『君の名は。』のラストシーンで瀧と三葉がすれ違う確率<前編>ーー東大出身の理学博士が素朴で難しい問いを物理の言葉で語るエッセイ「ミクロコスモスより」⑳
皆さんはアニメ映画「君の名は。」を覚えているでしょうか。面識のない女子高校生と男子高校生同士が入れ替わったりタイムトラベルしたりした挙句に、数年後に街でばったり出会う、というストーリーです※1。
ラストシーンで、登場人物の瀧と三葉が隣り合う電車の窓越しにお互いを見つけ、はっとして次の駅で慌てて降りて駆け出し、東京・四ツ谷の須賀神社で対面を果たします。感動的な展開ですが、実は乗っている電車については致命的な矛盾があることを、皆さんお気づきでしょうか※2。
街中でばったり出会う可能性は?
それはさておき、まったく手がかりもない状態で二人が街中でばったり出会える可能性は現実的にどれくらいあるのでしょうか。経験上、同じ町で同じ生活スタイルを送っている人であっても、偶然遭遇することはめったにありません。
具体的にあるモデルを立てて計算してみましょう。
ある地域が、縦$${m}$$個、縦$${m}$$個の、一辺10 m の正方形(「区画」)に分割できたとして、二人が同時に同じ「区画」に入ったときに「出会った」と判定できることにします。
歩いている人がこの「区画」を通り過ぎるのに3秒かかるとし、平均的に1日あたり1時間街を歩き回ると仮定します。すると、お互いに遭遇するチャンスはお互いに1日当たり 3600秒/3秒 = 1200回存在することになります。二人が生息する地域の面積がある決められた値の時に、何日に1回の割合で遭遇することができるのかを求めます。
計算の流れは次の通りです。
ある時刻$${t_k}$$において人物Aが「区画」$${\left(x^A_k, y^A_k\right)}$$、人物Bが「区画」$${\left(x^B_k, y^B_k\right)}$$に居るとして、時刻が進むごとに$${x}$$-$${y}$$平面上を縦横に1「区画」ずつ進みます。ここで、$${k}$$は時刻を表す添え字で、1から1200(1時間を3秒ごとに区切ったときの「段階」の数)までの値を取ります。2人の初期位置$${(x^A_0,y^A_0)}$$、$${(x^B_0,y^B_0)}$$や、各「段階」でどの方向に進むかは疑似乱数を使ってランダムに決めます。
モンテカルロ法
このようにひたすら遭遇するかしないかを試していくことによって確率を求める方法は、「モンテカルロ法」と呼ばれる計算手法の一例です。
試行回数を増やせば増やすほど計算精度は向上しますが、その分計算コストも増大してしまいます。そこで、計算可能な現実的なラインでこの問題の答えを求めることにしましょう。
例えば、三葉と瀧が出会ったと思われる東京都新宿区の面積は18.22平方キロメートルです。仮に新宿区を正方形だとすると、一辺10 m の区画$${m^2=A /(10~{\rm m})^2 = 182200}$$個分に分割できます。二人が同じタイミングでこの街を1時間歩き回ったとすると$${n=3600~\rm{秒}/3~\rm{秒}=1200}$$です。この時の遭遇確率は、10000回の試行回数で計算した結果0.4%となりました。すなわち、250日に1回の割合で遭遇することができることになります。
一般的には、新宿近辺に勤務先があるとしても、別の区から通っている場合が多くあるはずです。そこで、二人の移動範囲が東京23区全体(面積627.53平方キロメートル)だと仮定しましょう。100000回の試行回数で計算し、遭遇確率は0.009%、すなわち30年に1回となってしまいました。これではさすがに会えずじまいでしょう。
したがって、皆さんが三葉や瀧に会いたい場合は、
1.相手と同じ区の範囲内に住む。
2.そして、必ず1日1時間以上、区内の至る場所を歩き回る生活を1年間続ける。
によって一度は遭遇できると期待できることになります。
実際に試した方がいらっしゃれば、ぜひこちらまで結果をお知らせください。
<後編>につづく
プロフィール
小澤直也(おざわ・なおや)
1995年生まれ。博士(理学)。
東京大学理学部物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。
現在も、とある研究室で研究を続ける。
7歳よりピアノを習い始め、現在も趣味として継続中。主にクラシック(古典派)や現代曲に興味があり、最近は作曲にも取り組む。
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