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再生と成長。恋と憧憬。映画『ぼくのお日さま』感想

まばゆいほど繊細で純潔な物語。

いい映画だった。それ以上の言葉は不要なぐらいに。

吃音のあるアイスホッケーが苦手な少年タクヤ。
選手の夢を諦め、恋人の地元でスケートを教える男・荒川。
コーチのことがすこし気になる、ませたスケート少女さくら。
田舎街のスケートリンクで、3つの心がひとつになって、ほどけてゆく――。雪が降りはじめてから雪がとけるまでの、淡くて切ない小さな恋たちの物語。

イントロダクション


お日さまの光、ドビュッシーの『月の光』、映像美としての光。
タクヤとさくらの存在は荒川にとって希望の光。

この映画はそんなふうに光が象徴となっている。映像的な美しさと少年少女の心の美しさ、雪景色という舞台設定など、複数の美しさが折り重なって色んな意味で光度の高い美しさを備えていた。

再生と成長の話でもあると感じた。
ほんの少しの再生、ほんの少しの成長。

プロスケーターとしての過去の栄光を振り返らず、とはいえどこか傷や名残惜しさを抱えているように見えた荒川(池松壮亮)は、素直でひたむきなタクヤと出会って心の快復が垣間見える。

さくらにまっすぐに心を奪われる純粋なタクヤの姿に胸を打たれたのが最初のキッカケかもしれないが、そこを起点に健気に練習に取り組むタクヤの姿勢、目に見えて成長していくタクヤの可能性、そこにかつての自分(あるいは別の世界線に存在したかもしれない自分)を重ねたのかもしれない。
いずれにせよ荒川はタクヤに新しい生きがいを見出した。

結果的にそれは荒川に対して憧憬のようなまなざし、彼に認められたいという敬慕の気持ちを向けるさくらを引き寄せる形となり、3人の豊かな日々がはじまる。
氷の張った野外のスケートリンクでの3人のシーンは小手先を排除した視点で輝きを追うように撮られ、それはそれは尊い光景だった。

このまま牧歌的な形で進んでエンドロールまで迎えるのか。
転調するとしたらなにが引き起こるのか。
読めそうで読めない感覚で見守った。

そしてその転調の仕方は思いがけない形で訪れ、凍った氷ぐらいかたくて澄んでたはずの3人の絆を解かしてしまった。

とはいえこの点を説明されすぎても、安直な訴求で理解を促そうとされても、きっとひどく安っぽくなったはず。
この氷にヒビが入ったぐらいの状態がちょうどよかった。大人が子供に理解を押し付けることはしてほしくなかったし、大人が子供よりも俯瞰で物事をすべて見えているともしてほしくなかった。何より荒川はそういうことをしないキャラクターだろうと思った。だから解けてしまったようで実は少しヒビが入っただけ。
季節はまためぐる。いつかまたあの氷のかたさ、澄み切った思いを取り戻せるかもしれない。笑顔で駆けた光景を思い出して別の角度も兆すだろう。

車の中で荒川が助手席のさくらに言葉をかけるシーン。荒川がタクヤの頑張りを讃え、それはさくらのおかげだと感謝を告げる場面。さくらは嬉しそうに微笑する。
仮に大人に役目があるとしたら、また逆に大人が子供から教わることがあるとしたら。そんな要素が随所にちりばめられた映画だと思った。

子供にポジティブなキッカケを与えること。子供の頑張りを見ていてあげること。認めてあげて言葉にして伝えること。これらは大人が子供にしてあげられる必要な役目のひとつだと感じた。
同時に少年少女のひたむきな奮闘は大人の心を打ち、魂を浄化させるようなエネルギーをもたらす。その相互作用がみずみずしく描かれていたのだ。

タクヤの吃音について、ゼロではなかったにせよ必要以上に粒立てて嘲笑するようなシーンが無かったのもよかった。タクヤが無駄に卑屈になるような人間性でなかったのも、そばには常に素晴らしい友達がいたのも良かった。意地の悪いシチュエーションなんて脚本的に書こうと思えばいくらでも書けるのにそうしていなかった。これは決して理想ではなく、どこかにあるはずの現実のひとつだと信じられる。

高貴な雰囲気をたたえながらも綺麗で、複雑な胸の内を表情で物語らせた中西希亜良。

この生まれ持った気品と透明感は、清原果耶を初めて見たときに抱いた印象に近い。言葉数は多くないのに思春期にさしかかる少女ならではの大人びた感傷が確実に表現されていた。スケーティングも存在感も説得力がある美しさだった。

素直で愛くるしいタクヤを体現していた越山敬達。流麗に話せることがイコール伝わる深度ではないと証明してくれる。朴訥と、でも一生懸命に絞り出して大切に言葉を発するタクヤには本当に心が洗われる気持ち。素直で健気で感謝をていねいに言葉にできる彼がこの映画の雰囲気を醸成していた。

そしてふたりを見守る池松壮亮の温かいまなざし。役者のなかで一番好きな声。柔軟な役者さんだなあ。器用とはニュアンスが違う。柔軟。いつも池松壮亮のお芝居を見るとそんな柔らかさとしなやかさを感じる。若葉竜也との親和性も高い。池松くんといえば野球なのでキャッチボールシーンも嬉しかった。

大人の挫折と再生。
脆くて儚い少年少女の恋や憧憬。

名前や説明のつかない感情を覚えながらも前を向いて生きていく登場人物たちがまぶしかった。

タクヤとさくら。ふたりの笑顔がこぼれるたびそこに陽だまりが生まれるような優しさに包まれた。雪解けが射すラストシーンにも魅了された。日本映画史に残るレベルの忘れられないワンシーンでは?とすらと思った。
観てよかった。

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ふぬけ
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