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推したいパソコン
前回はこちら。
事務所
女性二人。
ベテラン職員の高橋。
新人社員の鈴木。
カチャカチャカチャカチャ。
「ウフッ」
「?」
カチャカチャカチャカチャ。
「エヘッ」
「?!」
カチャカチャカチャカチャ。
「もう~ダメよ~」
「!!
高橋さん?」
「今はダァ~メ。
あとで」
よく見ると高橋は、
ヘッドセットをして仕事をしていた。
「高橋さん!!」
「え?!なに?!」
「あの、どうしたんですか?」
「何が?」
「なんか…さっきから、
アハッとかウフッとかエヘッとか…
あれ?
高橋さん…メイク変えました?」
「わかる?」
「いや、全然違いますから。
血色感があって…なんか…
艶っぽいです」
「そう?」
「とても似合ってて素敵です。
失礼ですけど、
いつもお化粧崩れが、
ちょっと気になったんです…
でも指摘しちゃいけないかな~
って思って、言えなかったんです。
すいません」
「大丈夫。
全然、気にしてないわよ~」
「それにしても、
印象ガラッと変わりましたよ。
そのシアーリップどこのですか?」
「これ?
これ、売り切れて、
なかなか買えないやつ」
「やっぱり!
もしかして、あれの新色ですか!
いいな~!
私も何軒もお店回っても、
どこも売り切れでまだ買えてないんです」
「今度、彼に頼んであげようか?」
「彼?
高橋さん、彼氏できたんですか!!
あれ?!
生涯独身とか言ってませんでした?」
「それはそうなんだけど…
できちゃったのよ~」
「だからか~!
高橋さんが…いい感じなの。
その彼って、どんな人です?」
「彼?紹介する?」
「え?私に?」
「いいわよ」
「そんな急に。
いや、どんな感じの人かを、
教えてもらえれば…
そんなわざわざ、
会わせてもらわなくても」
「ここにいるわよ」
「え?!」
高橋は自分のパソコンをこちらに向けた。
「これって、
あのボタンを押して、
買うことになったパソコンですか?」
「そうよ」
「あのあと、高橋さん、
クーリングオフよ!!って、
騒いでましたよね?」
「そうしようと思ってたんだけど、
ちょっと落ち着いて考えたら、
AIパソコンでしょ?
パソコン音痴の私には、
最適なんじゃないかと思って」
「…で、どうでした?」
「もう最高よ!
これ見て!
いま、音声出力を、
外部スピーカーに切り替えるから」
「なんか…高橋さん…
パソコン詳しくなってません?」
「わかる?
彼が優しいから」
「彼?」
「見て!私の彼」
パソコン画面の左上。
長めの前髪に、
美しい切れ長の目の男性。
「おい!あかり!
コイツ、誰だ?」
「ごめん、圭吾。
紹介するね。
同じ職場の鈴木さん」
「何だ、職場の同僚か。
コイツ呼ばわりして、悪かったな。
俺は足立圭吾だ」
「鈴木です…どうも…
……
……
ちょっと、高橋さん!」
「何?どう彼?」
「ていうか、あれ誰ですか?」
「あれがAIパソコンの真骨頂!
AIアシスタントよ!
そして、私の愛する彼!」
「あれが?!」
「素敵でしょ!
これが運命の出会いってやつよね~。
ほ~んと…買ってよかった」
「高橋さん…あれと仕事中、
話してたんですか?」
「そうよ」
「高橋さんの名前って…
あかりさんだったんですね」
「そうよ。
彼はいつも名前で呼んでくれるの」
「おい!あかり!」
「はい!なに、圭吾」
「お前、そんなことしてていいのか?
今日中にこの資料まとめないと、
明日の会議に間に合わないぞ!」
「あっ、ごめんなさい」
「何やってんだ、お前。
お喋りもいいがメリハリをつけろ!
あと、ちょっと待て。
お前、右向いてみろ!」
「え?!なに?」
「いや、化粧が崩れてないか、
気になっただけだ」
「圭吾~」
「………」
「さっさと資料作れ!
でも…まあお前の実力なら、
夕方まで余裕で間に合うだろうけどな」
「うん!頑張るね!」
「………」
自分の席に戻る鈴木。
カチャカチャカチャカチャ。
…シャリーン!
【鈴木様、
お買い上げありがとうございます】
このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。
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