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書評;西村陽吉 歌集『第一の街』

野口あや子さんが「短歌というお守り」というハッシュタグで西村陽吉の歌を挙げて、興味を持ちました。

それで目的の短歌がどこにあるのかを探す旅が始まりました。

1.『都市居住者』(大正5年)

都市居住者は、西村陽吉の第一歌集です。若い頃、父親を亡くした時の連作が良かったです。

事もなく彗星すぎて蒼く澄む夜空の奥に夏来る見ゆ

16歳の時だったようで、その時の「事実としての病状を淡々と語る看護師」の言葉が、若い自分を痛めつけたようです。 

他には、仕事に明け暮れるも裕福にはなれない不満がふつふつと湧いて、悲嘆と憤りが随所に見られます。

西村陽吉は、東雲堂書店に婿入りしているのですが、工場内の様子と校正者の部屋から見たものを歌にしています。書店という商売柄、日本各地に出張や旅行に行ったとみえ、汽車内の歌、北海道は札幌の歌、宮崎県日向市へ旧友を訪ねた時の歌もあります。

怒りを見せたかと思うと、旅館で寛いで自然を愛でているなど、とても素直な人格だったのではないかと思います。

2.『街路樹』(大正7年)

聖書踊む女の聲のおごそかにふるえてゐたり怪しく戀ふる

私は以前にもこの歌は見て知っていたのですが、皮肉っぽい感じが、思い込みでずっと塚本邦雄の歌だと思ってたんですよね。

3.『第一の街』(大正13年)

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別の歌集だと思って借りたこれは、都市居住者と街路樹、街路樹以後の三部からなっているものでした。今のところここまで読みました。

街路樹以後から。

世に容れぬ性を持てりと語りつぐ君の眉根は痙攣をしき 「花田世大を悼む」

若山牧水や土岐善麿といった歌人と親交がありましたが、花田世大もその1人です。上記の歌を見ていつの時代もこのように苦しんで来たんだなと思いました。

優しい家族詠の歌も良いのがありましたので書いておきます。

子を抱きて路のべに立つ若き妻はあたたかき日を素足をしたり 「小石川掃除町」

札幌のことを詠った連作では

ひよつくりと夜あけの汽車に眼をさまし色づく山の囃木を見る 

ひょっくりは、私の地方ではあまり聞いた事がなく、歌人の感性かな、と調べたらオノマトペの中に確かに含まれていて珍しくはない様子。ひょっこり、とは聞きますもんね。

4.目的の歌は『舗道の歌』

この無數の大衆はそれぞれのいのちだ 個々の人格だ 見ろごみのやうだ  『舗道の歌』

この歌を探していました。どこに載っていると言えるように調べたかっただけだし、これ以降の歌集はなかなか入手困難だそうで、読めるかはわかりません。

それで一度、記事にしておきました。
もともと破調ぎみの歌が多めでしたが、さらに文字数が増大し、短歌より詩人としても知られるようになっていきます。
そして、帝国軍国主義的な政治に対して歯に衣着せぬ詩が増えて、66歳でなくなりました。

最後は『緑の旗』より終わりましょう。

永遠のたつたひとときのいまにゐて眼をあいて見るあたらしい緑   

何気なく最後に持ってきてしまいましたが、爽やかな歌ではなく、緑旗、の読みの方が合っているのでしょうか。デモに身を焦がす歌が書籍の1首目に出ているので、初夏の緑の方ではないのかもしれません。

匡成でした。


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