面倒と便利
女性二人。
スーパーの自動レジ。
「値上がり多い…」
「ほんと。
特価品しか買えないわよ」
ピッ
ピッ
「あと、こっそり値上げも多い…」
「ほんと。
いつも通りの個数じゃないと、
後から気付いて買い足しよ。
本当に面倒くさいことしてくれるわ」
ピッ
ピッ
「ステルス値上げって、
海外でもあるらしいけど、
訴えるケースもあるんだって」
「私、訴えてやろうかしら。
でも裁判とか面倒よね~。
ねえ、今日買ったシメジ。
小さくなかった?」
ピッ
ピッ
「ひと回り小さいの、たくさんあった。
私は下から掘り返して買った。
毎週買ってる主婦を舐めてるよね。
大きいの探すひと手間が面倒。
店もバレないと思ってるのかな?」
「ほんと、こんなのバレバレよ。
こういうのやられると、
地味に気が滅入る」
ピッ
ピッ
「ほんと。
あと私がいつも買ってるキムチ、
なくなってたわ」
「あなたしか、
買わないからでしょ」
ピッ
ピッ
「そんなことある?
それでも毎週1個は必ず売れるのよ。
私、面倒だったけど、
別のスーパーに買いに行ったわよ。
固定客がいるのに酷くない?」
「あなたしか買わないなら、
店長としては賢明な判断でしょ」
ピッ
ピッ
「あっ!またエラー出た!
すいませ~ん!」
「あっ!私も!
すいませ~ん!」
ピピピ ピッピ
ピピピ ピッピ
「どうも~。
この重さエラーとか、
バーコード読まないとか面倒よね。
店員さんも自動レジなのに、
ずっと呼ばれてるし」
「便利になったはずなのに、
仕事が増えるっていう、
おかしな現象よね」
ピッ
ピッ
「そう言えば、前にもあったのよ。
私がいつも買ってるソーセージが、
お店で扱わなくなったの」
「あなた面倒な客リストに、
入ってるんじゃない?」
ピッ
ピッ
「そんなことある?
私、店から締め出されるの?
何もしてないのに?」
「いつも文句ばっかり言ってるから」
ピッ
ピッ
「それは、あなたもだからね。
面倒な客は、私だけじゃないわよ」
「まあ、そうかもね。
でも私たち、何だかんだ言いながら
いつもこの店、来るよね」
ピッ
ピッ
「そうね。
こんな不便で遠いスーパー。
近くに大型スーパーたくさんあるのに。
何で来るようになったんだっけ?」
「スマホ決済?」
ピッ
ピッ
「そんなのどこでもあるでしょ。
むしろこのスーパーは、
決済の種類、少ないわよ。
この店用にアプリ入れたんだから、私」
「そうよね。
あまりメジャーじゃない決済だから、
面倒なのよね。
じゃあ、何で?」
ピッ
ピッ
「何でだっけ?」
「何か理由あったよね?」
ピーー
ピーー
「支払い支払い。
え~と、クレジット決済でと…」
「私は電子マネーで…」
ピピッ
ピピッ
「あっ!思い出した!
ここのレジ、
買物情報をスマホに、
送信してくれるからだ!」
「そう!
家計簿ソフトに、
自動入力してくれるんだった!」
「わざわざレシートの写真撮ったり、
手入力しなく良いのは助かるわよね~」
「家計簿ソフトって、
手間が多く面倒なのよ」
「このレジがある店なら、
何もしなくていいから便利なのよ。
月末に収支を見るだけでいいんだもん」
「楽ちんよね~」
「何で、他はやらないのかしら?」
「そんなの簡単よ」
「どして?」
「面倒くさいからでしょ」
「やっぱり、面倒なのよね~」