危険な職質
巡回中の巡査と巡査長。
「先輩」
「ん?何だ?」
「僕、まだ職質慣れなくて」
「そうか?
よくやってると思うぞ。
一昨年の新人は人見知りが激しすぎて、
今は、内勤やってるし」
「実は僕も人見知りなんですよ。
昔から緊張すると、
言葉が上手く出てこなくて」
「そう言うわりにはこうやって、
俺と上手くコミュニケーション
取ってるじゃないか」
「それは3ヶ月も一緒にいれば
なりますって。
職質はほぼ初見ですからどうしても…」
「まあ焦らず行ったらどうだ?
時間を掛けていずれ慣れるさ」
「慣れますかねぇ…」
「まあ実は俺も新人の頃は苦手だったんだ。
今からは想像できないだろうけど」
「そうだったんですか?
巡査長が人見知りだったなんて…。
……。
ちょっと、やる気出ました」
「まあ場数もあるし、頑張れよ」
「はい」
「おっと。
早速、あの前屈状態のまま歩いてる
白いTシャツにカーキ色のズボンの男性。
ちょっと声掛けてみよう」
「はい!
……
すいませんけど、どうしました?
大丈夫ですか?」
「ああ~!!
お巡りさん!!
聞いて下さ~い!!
大事なカード奪われました!!」
「クレジットカードですか?!
それは大変でした。
その時の状況、
ちょっと詳しく教えて下さいますか」
……。
……。
……。
「はあ~疲れました」
「疲れたな。
わりとよくあることだけど」
「どうして彼は自分であげておいて、
被害者面をするんでしょうね」
「あれだよ。
自分のあげたものとその見返りが、
つり合わなかったんだろう。
通りすがりの女性にスマホケースの、
キャラクターが可愛いと言われて、
そのポケモンの話で意気投合…だっけ?
話すうちに盛り上がって、
高額なポケモンカードを
あげちゃった…って。
彼、調子にのっちゃったんだろ?
連絡先を教えてくれるって言われて。
そして貰った連絡先が繋がらないのも、
確認不足というか詐欺あるあるだろ?」
「そうなんですけどね。
でも、それにしても酷かったですね。
まだその聞き取りはよかったですけど、
途中からポケモンカード講座…1時間。
辛かったぁ~。
あれ、仕事ですか?」
「最近、多いんだよな。
だからよく見て声かけないと、
2時間コースとかあるしな。
鞄についてたぬいぐるみに、
気付いていればこんなことには…」
「先輩!
僕、もっともっと頑張って、
人間観察に磨きをかけます。
そしていつか、
効率のいい職質のプロになります!」
「方向性があってるかはわからんが、
そう思うなら頑張れ!」
「はい!
…あっ!先輩!あれ!
黒いスーツケースを持った、
いかにも怪しい人物が!!
僕、ちょっと声掛けてきます!!」
「お、おう」
「こんにちわ。
ちょっとお尋ねします。
あなた、ご職業は?」
「…は、販売です」
「営業の方ですか。
ちょっとその黒いスーツケース…
気になりまして…
差し支えなければちょっと拝見しても、
よろしいですか?」
「え?!これですか?
まあまあ…良いですよ。どうぞ」
「じゃあ失礼して…
先輩!これ刃物です!」
「何!!」
「おい!!お前!!
この大量の刃物は何だ!!」
「これはですね…」
「ああっ!!
この顔!!
そいつはヤバい!!
おい!!巡査!!
いま直ぐその場を離れるんだ!!
早くーー!!」
……。
……。
……。
「ありがとうございました」
巡査と巡査長の手には、
……。
包丁と…
……。
……。
包丁研ぎ器…。
「あれはレジェント松本さんだ。
一番、職質してはダメな人だ」
「はい先輩。
職質のプロの道は厳しいっす」