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大学院生のある1日のスケジュール(実験期間中、それ以外の日常)ーー東大院卒研究者が素朴で難しい問いを物理の言葉で語るエッセイ「ミクロコスモスより」⑥



加速器を相手に仕事をする人の生活は、まさに季節労働者のようです。

1年のスケジュールは、割り当てられた実験時間(「ビームタイム」や「マシンタイム」などと呼ばれる)をゴールに大方自動的に決まります。
ビームタイムは多くてもせいぜい1年に数日しか与えられないため、そこに至るまでの数か月間は、そのための準備に費やされます。特に実験が近くなると、装置や検出器の準備(重いステンレスの真空槽を繋げてネジを締めたり、装置全体を加熱したり、大量のケーブルをさばいて結線を確認したり、データ解析用のプログラムを書いたり、などなど)に追われ、とにかく余裕のない日々を送ります。


一方、ビームタイムが迫っていない時期はとても自由です。気になる論文を読んだり、新しい装置の構想を考えたり、ただ雑談したり、(時には雑用もありますが)健康的な生活を送ることができます。他にも、学会や他の実験に参加するために出張をする機会もあり、そういういわば「社交の場」で国内外の研究者と知り合うことが出来ます。


加速器を扱う研究者の生活についてはこちら↓


大学院生の1日(ビームタイム以外の日常)

下記は大学院生の1日の内訳の例。大学院進学ガイダンスに行くと、これよりもう少し健全なスケジュール例を見せられることがあります。


9~10時  頑張って研究室へ向かう
10時~11時 午前中の作業(事務手続き、コード書きなど)
12時~13時半 昼食・コーヒーブレイク
13時半~21時 午後の作業(実験室で重労働)
21時~22時 頑張って家に帰る
22時~翌1時 寝る支度(時に、「仕事の残りを片付ける」も含む)

「大学院生」と呼ばれる身分はとても特殊です。大学生なら必修の講義がありますし、あるいは教員であれば大学運営上の仕事があるので、おのずと生活は規則的になっていきます。
しかし、(特に日本の)大学院生の場合は、授業もなく、雑務も限られています。これは良く言えば自由ですが、逆に言えばモチベーションが保てなければ途方に暮れてしまう環境でもあります。あくまで「学生」という身分なので当然「労働者」として法律に守られる事もなく、今自分がやっていることが「やりたいこと」なのか「やるべきこと」なのか、という葛藤は誰しも経験があるのではないでしょうか。




プロフィール
小澤直也(おざわ・なおや)

1995年生まれ。博士(理学)。
東京大学理学部物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。
現在も、とある研究室で研究を続ける。

7歳よりピアノを習い始め、現在も趣味として継続中。主にクラシック(古典派)や現代曲に興味があり、最近は作曲にも取り組む。


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