熱い想い
甲子園球場。
「本当にやるんですか?」
「やるに決まってるだろ!
何を今更、弱腰なことを言っとる!」
「いえ。
これはちょっと、
嫌な予感がするので…」
「やると言ったらやるんだ!
でないと示しがつかん!」
「他の連盟や団体からの抗議とはいえ、
何も私たちが炎天下で野球をすることは、
ないと思うんですが…」
「何を言っとるんだ!
この状況で試合しても、
安全だということを証明するには、
これが一番手っ取り早いだろうが!
あいつら文句ばかり言いおって…。
どれだけ大会を開くのに、
段取りが大変なのかわかっとらんのだ!
いいから行くぞ!」
「大丈夫ですかね…。
今日は最高気温38℃ですけど…。
9回まで保ちますかねぇ」
「何が38℃だ!
わしらの頃は今みたいに、
クーリングタイムや、
クーリングスペースはなかったんだぞ…!
ヤカン…やかんだ!
ヤカンで…頭から…水をかぶれば…
何とか…なるん…だ……
……」
「ちょっと!実行委員長!!
大丈夫ですか!!
ちょっと!誰か~!!
医療班の人呼んで~!!
委員長~~~!!」
……。
それから10年。
8月6日。
甲子園球場。
「大会会長 挨拶」
「全国3543校の代表として、
ここに集った49校の球児の皆さん。
ご出場おめでとうございます。
私は10年前のこの日、
38℃の猛暑日の中、
この球場で野球をしました。
でも結果、できませんでした。
プレイボールの声を聞く前に、
私は熱中症で倒れたからです。
それまでの私は、
昔はこの方法でやっていた。
自分たちがしてきたのだから、
できないはずはない。
好条件にしたのだから文句を言うなと、
人の意見に耳を傾けませんでした。
あの日からです。
私が変わったのは…。
そしてそのおかげでまたこうやって、
安全に大会を開くことが、
できるようになりました。
あの時、貴重な意見を下さった方、
そして助言をしてくれた有識者の方、
何よりまたこうやって大会に、
協力して下さる球児たち及び、
そのご家族、学校、各関係者の方々には、
深く感謝申し上げます。
今日も最高気温は、
40℃になるそうです。
ですが球児の皆さんは、
安心して思う存分、
熱い想いをプレーにぶつけて下さい。
ただいまより第◯◯◯回、
全国高校野球選手権大会を開催します。
ありがとうございました」
スタンドからは、
賛辞の大歓声と盛大な拍手。
そして…
その頭上には…
巨大な開閉式の屋根。
このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。
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