒否!【はい】」
「もうよい!
そなたという人物がよ~くわかった!
あとで後悔せんようにな!!」
画面が真っ暗になる。
そして急にスタッフロールが流れ、
画面最後にはENDの文字。
「え?!何これ?
バッドエンディング?
こんなのまで作ってんの?
拘ってるねぇ~。
作り込みが凄い!
このゲーム面白いかも。
よし!
じゃあ気を取り直して再スタート!
今度こそ魔王を倒しに行こう!」
スタートを押すと、
今度は自宅からゲームが始まった。
「あれ?さっきと始まり方が違う。
なんだなんだ?」
ガチャーン!
家の窓ガラスが割られ、
大きな石が床に転がった。
「おい!誰だよ!
危ないじゃないか!」
すると外から声がする。
「この臆病者~!!」
「この腰抜け~!」
「村の恥晒し~!」
「ちょっとイボ痔~!」
村人が家を囲むようにして、
一斉に怒号を浴びせてきた。
「なになに、ちょっと待って!
これどういう状況?!
そうだ!チュートリアル!
……あった!
【チュートリアル選択】っと」
「おい!
お詫びの旅って何だよ!
それどんだけ時間かかるんだよ!
俺はクレーム窓口担当か!」
「出かけるわけないし……!!
な~んだ、わかったぞ!
これで【いいえ】にすれば、
また本編の魔王討伐に戻るんだな。
何事かと思って、ちょっと焦ったよ~。
よし!
じゃあ【いいえ】を選択っと」
「ほんと細部まで、
よく作り込んでんな、このゲーム!!」